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 Windows Vistaは,紆余曲折の多い製品である。元々中継ぎとして登場した「Longhorn」(Windows Vistaの開発コード名)だが,米Microsoftによって一時的に「革新的な存在」に持ち上げられたものの,期待の新機能がことごとくキャンセルされたため,今では「見た目が変わる新OS」ぐらいにしか思われていないのが実情だ。今回の記者の眼では,「Windows Vista紆余曲折の歴史」を振り返るとともに,Windows Vistaの実像を見つめ直してみたい。

開発コード名からして「中継ぎ」

 時はWindows XP発売前の2001年にまでさかのぼる。当時,Windows XPの後継バージョンは「Blackcomb」という開発コード名で呼ばれていた。しかし米Microsoftは2001年7月(Windows XP発売の4ヵ月前),Blackcombの開発を延期し,「中継ぎ」として「Longhorn」をリリースすることを決めた。Longhornは当初,2002年末~2003年にリリースされる予定だった(過去記事「 Windows XPの後継OS「Blackcomb」を2003年以降に延期,中継ぎ版を2002年にも投入へ」)。

 Longhornは開発コード名からして「中継ぎ」だ。Microsoftは伝統的に,OSの開発コード名に地名を選んできた。しかしLonghornは,Windows XPの開発コード名である「Whistler」(カナダのスキー場の地名)と,Blackcomb(Whistlerに隣接するスキー場の地名)の中間にあるレストラン・バーの名前でしかない。詳しくは「Longhorn名称由来の地を訪ねる」という記事をご覧頂きたい。

革新的OSに格上げされるも新機能の断念相次ぐ

 「中継ぎ」だったLonghornは,2003年11月のソフトウエア開発者会議「PDC 2003」で「最終目的地」へと格上げされる。MicrosoftはLonghornに,(1)既存API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)「Win32」を置き換える新API「WinFX」,(2)新しい画面描画機能「Avalon」,(3)Webサービスの通信基盤「Indigo」,(4)SQL Serverをベースにしたストレージ管理システム「WinFS」,(5)ハードウエアと連携してセキュリティを強化する「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」,(6)新シェル「Aero」---という重要な新機能を搭載すると発表したのだ。

 しかし,2004年から2005年にかけて,MicrosoftはLonghornことWindows Vistaの出荷スケジュールを何度も延期するとともに,新機能の搭載を次々と断念した。まず,Win32を置き換えるはずだったWinFXは,当初の構想をスケールダウンした形で「.NET Framework 3.0」となる。しかも,現行OSであるWindows XPとWindows Server 2003にも,Avalon(Windows Presentation Foundation)やIndigo(Windows Communication Foundation)とともに提供されることになり,Windows Vista独自の新機能ではなくなった。WinFSとNGSCBは,開発そのものを断念した。Windows Vistaの新機能という位置付けが今でも変わらないのは,新シェルの「Aero」だけである。

真価は「地味な改良点の積み重ね」で問われる

 結局のところWindows Vistaは「5年振りのメジャー・アップグレード」であり,それ以上の存在にはならないようだ。記者はこれまで,手持ちのパソコンのOSを2回アップグレードしたことがある。Windows 3.1ではWebブラウジングが難しいのでWindows 95にアップグレードした。Windows Meはあまりに不安定だったのでWindows 2000に入れ替えた。Windows XPとWindows Vistaの間には,これらほどの劇的な違いはない。

 Windows Vistaがユーザーに認められるか否かは,「ユーザーの苦痛を減らす」といった地味な改良点をどれだけ積み上げられるかにかかっているだろう。Microsoftも,これまではユーザー・インターフェースなど見た目にかかわる派手な変更点ばかり紹介する傾向があったが,5月の「WinHEC 2006」や6月の「TechEd 2006」から,ようやく地味な基本機能についての改良点を紹介するようになった。

 そのいくつかを,「インサイドWindows」の著者であるDavid Solomon氏とMark Russinovich氏がTechEd 2006で行ったセッション「Windows Vista: Kernel Changes(Windows Vistaのカーネル変更点)」から紹介してみよう。

 記者にとって特に印象深かった改良点は,(1)ファイルI/Oのキャンセルが可能になったこと(I/O Cancellation),(2)ファイルI/Oに優先度を付けられるようになったこと(I/O Prioritization),(3)クライアントPCでVolume Shadow Copyが利用可能になったこと---であった。いずれも,現状のWindows XPで感じているイライラを緩和してくれそうだ。

 (1)は,「ファイルを開く/保存する」といった動作を取り消せる機能だ。例えばWindows XPだと,ファイルの保存場所に誤ってオフライン状態の共有フォルダを指定すると,エクスプローラの応答がしばらく停止してしまう(ハングする)。これは,共有フォルダがオフライン状態であると判断するのに時間がかかるからだ。Windows Vistaであれば,ハングが起きても,アプリケーションを終了させずにファイル操作を強制的にキャンセルできる。Windows Vistaには他にも,ハングを減らす機能がいくつも搭載される(「【TechEd速報】Windows Vistaには「ハングを減らす技術」が搭載される」)。

 (2)は,アプリケーションやサービスごとにファイルI/Oに優先順位を付けられる機能だ。これまでは,ディスク・デフラグ中はアプリケーションの動作が異常に重くなったし,Windows Media Playerで音楽や動画を再生中に他のアプリケーション操作を行うと再生が途切れることがあった。Windows Vistaでは,デフラグ・サービスのI/Oの優先順位は低く,Windows Media PlayerのI/Oの優先順位は高くなる。デフラグ中でも他のアプリケーションが快適に使えるし,音楽や動画の再生は途切れにくくなる。

 (3)は,ファイルの変更履歴を常に記録し続けることで,削除したり上書きしたりしたファイルでも,後からいつでも復元できるようにする機能だ。Windows Server 2003に既に搭載されている機能だが,クライアントOSでも使えるようになる。

 これらはいずれも地味ではあるが,カーネルを含めて全面的に見直すメジャー・アップグレードならではの改良点である。セキュリティ強化やIPv6の標準対応などもそう言えるだろう。こういった改良が「5年振り」なのは明らかに異常事態だが,改良そのものの価値が下がるわけではない。

 ITproでは「Windows Vistaフォーカス・サイト」で,Windows Vistaの新機能を継続的に紹介している。今後も参考にして頂きたい。

【Windows Vistaの新機能一覧】第1回---基本機能とセキュリティ
【Windows Vistaの新機能一覧】第2回---ネットワークとサーバー連携機能
【Windows Vistaの新機能一覧】第3回---付属ツールやエンターテインメント機能