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 03=東京+クラスAの音質−−。03とは電話番号の市外局番のことである。03-XXXX-XXXXという電話番号は,地域が東京23区(狛江市や調布市,三鷹市の一部も含まれる)であり,音声品質区分が最上位のクラスAであるという意味になる。これが今,“インターネット電話への転送”によって揺れている。

 03-XXXX-XXXXという電話番号は,「0AB~J番号」と呼ばれる。0AB~Jなどというと難しく聞こえるが,なんのことはない,従来の「市外局番+局番+番号」といった普通の電話番号のことである。音声品質クラスAといっても,IP電話という音質が劣るサービスが登場したため区分けしただけである。音質が向上したわけではない。


電話番号は音質を表す

 IP電話が登場したとき,割り当てる電話番号をどうするかについて議論された。その結果,従来の固定電話並みのクラスAの音声品質や機能を持つならば,IP電話でも0AB~Jを使えることになった(表1)。そして,クラスCの音声品質ならば「050番号」を割り当てることになった(ちなみに,クラスBは携帯電話)。

表1●番号体系と音質や地域の関係

番号体系 0AB~J番号 050番号 080/090番号
用途 加入電話/IP電話 IP電話 携帯電話
音声品質 クラスA クラスC クラスB
地域 固定 任意 任意
通話料 通信距離別 全国一律 全国一律

 いったん,落ち着いたかに見えた電話番号問題であるが,Skypeをはじめとするインターネット電話の本格的な利用が始まり,新たな課題が出てきている。インターネット電話とは,一般のインターネットを介して電話することで,プロバイダが音声品質などを保つためにネットワークを制御しているIP電話サービスとは明確に区別されている。インターネット電話でも,ある程度の音声品質で利用できるものの,それはプロバイダが担保しているわけではない。このため,インターネット電話には,電話番号を割り当てられないのが総務省の方針である。

 とはいえ,実用可能なインターネット電話を活用したいユーザーは多く,当然,一般の電話とも電話できるようにしたくなる。インターネット電話から一般の電話への発信は,電話番号が割り当てられていなくても実現可能である。しかし一般の電話から着信するには電話番号が不可欠。そのため,転送によってインターネット電話に着信させるという動きが盛んになりつつある。0AB~J番号などの回線でいったん電話を受け,あらかじめひもづけておいた特定のインターネット電話に転送するという方法である。


転送のジレンマ

 このような動きを受けて,総務省は6月末にまとめた「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会」の報告書の中で(参考記事),インターネット電話への転送についてのガイドラインを示している。インターネット電話に転送するときは,いったんその電話を0AB~J番号や050番号で受け,転送する旨のガイダンスを流してから着信させるというものである。つまり,「インターネット電話という音質が劣る電話に接続する」ことを発信者にあらかじめ知らせる必要がある,ということである。

 すでにこのガイドラインを先取りした形で,フュージョン・コミュニケーションズは2006年2月1日からトライアルの位置づけで,050番号でSkypeに着信できるサービス「Multi-Gateway for Skype」を提供している。同社のIP電話サービス「FUSION IP-Phone」のユーザー向けである。

 ところが,0AB~J番号からガイダンスなしでインターネット電話へ着信できるサービスの提供を表明するプロバイダもある。この背景には,従来の転送サービスへのプロバイダの認識/思い込みと,総務省のガイドラインに納得しにくい部分があるという事情がある。さらに,ガイドラインというだけで,法的に規定しているわけではないことも混乱につながっている。

 転送サービス自体,歴史は長い。NTT東日本/西日本の「ボイスワープ」では,0AB~J番号にかかってきた電話を,音質が劣る携帯電話やIP電話に転送する場合でもガイダンスは必要ない。電話番号が付与されている通信事業者やプロバイダが管理している電話サービスへの転送ならば,0AB~J番号や050番号でいったん受けることなく“直接転送”が可能なのである(図1)。

図2●転送先によって転送の方法が異なる
IP電話などに転送する場合は直接転送が可能。インターネット電話に転送する場合は,その旨のガイダンスを流す必要があるが,ユーザー側で転送するならばガイダンス不要である

 転送先がインターネット電話の場合だけ,音質が担保されていないことを理由にガイダンスが必要といわれても理解しにくい。その番号にかけたユーザーにしてみても,「インターネット電話に転送します」といわれても,それがどのような意味を持つのか理解できる人は少ないだろう。また,電話をかけるたびに毎回,同じガイダンスが流れるのは,ユーザーからすれば煩わしいだけである。

 同じようにインターネット電話に転送する場合でも,プロバイダではなくユーザー側で転送するならばガイダンスは不要ということが,さらに話を複雑にする。確かに,ユーザーが自社の設備で実施することまで総務省が制限すると,それはそれで非難の声が上がる可能性がある。しかし,電話をかけたユーザーからすれば,転送処理をプロバイダとユーザーのどちらが実施しようと関係ないことである。かといって,プロバイダがガイダンスなしで直接転送することを認めると,実質的にインターネット電話に電話番号を付与したことになってしまう。総務省自身もこの辺にジレンマを感じている。

 0AB~J番号の市外局番による地域判別も崩れてきている。従来の転送サービスは,電話回線を引いてあるところに電話機を設置してそれを日常的に利用し,業務の都合などで一時的にほかの場所にいる場合に,そこでも同じ番号で電話を受ける目的で利用する形態が一般的である。しかし,インターネット電話への転送サービスでは,0AB~J番号のところに電話機はない場合がほとんど。実際に着信するインターネット電話は,全国のどこにあるかはわからない。

 03-XXXX-XXXXが,「東京」「音質がよい」を示すことを今後も維持し続けるのは難しい。かといって,安易にこれを崩すわけにいかない。固定通信と移動通信を融合するFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスの本格化も近づいている。電話番号について,今後も関係者を悩ませることになるだろう。

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 なお,0AB~J番号の割り当てには,警察や消防などに連絡する緊急通報機能も必要となる。具体的には,(1)発信者を管轄する都道府県警察本部などに接続できる,(2)通報者の位置が特定できる,(3)通話状態を保持,あるいは発信者番号を使って警察側から呼び返せる,(4)IP電話網内で緊急通報を優先して接続する−−である。これについては,今回は省略した。