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 法人向けのITサービスを提供するソリューションプロバイダが,久しぶりの業績回復を果たしている。

 2002年2月から続く日本の景気拡大局面は,4年6ヵ月目に入り,継続期間では戦後2番目の記録を更新中だ。その中で,ずっと景気回復の波に乗り損なっていたのがITサービス業界だった。

 しかし,主要ソリューションプロバイダ各社の2005年度決算(2006年3月までの1年間に迎えた決算を指す)は,「4年ぶりの復活」と呼べるような好調さを取り戻した。日経ソリューションビジネス誌が,売上高100億円以上のソリューションプロバイダを対象に毎年まとめている業績調査から,この5年ほどの動向を紹介しよう。


「業界の縮退」と「利益なき繁忙」の4年間

 まず,2000年に起ったITバブル崩壊を受け,ITサービス企業の業績に陰りが見えたのが2001年度のことだった。当時の調査対象企業150社で見ると,平均の売上高伸び率はプラス1.8%にとどまった。2000年度に記録したプラス11.3%から大幅の減速だ。利益水準も横ばいにとどまった。

 続く2002年度に,ITサービス業界は大きな試練を迎える。平均の売上高伸び率がマイナス2.4%,同じく平均の経常利益伸び率もマイナス5.1%と,ついにマイナス成長に落ち込むのである。バブル崩壊以降も右肩上がりで伸びてきた業界が初めて経験する,歴史的なITサービス市場の縮退だった。

 2003年度は,ITサービス市場の反転に期待がかかった。2003年春に8000円を割り込んでいた日経平均株価が12月末には1万500円まで回復するなど,日本経済の回復に対するコンセンサスも得られていた年だった。実際に,ソリューションプロバイダの業績調査の結果も,売上高伸び率がプラス1.0%,経常利益の伸び率がプラス11.1%と,回復局面にあることを裏付けた。

 しかし2004年度決算ではこの期待も裏切られる。対象企業の平均の売上高伸び率はプラス1.4%と緩やかに上昇したものの,経常利益の伸び率がマイナス0.7%と低迷したのである。この当時,ITサービス業界の関係者から聞かれた言葉が「利益なき繁忙」。ITサービス市場の需給はひっ迫し,忙しいにもかかわらず,価格競争が止まらないという,奇妙な現象が業界を覆っていた。

 「ついにITサービスは構造的な不況を迎えたのか」−−。こんな悲観的な観測を払しょくしたのが,今回の2005年度の調査結果だ。対象企業の平均の売上高伸び率はプラス1.9%,経常利益の伸び率はプラス16.2%。売り上げと利益の両面で,ITサービス業界の業績回復が達成されたのだ。調査の詳しい内容は,「2005年度 ITサービス企業 業績分析」で紹介しているので,ぜひ参照していただきたい。

 企業のIT投資意欲は引き続き強く推移していることもあり,業績の回復局面は今年度も続いている。一部に悲観論もあるが,2007年度まではこの傾向が持続しそうだ。


ITサービス企業は“3K職場”になったのか?

 ITサービス業界は,「市場の縮退」と「利益なき繁忙」という4年余りの試練を乗り越え,復活への力強い歩みを始めた。

 しかし,記者の私見も交えると,今の姿は,右肩上がりの成長を続け絶好調だった2000年までのITサービス業界とはとても重ならない。この5年の間で,経営環境が大きく様変わりし,業界が失ったままのものも大きいからだ。

 その一部は,業界の努力で取り戻せるかもしれない。しかし,時計の針を昔に戻して,昔のような成長路線をたどるのは容易ではないと思う。

 ITサービス業界から「失われたもの」の1つは,業界に対する若者からの好感度である。就職を控えた若者の間で,今やITサービス業界に対する人気が凋落し続けているのだという。

 かつて,若者がITサービス業界に抱いていた「成長業種で,勢いがある」「実力次第で,見返りがある職業」という好意的な見方は後退。最近では,「忙しい割には報われない業種」とのイメージが強まっている。

 「数年前から,ITサービス業界を“ニュー3K”職場と呼ぶ声が出てきた。こんな現状に,怒りすら感じる」。こう語気を強めるのは,住商情報システムの阿部康行社長だ。3Kの意味は,「キツい,帰れない,気が休まらない」,あるいはこれらに代わって「給料が安い」「キリがない」が入るなど,諸説がある。

 富士ソフトで組み込みソフト開発部門を率いる幹部は,「3Kは,全くの誤解と言っていい。ピーク時は別として,平時は夕方に帰宅しているスタッフも多い。仕事の内容も,昔ながらのマシン語と格闘しているようなイメージとは様変わりしている」と語る。

 ITサービス業界をキツいとする見方は昔からあった。果たして,この5年の間に実態に拍車がかかったのか,真偽のほどは分からない。いずれにしろ,不況期を経て,若者のITサービス業界への見方が変わったのは事実だ。現状を放置すれば,優秀な学生がITサービス業界を避ける傾向がますます強まるだろう。

 加えて言えば,「IT」という言葉で世間が想起するイメージも,この5年間で大きく様変わりしたように思う。5年前に日本で「IT業界」といえば,その一角を確実にコンピュータメーカーやソフトベンダー,ソリューションプロバイダが占めていた。

 しかし,今や「IT企業に務めている」「IT企業の社長」という文脈で世間が真っ先にイメージするのは,ほぼネットビジネスか,携帯電話向けコンテンツを手掛ける企業だ。世間の「IT」に対する語感の変化を先取りするように,業態を転換させてきた代表的な“旧ITサービス企業”が,Web制作やデータセンター運営から,ポータルサイト運営に乗り出したライブドアだったというのも示唆に富む(もっとも,「ライブドアはIT企業ではなく,金融会社」という“現IT企業”サイドからの指摘も多い)。


人手不足で崩れる成長神話

 この5年間で「失われたもの」の2つ目は,ITサービス業界の成長性だ。

 先の調査で紹介したように,2005年度におけるITサービス業界の平均成長率は,プラス1.9%と名目GDP(国内総生産)並みの伸びにとどまった。ITサービス業界が売り上げより利益優先の経営に舵を切ったことが背景の一つだ。多くの経営者が「利益を確保するため,案件や顧客の選別を進めた」と口をそろえる。

 しかし今後は,ITサービス業界が成長を求めたとしても,顧客の選別を迫られるかもしれない。少子化の傾向に「ITサービス業界の人気凋落」が加わり,業界の人材不足が深刻化しているからだ。

 企業のIT投資は,今後は著しい伸びを示す可能性もある。大和総研の上野真シニアアナリストは,2005年度下期に回復局面に入ったIT投資が「伸び率では2008年度まで設備投資を上回り,7~8%台で推移する」と見る。それどころか,ITサービス業界の受け入れ態勢があれば,2ケタ成長を優に達成できる実需が生まれるとさえ予測する。

 しかし,かつてのような右肩上がりの成長シナリオを描けるソリューションプロバイダは少ない。既に金融業界向けでは,顧客の旺盛な引き合いに応えられず,一部の仕事をやむなく断るケースも続出している。「攻めに出たいが,人を抱えるリスクはITバブル期に思い知った。そもそも新人・経験者を含め,募集をかけても人が集まらない」−−。あるソリューションプロバイダ幹部の述懐から,売り上げをマンパワーに依存する典型的なITサービス企業の限界が見える。

 ITサービス業界がこの5年間で失ったものは,まだまだありそうだ。考えがまとまらなくて恐縮だが,「そもそも,顧客がITに価値を求めなくなった」という話はよく聞く。「顧客は『業務にどのように貢献するか』で,我々が提供するサービスの価値を測る姿勢を強めている。それを示せない,単なる“ITサービス”ならば,最も安くできる企業に発注するだけだ」−−。ニイウス コーの末貞会長はこう語る。

 こうした顧客に対し,BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)のように,顧客の業務プロセスまでサービス化する取り組みはある。いずれにせよ,業務への貢献で価値を測る考え方が主流になれば,従来型のITサービス産業は,不完全な商品を提供する業界という見方が強まるだろう。

 こう考えて見ると,ITサービス業界の復活劇は手放しで喜んでもいられないように思う。今の好況期こそ,「ITサービスは顧客に何を提供するのか」を自らに問い,経営を改革する残されたチャンスといえそうだ。