PR

 『日経情報ストラテジー』9月号(7月24日発売)で,「日本版SOX法 8つの誤解」という特集記事を執筆した。金融商品取引法(いわゆる「日本版SOX法」)によって,2008年4月以降に始まる事業年度から,財務報告の内容の適正性を確保するための組織体制,すなわち「内部統制」の整備が,上場企業に義務付けられる。今回,法対応に取り組む企業を10社程度取材した。

 内部統制といえば,「業務フロー図(フローチャート)やリスク・コントロール・マトリクス(RCM)をどう作るか」「情報システムをどう活用すべきか」といった技術面に目が行きがちだ。しかし,いくら完ぺきな業務フローや情報システムを作り上げたとしても,それに沿って仕事をする社員(派遣社員やアルバイトなども含む)が付いていけなければ意味がない。それでなくても,内部統制を重視した業務フローでは,チェック作業が増えたり,「物品購入理由」といった細かな記録を残したりと,社員にとって面倒な作業が増える。利益や達成感に直結しない作業に対して,やる気がわかない社員も多いだろう。


日報をベースにした情報をWebで開示

 この問題に対する1つの解は,顧客や株主,取引先など外部の目を入れることだ。

 ネット専業証券大手であるカブドットコム証券の齋藤正勝社長は,「どこの企業でも,一番厳しく業務をチェックしてくれるのは,社内よりもお客様や株主だ。チェックしてもらうための枠組みを作るのが,内部統制のために本来やるべきことだ」と話す。

 顧客や株主にチェックしてもらうためには,情報開示(ディスクロージャー)が必要になる。実際,カブドットコム証券のWebサイトに行くと,財務情報だけではなく,システム障害の状況や,その月に顧客から届いた要望など,かなり詳細な情報を開示している。

 開示を前提として社内の情報を整理するために,カブドットコム証券の社員は,毎日10分程度かけて日報を書く。電話オペレーターなら,その日の顧客からのクレーム件数やその内容,事務処理担当者ならその日の処理件数・ミス件数などを書き込む。この日報をまとめて,課ごとに週報を作成。さらに週報をまとめて部ごとに月報を作成し,これをベースにした情報を開示する仕組みだ。

 日報がある企業は多いが,社員にとって日報を書くのは面倒な作業だ。多少クレームがあっても「クレームなし」と書くなど,記述が正確でないケースも多いだろう。しかし,カブドットコム証券の場合,「日報は開示につながることを社員に説明しているので,みんな一生懸命書いてくれる」(齋藤社長)という。


開示することで情報入力が正確に

 ヤマト運輸グループのリース会社であるヤマトリース(東京・豊島)の小佐野豪績社長からも,同様の話を聞いた。同社はリースの審査状況などを顧客別に開示する情報システムの構築を計画している。「お客様にとっての付加価値という側面もあるが,社員が入力する情報の精度を上げることを狙っている」(小佐野社長)。

 この計画は,過去の成功体験から来ているという。小佐野社長は,昨年ヤマトリースに出向するまで,ヤマト運輸の情報システム部門にいた。そこで,今では他の運送会社でも当たり前になっている「荷物お問い合わせシステム」を作った。Webサイトで伝票番号を入力すれば,誰でも荷物の所在情報を調べられるものだ。

 このシステムは顧客サービスの向上に加えて,別の効用をもたらした。1日何百万個の宅配便を扱うヤマト運輸では,社員が荷物の所在情報をきちんと入力していないこともあった。このため,Webサイトで所在情報を開示すると,顧客から「情報が間違っている」という問い合わせが来るようになった。こうした顧客からの指摘を受けて社員の意識が変わり,所在情報が正確に入力されるようになったという。「結局は,情報を開示することが本当の内部統制につながる」(小佐野社長)。

 2人の社長の話は,日本版SOX法が求める「財務報告にかかわる内部統制」に直接関係するわけではないが,内部統制の本質を表しているように思う。顧客や株主などの社外に対して隠さなければならないことが多いようでは,フローチャートを書くなどの形式的な対応をいくら進めても,内部統制は機能しない。逆に,社外に対して情報開示すれば,内部統制に対する社内の意識を喚起できる。

 カブドットコム証券の齋藤社長はこれを「部屋の掃除」に例えていた。「(外部の目が入るので)当社は毎日掃除をしている。毎日掃除しているから,業務プロセスや社内の状況が“きれい”になっている」(齋藤社長)というわけだ。

 ちなみに筆者の自宅はというと,独身で誰の目にもさらされないため,物が散らかって足の踏み場もない有様である。人に隠したい物もあるかもしれない。最近,両親が田舎から上京して部屋を見に来たが,その前週末と平日夜を使って必死になって掃除した。齋藤社長の言葉通り,これからは毎日掃除しなければと思う…。