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 米Microsoftが7月に発表した新ブランド「Zune」は,携帯音楽プレーヤと音楽配信サービスを結びつけた垂直統合型の音楽ビジネスになるようだ(関連記事:「iPodキラーになれるのか?」,ベールを脱ぎ始めた「Zune」に沸くメディア)。これまで携帯音楽プレーヤと音楽配信サービスの提供をサード・パーティに任せていたMicrosoftにとって,Zuneは大きな方針転換になる。筆者は率直に言って,この方針転換に失望した。

 筆者は,デジタル音楽配信に関する従来のMicrosoftの方針を,それなりに評価していた。Microsoftは現在,デジタル音楽用の音声圧縮技術(Windows Media Audio)や著作権管理技術(Windows Media DRM)をサード・パーティにライセンス供与するだけで,音楽配信サービスや携帯音楽プレーヤの製造・販売は,他のベンダーに任せていた。

 著作権管理技術であるWindows Media DRMの最新版(バージョン7x/9/10)が,Windows OSにしか対応していないことが不満ではあったが(関連記事:LinspireがWindows Media 9をサポート,ただしDRMはMicrosoftがライセンス供与を拒否),音楽配信サービスや携帯音楽プレーヤの選択肢をユーザーに提供していることを,筆者は評価していた。

 もちろん,読者の皆さんもご存知の通り,選択肢が豊富にあるということが,ビジネス的な成功につながらなかったのも事実である。デジタル音楽ビジネスの圧倒的な勝者は,音楽配信サービスの「iTunes Music Store(iTMS)」と,音楽再生/管理ソフトの「iTunes」,携帯音楽プレーヤの「iPod」を垂直統合的に提供する米Appleだ。

 iTMS,iTunes,iPodは,個々の製品・サービスとしての競争力も高い。例えば,iTMSは配信されているコンテンツの質や量,DRM関連の全般的な緩さ(CDに書き込める,コンテンツを同時5台まで利用できる)などで優位性がある。iTunesは使い勝手,iPodは価格の安さやデザインなどがそれぞれ優れている。さらに,これら3つの製品・サービスが統合されていることが,ユーザーの利便性を上げている。iTMSで購入したコンテンツをiTunes/iPodでしか再生できなくすることで,ユーザーの囲い込みにも成功している。

 一方のWindows DRM陣営の場合,音楽配信サービスや携帯音楽プレーヤの使い勝手は,ベンダーによってバラバラだ。特に音楽再生/管理ソフト「Windows Media Player(WMP)10」と音楽配信サービス(サイト)の連携があまり良くない(これはWMPでWebページを表示しているだけなのが悪いのだろう)。ダウンロードした単体のWMA(Windows Media Audio)ファイルをどこに保存すればよいのか,展開後のWMD(Windows Media Playerダウンロード・パッケージ)ファイルを削除しても大丈夫なのか,筆者はいまだによく理解できていない。

 Appleの成功と従来の戦略の失敗を考えれば,Microsoftが「音楽配信サービスから携帯音楽プレーヤまで垂直統合的に製品・サービスを提供しなければ,iTMS/iTunes/iPodに追い付けない」と考えるのは自然だ。またZuneの担当者は,Xbox 360のチームから移ってきた人たちらしい。Xbox 360用のオンライン・サービス「Xbox Live」の成功体験を,音楽分野にも移植しようと考えているのだろう。

「Xbox Live」を範とするならあなどれない

 筆者もXbox Liveを少し試したことがあるが,その完成度の高さには正直びっくりした。試した時期はちょうど米国のゲーム展示会「E3」の直後だったのだが,MicrosoftによるE3での基調講演の動画が,Xbox Liveですべてダウンロード可能になっていた。またHD(High Definition)品質のアニメの無料配信なども行われていた。しかも動画のダウンロードなど,すべてリモコンによる操作が可能で,ネットワーク設定などを除いてマニュアルを見る必要は全くなかった。

 筆者は,まだまだ未来のことだと思っていたリビング・ルームでのビデオ・オン・デマンドの姿が,Xbox Liveで既に実現していたことに衝撃を受けた。この使い勝手の良さは,Xbox Liveがコンテンツ配信サービスから再生プレーヤまでを,一社ですべて提供する垂直統合型サービスだからだろう。

 Xbox Liveの完成度を考えると,iTMS/iTunes/iPodに対抗しうる垂直統合型の音楽製品・サービスをMicrosoftが作り出すのは,決して不可能ではないと思える。優れた製品・サービスが増えることは,一消費者として喜ばしい。しかし,一音楽ファンとして,どうしても複雑な思いを抱いてしまう。

技術によるコンテンツの囲い込みは勘弁してほしい

 つまり,「コンテンツの機種依存」や「技術によるコンテンツの囲い込み」といった,パソコン・ビジネスやゲーム機ビジネスに存在する野蛮な風習を,音楽ビジネスに持ち込んでほしくないのだ。

 筆者は,デジタル音楽配信には期待している。iTMSが日本でも開始された直後(2005年8月)に,自分の好きな「ZAZEN BOYS」というバンドがアップル・ストア渋谷店で行った店内ライブの音源が,iTMSで900円という低価格で即座に発売された時には,「こういったCD化しづらい音源を発売することにこそ,デジタル音楽配信の意義がある」と感心し,即座に購入したものだ。

 それでも,この音源がiTunesやiPodでしか再生できないことに,引っ掛かりを感じた(iTMSで購入した音源を一度CD-Rにコピーして,それをパソコンに取り込むという手間をかければ,他のプレーヤでも再生できるのだが)。ZAZEN BOYSの向井秀徳氏は,前所属バンド「ナンバーガール」時代に,レコード会社の意向に反してCCCD(コピー・コントロールドCD)でのリリースを拒否していたと聞く。iTMSについては,どう思われたのだろうか。

 筆者のスタンスは,DRMを使うならなるべく業界標準のオープンなものにして,DRMによるコンテンツの囲い込みを避けてもらいたい,というものだ。だから,Microsoftが現在推進しているWindows Media DRMの取り組み(PlaysForSure)も,他のOSに技術を提供していないという点で,許容範囲ではない。そして,Zuneのような垂直統合型製品・サービスに移行するのは,さらに良くないと思っている。だから,Zuneに関してMicrosoftに失望した。

 願わくば,Zuneブランドの音楽配信サービスで購入した楽曲は,他のプレーヤ(ソフトウエア,ハードウエアを含む)で再生できるようにしてほしいし,Zuneブランドの携帯音楽プレーヤでは,他の音楽配信サービスで購入した楽曲も再生できるようにしてほしい。Windows Media DRMを,もっと多くのプラットフォームに開放してほしい。

 そうならなかった場合,筆者は音楽CDという規格が死に絶えるまで,CDだけを買い続けたいと思っている。皆さんは,どう思われるだろうか?