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 「自社のためであるはずの情報システムを,ITベンダーの製品に合わせて開発しなくてはならない現状を,ずっと疑問に感じていた」――。情報系システムを1年半がかりで刷新した,金融系大手ユーザー企業の担当役員はこう語った。筆者はこの一言に,ユーザー企業がベンダーに対して抱いている不信感が象徴されている,と感じている。

 今,ITベンダーのこのような姿勢に,疑問を抱き始めているユーザー企業が少なくない。実際,日経コンピュータ8月7日号で実施した顧客満足度調査では,そのような声が多く聞かれた。

 都内に本社を構える中堅メーカーの情報システム部長はこう漏らす。「あるベンダーの営業担当者は,新しいブレード・サーバーの販売を開始したから使いませんか,という。そのような発想で製品を売り込まれても,当社のためになるとはとても思えなかった」。中堅ゼネコンの情報システム部長は,「サーバーのリプレースに伴って提案を募ったら,無停止サーバーを提案された。当社の業務ではそこまでの障害対策は必要ない,と突っぱねた」と明かす。

 こういった,ユーザー企業の担当者が思わず眉をひそめてしまうような提案活動が日常化してしまい,ベンダーに対する信頼感を損ねている。ベンダー担当者が必ずしも,ユーザー企業のことを第一に考えて新規提案や製品情報を持ってきているわけではないことを,多くのユーザー企業担当者は気付いている。


パートナーではなくなったITベンダー

 20年近くも情報システムにかかわってきたシステム部長からすると,こういった現状は,苦々しく映るようだ。「以前は,一つのシステムを構築するまでに,方針を巡って激しく議論したり,夜を徹してテストに没頭したりと,我々ユーザー企業とベンダーは共に苦労した。(ベンダーの)ベテランSEによく叱られたものだ」。大手不動産管理業の情報システム部長は,懐かしそうに話す。今はベンダーとの距離が遠く感じる,という。「われわれユーザー企業の立場に立って,システムの提案や設計をしてくれる営業やSEは,本当に少ない」。

 その一因となっているのは,大手ベンダーを中心に取り組んでいる,過去の成功事例や実績のテンプレート化ではないか,と筆者は考えている。企業規模や業種に合わせて,大きなブレがない提案活動を展開し,全体の品質を底上げするのが狙いである。提案書のひな型や,ソフトウエア部品,フレームワークなどがそうだ。人材育成が進んでいない状況であっても,売り上げ拡大が急務であるITベンダーにとっては,避けて通れない取り組みだろう。

 本来であれば,こういったベンダーの取り組みは,ユーザー企業にとっても歓迎すべきことであるはず。優秀な営業担当者でなくても,それなりに魅力的な提案を受けることができるようになるからだ。実績がある高い品質の技術や製品を使うことができ,かつ,他社のシステム構築で培われたノウハウを安価に利用できるのは大きな魅力に違いない。

 しかし実際には,ユーザー企業の不信感を募らせる結果になっている。ベンダーがテンプレートに依存するあまり,ユーザーへの個別対応力を失っているだめだ。ベンダー担当者は,ユーザー企業が抱える個別の課題や業務の実態を踏まえないまま,「このくらいの規模のユーザーなら,ブレード・サーバーで運用負荷を下げたいのではないか」,「建設業なら他社同様,業務を止めないことを重視するはず」と考えるようになってしまっているのだろう。

 考え方や行動までテンプレート化してしまった。「もっと意見を交わして,いいシステムを構築したい」と考えるユーザー企業にとっては,ベンダーの背中は遠のくばかりだ。


ベンダー担当者に求められるのは“自律”

 景気が上向き,ユーザー企業の多くは,“攻め”に転じようとしている。いかに製品やサービスを,他社にない魅力的なものにしてくか。そのための道具の一つが,情報システムなのである。情報システムは,コスト削減のためだけの道具ではなくなりつつある。ある意味,他社と横並びであるテンプレートをそのまま適用されれば,ユーザー企業が違和感を憶えるのも無理はない。

 誤解していただきたくないが,何もテンプレートが悪いといっているわけではない。それはあくまで提案書や構築するシステムのベースにすぎないと心得るべきだ。テンプレートを使いつつも,提案先のユーザー企業が抱える課題や業務実態に沿った提案をし,御仕着せではないシステムを構築する力が求められている。

 そのために必要なのは,営業担当者やSEが自律的に考え,行動する力なのではないだろうか。契約上取り決めた作業が終わったらすぐに帰社,ではなく,「最近,システムの稼働状況はいかがですか」と一言聞く。そんなささいなことの積み重ねが,ユーザー企業との信頼関係を作り上げる。

 ある外資系ホテルはサービスの信条として,従業員に「自分で判断し行動すること」を求めているという。

 今回実施した顧客満足度調査のシステム構築や運用に関するサービスの部門において,国産ベンダーは揃って不振だった。もう一度,顧客視点に立ち返るべきだろう。