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 それでは情報化の理想型は何か。ユーザー企業ができる限り,自分で取り組むことである。情報システム開発を例にとれば,要件定義,設計,プログラム開発,テスト,機種選定,システム環境の整備,データ移行,システム運用・保守,利用者教育まで,すべて自分で責任を持って実施する。ビジネスに合致した情報システムを開発し,動かしていくには,自分でやるのが一番早く,柔軟な対応が可能で,しかも安上がりなはずだ。アウトソーシングやソフト開発の外注,パッケージ・ソフトの利用は一種の必要悪であり,理想型ではない。本コラムの題名にした質問に対する答えは,「ユーザーはITプロフェッショナルであるべき」となる。

 こう主張すると,ユーザー,ITベンダーの双方から「非現実的」と批判を受けるに違いない。しかし,米国のユーザー企業の中には,数千人の情報システム部員を抱え,自力で開発・運用しているところがある。米グーグルに至っては,ハードウエアの設計まで自力で手掛けている。グーグルはITをフル活用した広告会社であり,立派なユーザー企業である。

 先に書いたように,理想型はなかなか実現できない。確かに,これだけ広範囲な仕事をする人材をすべてユーザーが雇用することは難しい。技術が複雑になってきた今,ユーザーが最新の技術動向を見極めて,機種選定やシステム環境の整備を行うことも非現実的になっている。すべてのアプリケーションを手作りするとかえって高くつくかもしれない。

 だからと言って「ITは本業ではないからアウトソーシングする」「手作りは時代遅れだからパッケージを使う」と言ってはならない。本来自分でやるべきことを諸般の事情でやれないから,やむを得ず外部の企業に頼む。外部企業と密接な関係を築き,理想型に近いやり方をとれるように努力していく。こう考えて取り組まないと,いわゆる“丸投げ”になってしまい,危険な状態に陥りかねない。

ユーザーはITの素人,ベンダーはITの玄人

 先に書いたように筆者は,日経ビジネスの仕事もしている。数年前,日経ビジネスが主催した講演会に関わった時,あるユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が,筆者にとっては驚くべき発言をしていた。「我々ユーザーはITについてはまったくの素人。IT産業は,ユーザーのITスキルに期待しないで欲しい」といった発言内容であった。

 「ユーザーはITプロフェッショナルであるべき」を理想とする筆者の考えと,このCIOの発言はかなり距離がある。いくら何でも,あまりにも極端な発言に聞こえた。しかし日経コンピュータの記者に聞くと「あのCIOは,メインフレームの基本ソフトを自力で修正できるくらいのITプロフェッショナルです。それだけにかえって,自分がやってきたことはもうできない,と思っているのでしょう」と解説してくれた。

 そのCIOは,JTBの佐藤正史氏である。現在はCIOを退き,JTB情報システムの代表取締役社長を務め,日経コンピュータ誌に「システム部長の心得」という連載コラムを書かれている。少し前,佐藤氏の講演を聴く機会に恵まれた。この時も,佐藤氏は次のような持論を述べておられた。

「ユーザー企業もITを設計するスキルを持っていなければ,まともなシステムはできないなんて,ITベンダーの皆さんには絶対に思ってほしくない。もうそんな時代ではありません。ユーザーはITの技術ではなくて,ITの使い方だけ知っている。ITをどう使うと,どんなビジネスができるか,経営にどう役立つかということだけは知っている。けれども,ITの専門的な技術面に関しては,ITベンダーが本来のプロになり,我々を助けて欲しい」

 じっくり講演を聴いたので,筆者はようやく佐藤氏が仰りたいことを理解できた。そこで佐藤氏に「経営者がITを理解できない本当の理由」という題名で寄稿していただき,「経営とIT新潮流2006」というサイトの「真髄を語る」というコーナーに掲載した。

 「情報システムに関わる仕事を進める上でユーザーとベンダーはどのような役割分担をすべきか」は重大問題である。ITプロフェッショナルの方々は,筆者の極論と佐藤氏の極論の両方をお読み頂き,その上でご自分なりの回答を考えてみてはいかがだろうか。