PR

 通信業界は今,NGN(next generation network)で盛り上がっている。NGNをひとことで言うと「IPをベースにした通信事業者の次世代ネットワーク」。インターネットと異なり,帯域確保や優先制御を組み込んで,IPテレビ電話やリアルタイム映像配信などを安心して使えるようにする。日本国内ではNTTグループが2006年12月にフィールド・トライアルを開始。国際電気通信連合の標準化機関であるITU-T(international telecommunication union telecommunication standardization sector)はNGN技術の標準化を進めている。

 IPを使うといっても,NGNはインターネットとは別物。次世代の加入電話網というほうが実態に近い。だから,NGNでIP電話が「ただ」になると考えるのは無理がある,と考えるのが自然だ。ところが記者は,日経NETWORKで取り上げるSIP(session initiation protocol)技術解説の記事のための取材を進めていくうちに,「NGNは企業間のIP電話をただにする」のではないかと感じた。

 SIPはIP電話に使われる呼制御技術。NGNのために,このSIPの「標準化」が進められている。SIPの標準化が進めば,インターネット上で“電話事業者”に頼らず通話することが容易になると読んだからだ。IP電話を利用するために自社でSIPサーバーを用意している企業同士であれば,電話事業者のSIPサーバーを介さずに直接発信できるようになる。

今のSIP標準は穴だらけ

 こう書くと,「SIPはすでに標準化された技術ではないか」と思われる読者もいることだろう。確かにインターネットの標準化団体であるIETF(internet engineering task force)はSIPの技術標準を「RFC3261」として発行している。単純に相手を呼び出す程度なら相互接続もできるレベルだ。

 ただし,転送や保留,ピックアップといったちょっと気の利いた付加サービスの相互接続性についてはまだまだという。「IETFで標準化されていなかったり,標準化されていたとしても穴が多い。製品やサービスによって実装が違う」(SIP関連ソフトを開発するソフトフロントの佐藤和紀SIP事業本部長)。

 このため現実に,異なるメーカーのSIPサーバー同士の相互接続には問題がある。通信事業者が独自に決めているインタフェースに合わせてIP電話サービスにつなぐのがやっとだ。IP電話を使う企業のSIPサーバーが,異なる企業のSIPサーバーを直接呼び出して電話をつなぐのは,今のところ難しい。RFC(request for comments)で大ざっぱな枠組みを決め,機器の実装を修正しながら相互接続レベルを上げていくのがインターネットの文化。しかしIP電話では,「進化が速いため,その方法では追い付かないのが実態だ」(佐藤氏)。

NGNが標準のレベルを高くする

 このような問題を抱えるSIPの相互接続性は,NGNの標準化の進展によって一気に進みそうだ。ITU-Tは,事前に精緻に技術標準を決める文化を持つ。NGNは基本的にSIPを使うが,通信事業者がユーザーやほかの通信事業者と確実につながるように,より厳格に標準を定めようとしている。NGN標準を事実上決めているTISPAN(telecoms & internet converged services & protocols for advanced networks) という欧州の標準化団体は,自ら標準を追加するだけでなく,IETFにSIP関連標準の不足部分を指摘して改良を働きかけているという。

 こうしたNGN技術標準の整備は,相互接続のレベルを高くするという効果がある。NGNを実現するためには不可欠なことだが,その恩恵はNGNを使わないインターネット・ユーザーに及ぶ。NGNの技術標準に準拠しているSIPサーバー同士であれば,異なる機種であっても相互接続できることになる。

 TISPANは,2006年に「リリース1」というNGNの基本部分の技術標準を発行済みだ。「まだ修正中だが,今年中に完成といっていいレベルに達するだろう」(佐藤氏)。リリース1が完成して,それに準拠するSIPサーバーやIP電話機が登場すれば,「並の」IP電話に料金を支払う必要はなくなる。SIP URLといった電話番号に代わる相手特定方法を使えば,わざわざIP電話サービスのSIPサーバーを介さずとも相手のSIPサーバーを呼び出せる。つまり,インターネット接続料金だけでIP電話が使えるようになる。Skypeといった独自技術を用いるサービスを使わず,標準技術でIP電話をただにできる意味は大きい。

 こうなるとNGNは,「技術を決める意味があっても通信事業者の次世代ネットワークとして意味がない」と思うかもしれないが,そうとは限らない。賢明な通信事業者は,NGNによってインターネットが提供していない優先制御や帯域制御を提供しようと考えている。NGNは,インターネットでは実現不可能でユーザーが喜んで料金を払う「特別な」サービスを提供することになるはずだ。

■変更履歴
RFC番号を訂正しました。公開時はRFC3486としていましたが,RFC3486は「Compressing the Session Initiation Protocol (SIP)」で,SIPそのものではありません。正しくはRFC3261です。お詫びして訂正します。 [2007/03/02]