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 この冬のTVドラマで,断トツの視聴率を上げているのが「華麗なる一族」。御多分にもれず,私も日曜夜9時には画面にかじりついています。

 今回のドラマの主役は,木村拓哉さんが演じる鉄鋼メーカーの専務ですが,私の関心はその父である阪神銀行頭取の万俵大介にあります。昭和40年代に金融再編の波に直面した万俵頭取が,情報とマネジメント能力を駆使して勝ち残りを図るプロセスには,フィクションながら引き込まれてしまいます。

 なかでも組織のマネジメントという点で面白かったのが,第2回放送の支店長会議のくだりです。生き残りをかけて,都銀内の預金額の順位アップを図った万俵頭取は,全国の支店に課す預金集めのノルマを引き上げようと考えます。しかしトップが一方的に引き上げを命じても,現場がついてこなければ未達で終わるだけ。そこで万俵頭取は支店長会議で,銀行存亡の危機を訴えつつ,ある支店長を名指しで「君に期待している」と呼びかけます。

 実はこの支店長は,住宅地のマイナーな支店を担当しており,普段は日の当たらない存在でした。頭取から直接声をかけられたうれしさで,その場で自ら預金ノルマの上方修正を宣言します。すると,ほかの支店長も格下の支店に負けてはならじと,次々とノルマの増額をコミットしていきます(結果的に,最初に宣言した支店長はノルマを達成したあと,過労死してしまうのですが)。

 冷徹で権力志向という設定の万俵頭取ですが,実は社員のモチベーションというものを強く意識していたのではないでしょうか。「やれ!」というだけでは,現場はついてこない。社員自らが必然性を持って定めた目標だからこそ,達成意欲を喚起できるのだと。

「話すこと」に手を抜いていませんか

 「華麗なる一族」が出版されてから早30年以上経った今日。経営を取り巻く環境はますます複雑化し,売り上げや利益など財務的な成長だけでなく,顧客満足度や従業員満足度,さらにコンプライアンス(法令順守)などにも十分な目配りをしないと,長期的な成長は望めない時代になっています。

 こうした環境下で,近年注目を集めているのが「バランス・スコアカード(BSC)」という経営管理手法です。「財務」「顧客」「内部プロセス」「成長と学習」の4つの視点で戦略を設定して,相互の因果関係を結んだ戦略マップを描き,それぞれの目標ごとに重要業績評価指標(KPI)を定めたスコアカードで半期や年度ごとに達成度を測定していくというものです。米国で1990年代に開発されたBSCは2000年以降日本企業でも導入が進んでいます。

 この手法の特色は,4つの視点で目標を定めることに加え,部や課,拠点といった組織ユニット単位で戦略とKPIを設定する点にあります。全社や本部など上部組織の戦略の骨子を下位組織に引き継ぎながら,各ユニットの環境や問題意識に応じた戦略を設定することで,事業の多様化や迅速な環境変化への対応を図るというわけです。

 ただし,このツールも万能ではありません。なまじ戦略マップやスコアカードが一定のフォーマットを持っているために,「フォーマットを埋めればいい」という意識が生じて,部門長や企画担当者が適当に作成してしまうという例も散見されています。これでは「戦略について現場が意見を出し合い,考え抜く」という本来の目的が骨抜きになってしまいます。

 経営トップが全社に向かって方針を語り,ミドルマネジメントや現場のスタッフが「限られたリソースの中で,何を優先して何を捨てるのか」について議論する。本来あるべき,戦略についてのコミュニケーションが,紙1枚で代替されてしまうとしたら本末転倒です。何よりも,業務の第一線で働く社員が,適当に定められた戦略や数値目標の「押し付け」に本心から納得し,やる気を喚起することは難しいのではないでしょうか。

 BSCを導入した企業が口をそろえるのは「BSCの運用には手間がかかる」ということです。導入にあたって,BSC作成単位となる組織ユニットのキーマンに研修を行うのはもちろん,毎年,ワークショップなどを開いて戦略の洗い出しや絞り込みを行わなくてはいけません。意見の対立を収めつつ目標を定めても,その目標が財務に貢献しなかった場合には,翌年見直しを迫られます。これが毎年続くのですから,そこに投じられる人的リソースは,金額換算すればかなりの額になります。しかしそうしたなかから,現場が納得でき,達成意欲を高められるような目標が生まれてくる例があるのもまた事実なのです。

 日経情報ストラテジー4月号の特集では,こうした「泥臭い」過程を繰り返しながら,BSCに取り組む企業を取材しました。導入後数年を経過しても「これがBSCの成果だ」と明確に表せるような実績はなかなか上がりません。とはいえ,「戦略を考える」という新しいプロセスを通じて社員の視野が広がり,目標を自分のものとして前向きにとらえる風土が培われてきた手応えを感じつつあるようです。

 パソコンでもっともらしい目標をつくり,電子メールで根回しをする。「華麗なる一族」の時代には,このように「効率化」された21世紀は予想されていなかったことでしょう。だからこそ,人と人とのぶつかり合いのドラマに,引き付けられるのかもしれません。