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 Webブラウザ上で高い操作性を実現する,いわゆる「リッチ・インターネット・アプリケーション」が増えている。例えばニフティは2月27日,会員向けに新バージョンのWebメールを公開した。Ajaxの手法を取り入れることによって,Webブラウザ上でメール・クライアント・ソフトに近い使い勝手を実現したという。筆者はニフティのメール・アドレスを持っており,早速,Webメールの新バージョンを利用してみた。ちなみに,会社のメール・アドレスに対しては,職場のパソコンにインストールしたメール・クライアント「秀丸メール」を使っている。

 ニフティの新バージョンWebメールの使い勝手だが,筆者の環境では動きにやや重さを感じるものの,確かにメール・クライアントと同じような操作性を実現しているように感じた。例えば,マウス操作でメールを選んで(ShiftキーやCtrlキーを押しながらクリックすることで複数のメールを選ぶことも可能だ),ドラッグ&ドロップでフォルダやゴミ箱に移動させたり,Deleteキーを使って削除できる。送信/受信日時だけでなく,宛先による並べ替えもクリック一発で可能だ。

 ただし当然ながら,操作性に本質的な違いもある。例えば,デスクトップ・アプリケーションである「秀丸メール」では,メールにファイルを添付する際に,ファイルをマウスで選んで,文章入力の画面上にドラッグ&ドロップするという操作が可能だ。また,アプリケーション独自のショートカット・キーを使うこともできる。例えば,メールを選んで「Ctrl+R」キーを押すと,返信メールの画面になる。

 一方,ニフティの新バージョンWebメールに限らず,ブラウザのアプリケーション画面にテキスト・ファイルや画像ファイルをドラッグ&ドロップすると,そのファイルの内容を表示する。また,Internet Explorer 6では「Ctrl+R」キーは,現在のWebページを更新する操作になる。ブラウザ・ソフト自体がそのような仕様になっているため,アプリケーション側でそれを超えた操作をすることはできない。

大手2社が相次いで「脱ブラウザ」「beyondブラウザ」をアピール

 こうした「ブラウザを使うことによる制約」を解消することをアピールする発表が,1月17日に相次いでなされた。アドビシステムズは,クロスOS上で稼働するデスクトップ・アプリケーション実行環境「Apollo」(開発コードネーム)を2007年内に無償提供開始すると発表。同日午後にはマイクロソフトが,Webクリエイター向けデザイン・ツールのスイート製品「Microsoft Expression Studio」の2007年第3四半期リリースを発表した。

 発表会において,アドビシステムズは「脱ブラウザ」,マイクロソフトは「beyond ブラウザ」という言葉を使った。いずれも,Webアプリケーションをデスクトップ・ランタイム環境で実行させることで,ブラウザの制約を受けない操作性を実現しようというアプローチである。

 アドビシステムズのApolloを一言で言うと,HTML,JavaScript,Flash,PDFという“Web技術”を使って開発したアプリケーションを,デスクトップ環境で実行させるためのランタイム環境である。“拡張版FlashPlayer”と見てもよいだろう。当初は,同社の開発ツール「Flex Builder」向けにApollo上で動作するアプリケーションを開発するためのテンプレートを提供する。

 Apolloで特徴的なのは,Windows版,Macintosh版,Linux版を用意し,開発したApollo対応アプリケーションはそのまま,Windows,Macintosh,Linuxの各OSで動作させられるようにするということだ。JavaアプリケーションをJava仮想マシン(VM)上で実行させることで,各OS上で動作させるようにするのと同じ考え方であり,プラットフォームの違いはApolloが吸収する。

 一方,マイクロソフトは,同社のアプリケーション開発・実行環境である「.NET Framework 3.0」を構成するモジュールの1つである,ユーザー・インタフェースを担当する「Windows Presentation Foundation(WPF)」を利用する。新しい開発ツールであるExpression BlendとWPFを組み合わせることで,画像の3D表示などWPFのグラフィックス機能をフルに活用したWebアプリケーションを開発できるという。Expression BlendはFlashと同じようにアニメーションの動作タイミングを制御するタイムライン・ベースの開発環境やコンポーネント・ベースの開発が可能であり,ロジックの記述には開発ツールのVisual Studioを利用する。.NET Framework 3.0はWindows Vistaに標準搭載されており,マイクロソフトでは追ってWindows Server 2003版,Windows XP版を提供する予定である。

 WPFを利用するWebアプリケーションについては,Vistaに見られるような3Dをふんだんに取り入れたGUIが,どれだけ利用者に訴求するか,ということが普及のカギになるだろう。マイクロソフトはMicrosoft Expression Studioの発表会の席上で,「WindowsなどのGUIに慣れたユーザーがコマンドラインに戻れないのと同様に,VistaのGUIに慣れたユーザーは従来のGUIには戻れない」と主張した。ただ,もともとWebアプリケーションには,ブラウザという“標準仕様”のソフト上で動作するメリットを得るために,多少使いにくいというデメリットは止むを得ないとする考え方がある。WPFベースのWebアプリケーションが普及するには,.NET Framework 3.0を搭載したVistaがパソコン・ユーザーの“標準”になるのを待たなければならない。

 Apolloについては,どれだけのユーザーがパソコンにインストールしてくれるか,ということになる。この点に関しては,すでにFlash Playerのインストール率で実績があるアドビシステムズは自信を見せる。一般に,ダウンロードの際の障壁の一つに,データの大きさがある。同社は,必要な機能を備え,かつユーザーがダウンロードに抵抗を覚えないデータ量のメドとして5M~9Mバイトを挙げ,この範囲にApolloのサイズを抑える計画だという。

 Apolloに適したアプリケーションとしてアドビシステムズは,ローカルファイルに入出力するアプリケーション,オフラインで使用するアプリケーション,常駐型アプリケーション,バックエンドで実行・通知するアプリケーションなどを挙げている。ただし,これらは当然,マイクロソフトのVisual Studioなどを使ってデスクトップ・アプリケーションとしても開発できる。開発の際にWeb技術を使うことによる生産性と出来上がるアプリケーションの操作性が,開発者やユーザーにどれだけ訴求するかが普及の決め手になる。