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 「ビジネスは祭りだ」。ITproで好評の連載「ビジネススキルであなたは変わる」の執筆者,池田氏に会った。池田氏はSE(システム・エンジニア),営業を経験した後,現在はビジネススキルの教育会社であるエンパワー・ネットワークを経営している。池田氏はSEを取り巻く「負の文化」を指摘するとともに,「次の時代はExcellentではなくGoodが支持される社会になる。Goodなエンジニアになってほしい」と語る。池田氏に若手へのエールを送ってもらった。

(高下 義弘=ITpro 兼 日経コンピュータ


SEはどうすればもっと幸せに働けるようになりますか。

 私がSEについて不幸せだなあと思うのは,最終ユーザーとの距離が遠いことです。仕事でやっていて良かった,と思えるのは,お客様の喜んでいる顔を見ることですよね。ところが,SEの仕事はどうでしょうか。例えば銀行のシステムを開発しているのであれば,本当のお客様はATMの前に立つ預金者であるはずです。つまり,ユーザー企業の先にいる最終ユーザーです。最終ユーザーが「便利になってうれしい」と感想を言う現場に立ち会えれば,SEはきっとすごく良い気分になれると思います。

 だが,大半のSEは,「自分のお客はユーザー企業である」と勘違いしている。システムがちゃんと動けば,ユーザー企業の担当者からは喜ばれる。それはそれで素晴らしいことだけど,理想を言えば,最終的なユーザーと接するべきですよね。

 それとは違った観点のことを言いますが,SEという仕事の救いは,システム開発であれば企画からテストに至るまで「ユーザー企業と一緒に作る」形を採っていること。ユーザー企業,そしてITベンダーという立場の異なる人々が,「Same Boat」,つまり一つの目的に向かって,一緒に頑張る。こんな仕事はそんなに多くはないでしょう。その意味では,SEという仕事は面白い。

 幸せに働くための解決策を一足飛びに提示するのは難しい。ただ確実に言えることは,まずSEはもっと人と人との交流を意識的に起こすべきです。そうでなければ,いつまで経ってもIT業界は幸せな業界にはなれない。

 それからSEには,システムを作るのが仕事なのではない,人と共同で何かを成し遂げるのがSEの仕事なんだ,という考え方でいてほしい。極端な話,同僚,顧客関係なく,「友人を作るのが目的」というくらいの気分で仕事場に行ったらどうですか。

SE独特の文化に馴らされている

 私がおかしいと思うのは,「SEは生真面目でなければいけない」という不思議な文化があること。神妙な顔をして,挨拶もせず,会話もせず,ずっと端末に向き合っていることが正しいという文化が定着している。

 それを変えようというSEもいるが,周囲がなかなか変わらないので,結局あきらめてしまう。いつまで経っても,人と人との交流は起きない。何でそんなことを指摘するのだ,と言われそうなことだけど,人との交流が,いい仕事をして楽しくなるためには,とても大事なんです。

 だからこそ,SEにはそうした既存の文化に染まる前に,つまり社会人として働き始めた早い段階から,ビジネススキルを身につけてほしい。朝遅刻しない,挨拶をする,お礼を言う。当たり前のことだが,きちんと身につけるまでには2,3カ月はかかります。ただ,いったん身につけてしまえば後は楽です。

ビジネススキルは大事ですが,人への対応,仕事への取り組み姿勢など,同じ内容ばかりでさすがに聞き飽きた,という人がいます。

 ビジネススキルは奥が深い。ビジネススキルが扱う対象である「人」は,情報システムよりも複雑な存在ですから。

 名刺は忘れてはいけない。ビジネスマナーについて,こう言う人がいますね。でも,時にはわざと忘れる必要もある。なかなか会えない偉い人に会うときとかね。それにかこつけて,2回会う。

 金曜日に,お客さんがふと空を見ながら「雲が出てきたね」と言ったらどう返しますか。そのお客さんがゴルフ好きであれば,「明日はきっと晴れますよ」と返す。あなたへの印象はがらっと変わる。

 要するに,常に相手の視点でものを考えることが,ビジネススキルの基本なんです。ビジネススキルというより,そもそも相手を気遣うという人間関係の基本です。このように,ビジネススキルの前提となる人間スキルを,私はネイチャースキルと呼んでいます。

 ネイチャースキルは習慣として定着させなければならない。習慣化するには,地道にやるしかない。当社では習慣化するためのチェックリストを作りました。私の著書「本当の自分を発見する自己診断ワークブック」(本誌注:発行は中経出版)の付録として入れたり,各所で配ったりしていたのですが,最近,システム化してサービスとして提供し始めました(参考Webサイト:ビジネススキル習慣化サポートシステム)。紙は手軽だけど,どの行動が習慣として定着したか確認しにくい。そこをシステムでサポートします。習慣化した行動,習慣化していない行動を分類し,一覧表で確認できるようにしました。

 少しでも意欲のある人ならば,何をすべきかというWhatはだいたい分かっている。ただ,どのようにというHowのところでつまづく。つまり,ほとんどの人はやるべきことはわかっている。それを習慣化するという段階で,大半の人がつまづくわけです。だから,少しでも習慣化を助ける仕組みを作りました。2,3カ月毎日実行すれば,変わります。

 だいたい,毎日実行できる人なんてそうはいない。だから,毎日実行するだけで,ずば抜けた人になれる。

ひとくくりで「競争社会が原因」とするのも乱暴ですが,それでも確かに,競争というキーワードが蔓延したせいか,地道な努力をすっ飛ばして何か極端なことをしようとしたり,相手を出し抜いたり,という傾向が強くなっているようにも思います。

 そうですね。ですが,さすがに競争文化の弊害が目立ってきたからか,社会のキーワードが「Win」から「Trust」に変わりつつある。別の表現をすると「Excellent」よりも「Good」が受け容れられる社会へのシフトです。

 Excellentというと,目立つ人,突出した人という雰囲気。対するGoodは善の人,周囲を気遣うサポート上手,というイメージですね。米国を見ていると,Goodが尊敬される社会を作ろうという機運が出てきたように感じます。

 Goodな人って,要するにネイチャースキルに長けた人なんですよ。ネイチャースキルに長けたSEならば,次の時代も生き残っていけるでしょう。