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 唐突だが,ユーザー企業のCIO(最高情報責任者)あるいはシステム部門長に質問である。あなたは,CEO(最高経営責任者)から信頼されていると自信を持って言えるだろうか--。

 冒頭から失礼な質問をして恐縮だが,「間違いなく信頼されている」と言い切れるCIOは,果たしてどのぐらいいるだろうか。「がんばっているつもりだが,どこまで信頼してもらっているのか分からない」と答えるCIOが多いのではないだろうか。

 CIOの戸惑いを象徴するデータが手元にある。アクセンチュアが5月21日に発表した調査結果だ。「経営層とCIOが緊密に連携していると思うか」との問いに,「イエス」と答えたIT部門のCIOあるいは管理職は,日本では35%だけ。これに対し,米国のIT部門は倍以上の77%に達する。日本人は控え目という点を考慮しても,日本企業のIT部門は米国よりも経営層とCIOの間に距離を感じているのが実情と言える。

 さらに注目すべきは,日本企業内での比較結果である。日本企業のビジネス部門に所属する管理職以上に同じ質問をしたところ,51%が「イエス」と答えているのだ。IT部門の回答を16ポイントも上回っている。ビジネス部門はそれなりにCIOを評価している。にもかかわらず,CIOはどうも自信を持てない。こうしたCIOの苦悩ぶりが浮き彫りになっている。

経営方針の転換に追随できないCIO

 CIOは,どうして経営層から信頼されているとの自信を持てないのか。アクセンチュアの武田安正副社長は,その理由を「IT部門の働きぶりは,売り上げ増加や在庫削減など損益計算書に直結する経営指標で評価しにくいからだ」と説明する。営業成績が上がったと胸を張る営業担当役員,製品の生産リードタイムが短縮し在庫を減らせたと数字で示す製品担当役員。彼らに比べて,CIOは経営層に働きぶりをアピールしにくいのだ。

 唯一,CIOが経営への貢献度合いを強調しやすいのが,ITコストの削減である。コスト削減は利益の増加に直結するからだ。金食い虫と揶揄(やゆ)されることの多いIT部門が,「IT投資の絶対額を前年比で1割削減しました」と言えば,経営層にとっても分かりやすい。

 ここに問題がある。多くの企業はこの1~2年で,コスト削減から売り上げ拡大に経営の舵(かじ)を切っている。以前のように一生懸命コスト削減に挑み,その成果をCEOに報告しても,不況のときほどは評価してもらえない。CEOの興味は「会社をどう成長させるか」に移ってしまっているからだ。

 このような局面で,CIOは何をどうすべきなのか。本来は,経営方針の変化に同期してIT戦略を転換しなければならない。ところが,なかなかそれができない,あるいはできているのか自信が持てないCIOが少なくないのだ。仮にIT戦略を転換したとしても,今度は仕事ぶりを経営指標に結び付けて説明しにくいという先ほどの問題にぶつかる。

CEOがCIOを信じることから始まる

 では,CIOが経営成果に結び付くIT戦略を描き,CEOの評価を得ている企業は実在するのか。実は,CIOとCEOの信頼関係をベースにして,ITをテコに全社一丸の構造改革を進め,危機からの復活を遂げた企業がある。松下電器産業と日産自動車だ。

 両社のIT部門とも,2000年前後は事業部などシステムの利用部門から言われたとおりシステムを作るだけの存在だった。そこから,松下は中村邦夫社長(現会長)による「破壊と創造」をキーワードにした経営改革を断行。日産はカルロス・ゴーンCEOによる「ゴーン改革」を加速させた。両社のCIOは共に,経営トップの信頼を受けて,ITによる経営改革を推進した。

 松下の中村会長がCIOとして全幅の信頼を寄せたのは,システム担当役員の牧田孝衞氏である。牧田氏は94年から97年にかけて,米国のアメリカ松下電器(現パナソニック ノースアメリカ)で最高情報責任者を務めた。その時のアメリカ松下のCEOが中村会長だった。米国で,ITによる経営改革に成功する企業を目の当たりにした両氏は,ITで事業部門の壁を打ち破ろうと,アメリカ松下の社内システムを全面統合する計画を立てた。

 その後2000年6月に松下電器産業の社長に就任した中村会長は,1カ月後の7月に「IT革新本部」を新設。自らが本部長に就き,副本部長には牧田氏を指名した。米国での実体験から,ITの重要性を共有していた中村・牧田両氏による二人三脚のIT革新をスタートさせたのである。

 日産のゴーンCEOは,社外からCIOを招へいした。行徳セルソ執行役員グローバル情報システム本部長がその人だ。ゴーンCEOは行徳CIOに2つのミッションを与えた。1つはプロジェクトの成功率を上げること。もう1つは,不透明だったITコストの可視化である。ゴーンCEOは,CIOの役割を明確にすることで,IT部門の経営に対する貢献度合いを評価できるようにした。アクセンチュアの武田副社長は「CIOの役割を明確にするのはCEOの重要なミッションだ」と話す。

 CIOをはじめIT部門が経営と一体感を持つにはどうすればいいかをテーマに,日経コンピュータは5月28日号の特集「経営とITを同期する新4カ条 松下の『中村改革』をIT部門はどう支えたか」を組んだ。冒頭の質問に自信を持って「イエス」と答えられなかったCIOやIT部門のみなさんはもちろん,すでに経営層の信頼を獲得しているIT部門にも,特集記事をお読みいただければ幸いである。

信頼関係を築けず失敗した例もある

 逆に,CIOがCEOから信頼されないとどうなるのか。日経コンピュータで連載中の「CIOの決断」では,この状況を小説の形でシミュレーションしている。

 この小説の舞台は中堅機械メーカー。創業社長が,上海工場から息子を呼び戻し,情報システム部長に据える。将来,社長になるにはITを知っていた方がいいという,まさに親心だ。ところが,この社長が突然脳梗塞で倒れ,専務が社長に昇格してしまう。てっきり自分が後を継ぐものだと思いこんでいたジュニアは新体制でCIOの肩書きは付いたものの,平の取締役どまりだった。この処遇に不満を抱くジュニアは,なんとか実績を上げようと,CEOに相談もせず,システム子会社をベンダーに売却してしまおうと水面下で動き出す…。

 「CEOに信頼されているCIOは生き生きとして,良い仕事をしている」。アクセンチュアの武田副社長はこう言い切る。みなさんの会社では,CIOとCEOがどんな関係なのか。誌面をめくりながら,ちょっと考えてみていただきたい。