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 まず最初にお断りしておきたいのだが,本稿では「そもそも行政がSNSをやる意味があるのか」という点について論じるつもりはない。私個人としては,行政がSNSサービスを運用・提供することについて,「適正なコストでうまく運営できるなら悪いことではない」と考えている。

 例えば,熊本県八代市が運営する地域SNS「ごろっとやっちろ」について,お役所らしからぬ「ゆるい」感じの運営は,なかなかいいなあと思う。地域の電子コミュニティ運営に詳しい小林隆・東海大学政治経済学部政治学科准教授が,「参加しているみなさんが,このサイトをとても愛していることがわかる」と評するほどのコミュニティに育っている(関連記事)。ちなみに,総務省の調査によると,国内には官民合わせて170以上の地域SNSが存在するという(関連記事)。八代市の「ごろっとやっちろ」はこうした「地域SNS」の第1号だ。地域SNSは「官」が発祥のサービスなのである。

 長い前振りで恐縮だが,本題である「小さな引っかかり」の話に移る前に,行政主導型の地域SNSの特性について,もう少しだけ説明しておきたい。

 行政主導型の地域SNSは,一般のSNSよりも外に開いている部分を多く設計している。例えば,総務省「e-コミュニティ形成支援事業」で2005年度,2006年度の実証実験に採択された地域SNSは合計13あるが(),奄美市の「ま~じんま 奄美市地域SNS」を除いてメンバーの紹介がなくても会員になれる。また,SNS内のコミュニティには「一般公開」の設定があり,その設定にすると会員登録をしていない人でもサイトからコミュニティ内の発言が閲覧可能となる。SNS内にどんなコミュニティがあるのかについても,「コミュニティ検索」のページから誰でも調べることができる。

表●e-コミュニティ形成支援事業に採択された行政主導型の地域SNS

八戸市 はちのへ地域SNS
前橋市 まえばし市民ネットワークシステム
秩父市 ちちぶ市民ネットワークサービス
大垣市 おおがき地域SNS
掛川市 地域SNS「e-じゃん掛川」
宇治市 京都山城地域SNS お茶っ人
豊中市 マチカネっ人
大牟田市 おおむたSNS
五島市 gotoかたらんねっと
大分市 大分市地域SNS だいきんりん
奄美市 ま~じんま 奄美市地域SNS
千代田地域SNS「ちよっピー」
長岡地域SNS「おここなごーか」

 総務省の自治行政局自治政策課情報政策企画官としてこの事業を推進した牧慎太郎氏(現・兵庫県企画管理部長)は,こうした行政主導型の地域SNSのコンセプトについて以下のように述べている (注)

 「はじめは地域につながりのなかった人でも,まずはオープンなコミュニティに参加することから友人の輪が広がる可能性もある」「住民にアクセスしてもらわなければ意味がなく,参加者を広く受け入れるという考えに立つべきであろう」「地域SNSは,地域コニュニティの活性化が目的であり,単なる閉鎖的な空間でなく,他の地域との交流や外部に対する情報発信もできるオープンなシステムを目指している」。

地域コミュニティの活性化が目的なのに…

 さて,ようやく本題である。先日私は,「行政主導型の地域SNSにはどんなコミュニティがあるのだろう?」という疑問から,いくつかの地域SNSのコミュニティを片っ端から覗いてみた。何かの記事にするための調査というわけではなく,単純素朴な関心から「どうなってるのかな」と思ってのことだが,コミュニティの一覧をながめているうちに,あることに気付いた。

 それは,行政関係者が立ち上げたと思われるコミュニティには,「コミュニティメンバーにのみ公開」という設定になっているものが多いということだ。一方,市民が作ったコミュニティは,「インターネットに公開」か「SNSメンバー全員に公開」という設定が多かった。このような状況に対して,私はどうにも「引っかかり」を感じてしまったのである。そこで,この違和感はどこから来るのか,いろいろと考えをめぐらせてみた。

 もちろん,「コミュニティメンバーにのみ公開」という設定でコミュニティを作っても,地域SNSの規約上はまったく問題はない。そうしたコミュニティが必要な場合があることも理解できる。しかし,「単なる閉鎖的な空間でなく,他の地域との交流や外部に対する情報発信もできるオープンなシステムを目指している」という地域SNSを作っておきながら,その主催者である自治体や行政関係者が作るコミュニティは,(全部ではないが)“内”に閉じたものばかり…という状況は,「ちょっと違うんじゃないか?」と思ってしまうのだ。

 既に説明したように,今回例示した行政主導型の地域SNSでは,「コミュニティ検索」機能を使って一覧表示をすれば,地域SNS内にどんなコミュニティがあるのか,誰でも容易に知ることができるようになっている。そうした中で自治体が,自ら運営する地域SNS内に「コミュニティメンバーにのみ公開」というコミュニティを作るということが,どういう意味を持つのか。「ここで市民に見られたくない情報をやり取りしていますよ」と,頼まれもしないのにわざわざ市民に知らせているも同然ではないか。

 官民協働を謳(うた)う自治体は多いが,それを実現するためのスタート地点は,官民における情報の非対称性の解消にあるはずだ。なのに、ここではわざわざ非対称性を強調しているのである。特定の部署やプロジェクト用に電子的な内部連絡の仕組みを作りたいなら,庁内イントラネットなど別の場所に設置すればよい。「外部に対する情報発信もできるオープンなシステムを目指している」という地域SNS内にそれを置くのは,ルール違反ではないにせよ“筋が違う”のではないだろうか。もしこれが内部に閉じた「普通のSNS」での話だったなら,目くじらを立てたりはしないのだが…。

 「マニフェスト」の仕掛け人であり,元三重県知事の北川正恭・早稲田大学大学院公共経営研究科教授は,知事時代に『日経パソコン』への寄稿で次のように述べている。

 「今まで,行政が独占していた情報を生活者に公開すれば,さまざまな行政の活動に参画できる生活者が増えてくる。そのためには,住民からの情報開示請求を受けて情報を提供する『情報公開』から,意思形成過程も含め,常に生活者と情報を共有できる状態へと変えていくことが必要だ」。

 北川教授が言うような「意思形成過程も含め,常に生活者と情報を共有できる状態へと変えていく」ためのツールとして,地域SNSはうまくハマればは大いに力を発揮できる可能性を秘めている。だからこそ,自治体が自ら運営するSNS内でコミュニティを作るなら,原則的には「できるだけ広く情報を出していく」という姿勢を率先して打ち出すべきだと思うのだ。それに,プロジェクトの打ち合わせの様子などは,むしろ積極的に舞台裏を公開していった方が,市民からも親しみを持たれるのではないだろうか。その内容がSNSや地域活性化に関するものだったり,プロジェクトに市民も参加している場合ならなおさらだ。

 今回私が感じた「小さな引っかかり」について,瑣末(さまつ)なことを大げさに問題視しすぎだと思われる方もいるかもしれない。だが,行政が積極的に地域コミュニティにかかわっていくつもりなら,行政の「情報公開に対する姿勢のあり方」は,本質にかかわる問題であるはずだ。