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 5月末から6月初めにかけて,スマートフォンとそれに関連するOSやツールの発表が相次いでいる。ソフトバンクモバイルが5月22日に発表した東芝製の「X01T」や「X02HT」(関連記事),マイクロソフトが6月6日に発表したスマートフォン向け新OSの新版「Windows Mobile 6日本語版」(関連記事),ウィルコムが6月7日に発表した「Advanced/W-ZERO3[es]」(型番はWS011SH)(関連記事),NTTドコモとカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)が6月7日に発表した「BrackBerry」の日本語対応(関連記事),などだ。これだけ矢継ぎ早に発表が続くと,新たなスマートフォン市場なるものが立ち上がるのではないかという期待感を抱いてしまう。

 これらが発表された時期,筆者は台湾・台北市で開催されたアジア最大のICT関連展示会である「COMPUTEX TAIPEI 2007」(関連記事)を取材していた。会場内のマイクロソフトのブースには,最新のWindows Mobile 6を搭載したスマートフォンが所狭しと並び,来場者の注目を集めていた(関連記事)。筆者はそこで各社に日本で販売する可能性があるかどうかを聞いてみた。すると,そのときの説明員の回答は相変わらず一様のものだった。「日本の携帯電話のマーケットはユニークだから・・・」。要は日本のマーケットは特殊だから販売するのは難しい,ということだ。

 いろいろ聞いてみると,海外の説明員が言うユニークとは,日本の携帯電話市場が垂直統合型であることを指している。日本では携帯電話事業者が端末の開発・販売からサービスの提供まで一環してかかわっている。Windows Mobile 6搭載製品のようなハードウエア,OS,アプリケーション,通信サービスがそれぞれ分離した水平分業モデルが前提の製品を,そのまま日本の携帯電話事業者の垂直統合型モデルに適用させるには,相応の力を持ったメーカーでないと難しい。実際,冒頭で紹介したスマートフォンは日本メーカー製,もしくは台湾HTCやカナダのRIMのように相応の力と実績のあるメーカーの製品である。

 ただ,こうした時のユニークという意見は,あくまでも携帯電話機を製造・販売する海外メーカーの立場から発せられたもの。携帯電話を使いこなすユーザーから出てきた意見ではない。

日本の携帯電話機は“スマートフォン”

 実はもう一つ,ユニークの意味がある。なぜなら説明員の一人が筆者の使っている携帯電話をとても見たがったからだ。筆者はそのとき,日本の携帯電話機と彼らが展示しているスマートフォンが果たして競合できるものなのか,競合の対象になり得るのか――,それを見たかったのではないかと推測している。改めて海外から日本を見ると,日本の携帯電話サービス,携帯電話の端末自体がとてもユニークな存在であることに気づかされる。
 
 ここで日本の現状をおさらいしておこう。約9800万の携帯電話加入数のうち,実に7000万強が第3世代携帯電話(3G)を使っている(参考資料)。データ通信速度や処理性能が向上した3G端末が普及した結果,携帯電話などの移動端末からインターネットに接続するユーザーはいまや7086万人に上る(2006年末時点。出典は総務省の「通信利用動向調査」。報道資料)。

 この7000万人超の市場が存在しているのであれば,商機を求めてマスからニッチまで様々なサービスが生まれる。音楽配信は言うに及ばず,パソコン向けに提供されていたコミュニケーション・サイトや物販サイトの携帯版,GPSと組み合わせた見守りサービスや道案内サービス,放送コンテンツの閲覧,携帯電話の業務用携帯化(関連記事)などなど,最も身近な通信機能を持つ機器として様々な使い方が生まれている。

 実はこれ,スマートフォンが目指している世界と同じなのだ。ユーザーの視点に立つと,既に日本には高機能・高性能な端末とサービスがきれいに結びついた巨大な“スマートフォン”市場が存在していると言っても過言ではない。

 スマートフォンに明確な定義はない。一般には携帯電話にPDAとしての機能を持たせたもの,PDAに通信/通話機能を持たせたもの,といったものだと筆者は理解している。スマートフォンをイメージする際,パソコンに近い操作感覚を実現できるQWERTYキーボードを搭載している製品やWindows Mobileなど汎用OSを搭載する製品を思い浮かべるユーザーも多いだろう。

 日本の携帯電話機を考えてみると,QWERTYキーボードの搭載を除けば,既に大半の製品が“スマートフォン”化している。日本の携帯電話機は多くのアプリケーションが動くプラットフォームとなっているし,ハードウエアの高性能・高機能化も進んでいる。例えばディスプレイは携帯機器としての制限はあるものの十分大型化している。むしろ日本の「携帯世代」はQWERTYキーボードでメールを打つより,携帯電話の親指入力でメールを打つ方が速い。これを優れた予測変換機能が後押しする。既に日本には携帯電話の姿をした“スマートフォン”が市場を席捲しているのだ。

パソコンの健闘がスマートフォンを後押し

 これだけ3G携帯電話が普及し,様々なサービスが展開されている日本では,Windows Mobile搭載機やBlackBerryなどのスマートフォンは今以上には普及しないのだろうか。前述の総務省の「通信利用動向調査」(報道資 料)を見ていると実はそんなことはないのではないか,と筆者は思い始めている。なぜなら,インターネット利用端末の種類としてパソコンでの利用が前年に比べて1454万人増加(22%増)しているからだ。携帯電話など移動端末からの利用者は前年比2.4%増と微増にとどまっている(総務省の資料)。

 細かい点を見ても,意外とパソコンが健闘していることが分かる。インターネットの利用頻度として「毎日少なくとも1回は利用」すると回答した中で,13歳から29歳までは携帯電話から利用する割合が高い。だがこの層もパソコンを利用する割合が決して低いわけではなく,むしろ併用率は昨年以上に高くなっている。社会人になれば若年層でもパソコンの利用はさらに進むだろう。企業ネットワークの端末として使われるのはパソコンもしくはパソコン同等の入力デバイスを持つシンクライアントであるため,パソコンが携帯と同じように身近になるためだ。

 パソコン・ユーザーが減っていない状況を見ると,Windows Mobile 6搭載機などパソコンから派生したスマートフォンは十分活用できそうだ。「スマートフォン」という何か全く新しい市場の立ち上がりに過大な期待を寄せるより,パソコンの補完と割り切るだけでも企業ユーザーにとって十分役に立つ。

 とても単純だが出先で仕事をする場合,たとえ外であっても社内のパソコンに近い操作感やユーザー・インタフェースを備えた機器を使いたくなる。一般的にはノート・パソコンを持ち歩くことになるが,セキュリティ対策上社外への持ち出しを禁止する企業は多い。またユーザーからすればノート・パソコンは重く,できれば持ち歩きたくない。さらに通信環境を考慮すれば使用場所まで制限される。

 こんなシンプルな問題を解決できるのがスマートフォンだ。何も難しく考える必要はない。ノート・パソコンより軽く,操作はパソコンに近く,しかも携帯の電波が届けば通信できる。シンクライアント的に活用できるWindows Mobile 6やBlackBerryはセキュリティ面でも利点がある。まさにこれから多くの展開が期待できるのが,企業のスマートフォンの活用なのだ。

 本日から公開するITProの特番サイト「Enterprise Mobile」ではスマートフォンの活用事例を含め,企業が様々なモバイル機器を使いこなすための実務情報やトレンドをお届けする。海外からユニークだと言われる日本の携帯電話市場が,いかに世界の最先端を走っているかが実感してもらえるはずだ。