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 今,携帯電話サービスで話題の一つとなっているのが「フェムトセル」(femto cell)だ。これは,携帯電話の基地局を小型化し,ブロードバンド回線に接続できるようにしたシステムである。例えば,電波の入りにくい地下や屋内にフェムトセルのAP(access point:基地局)を設置し,簡単にエリアを補うことが可能となる。ソフトバンク・グループが実験局免許を取得して実験を始めた(参考記事)ほか,NTTドコモもフェムトセルのAPを開発したと発表(参考記事)している。

 現状の制度上では,このフェムトセルのAPをユーザーが勝手に設置できない。実用化には法制度の変更が必要となる。それでも,「フェムトセルはワイヤレス・ブロードバンドの世界を大きく変革する可能性を持った,まったく新しい技術」と期待する声は多い(参考記事)。

 筆者はこのシステムのビジネス・モデルに興味がある。というのも,どの携帯電話事業者も,フェムトセルのAPを設置したユーザーがどういった“料金体系”でそれを利用できるようになるのかを明確にしていないからだ。そこで今回は,「ユーザーが納得するフェムトセルのビジネス・モデル」について考えてみようと思う。

電波の混雑を緩和し,エリア拡充に効果

 新しいシステムの導入コストおよび運用コストは,ビジネス・モデルに大きく関係する。これらを考えるには,新システムでもたらされるメリットも明確にしておく必要がある。そこで,フェムトセルのビジネス・モデルについて見ていく前に,システムの特徴とメリットを少し詳しく紹介しておこう。

 フェムトセルのAPは,ユーザーが引き込んだブロードバンド回線に接続し,IPネットワーク経由で携帯電話事業者のネットワークに接続する。フェムトセルのAPが出す電波は,携帯電話事業者の基地局が出すのと同じもの。ただし出力は弱く,同時に通話できる携帯電話機の数も4台程度に制限される。

 フェムトセルのメリットはいくつかある。

 その一つが,ユーザーの増加や通信の高速化によって生じた電波の帯域不足を解消できることだ。現状の携帯電話基地局は広いエリアをカバーするので,一度に大勢のユーザーの通信を処理しなければならなくなるケースが多い。しかし,基地局1局で処理できる周波数帯域は決まっている。一つの基地局のエリアで大勢のユーザーが通話しようとすると,電波の周波数が足りなくなり,輻輳(ふくそう)やデータ通信の速度低下が発生してしまう。

 フェムトセルのAPは,従来の基地局に代わってこうした通信の一部を処理することで,電波の混雑を緩和し,輻輳の発生やデータ通信で速度が低下するのを防ぐ役割を果たす。これが,フェムトセル導入の一番大きなメリットといえるだろう。

 もう一つのメリットは,ユーザー自ら携帯電話のエリアを拡大できる点だ。ビルの中など携帯電話の電波が届きにくいエリアがあった場合,これまでは携帯電話事業者に依頼して近くに基地局を置いてもらう必要があった。こうした対処法では,時間がかかるだけでなく,いくら依頼しても手当てしてもらえない可能性も高い。

 フェムトセルが実用化されれば,携帯電話事業者のエリア外でも,ユーザーがブロードバンド回線を引き込んでそこに対応APをつなぎさえすれば,その場所を携帯電話のエリアにできる。

携帯電話事業者に大きなメリット

 では,フェムトセルの実用化で一番大きなメリットを受けるのは誰か。それは,携帯電話事業者だろう。

 フェムトセルが普及すれば,携帯電話事業者を悩ます電波の周波数不足が解消される可能性がある。携帯電話事業者各社は,ユーザーの多く集まる都市部に基地局を増設するなどの方法で,周波数不足をなんとか解消しようとしてきた。フェムトセルは,その対策をユーザー側に一任し,問題を解決してしまう可能性を秘めている。

 さらに,ユーザーが勝手にエリアを拡充してくれる点も,携帯電話事業者にとってはありがたい。AP設置の投資効果と通話料収入を天秤にかけ,採算が取れないと思われた場所でも,ユーザーが必要だと判断すれば携帯電話の利用エリアになる。ユーザーにとってニーズがあるということは,そのAP経由である程度の通信が発生することになり,通信料収入も期待できる。

 その上,フェムトセルを運用するのに必要となる電気代やブロードバンド回線の料金は,設置したユーザーが負担する。ユーザーが勝手に設置し,周波数不足を解消してくれる。それだけでなく,エリアも拡充してくれる――。携帯電話事業者にとっては,まさに理想的なシステムなのだ。

 では,一方のユーザーにはメリットがないのかというと,もちろんそんなことはない。ユーザーにもメリットはある。そのうちの一つは,快適な状態で携帯電話を使えるということだ。

 これはとくに,高速のデータ通信を利用する場合に当てはまる。高速データ通信は,基地局を同時に利用するユーザーの数や電波の状況によって速度が大きく変化する。利用するユーザー数が少なく,電波状況が良好であれば,より高速のデータ通信を利用できる。例えば,自宅にフェムトセルのAPを自ら設置したユーザーが自宅で携帯電話を使うケースは,まさにこの条件を満たすことになる。

誰に利益を還元すべきか?

 こうしたメリットから,フェムトセルのビジネス・モデルを考えていこう。

 ここまで見てきたように,フェムトセルのAPにかかる電気代やブロードバンド回線コストは,APを設置したユーザーが負担する形になる。ランニング・コストをユーザー側で負担するのだから,仮に快適な通信が実現できても,何らかの利益が還元されなければ,APを設置するユーザーは増えないだろう。つまり携帯電話事業者は,フェムトセルのAPを設置してくれるユーザーに対して新しい料金体系を打ち出す必要が出てくるのである。

 そこでまず考えられるのが,月額基本料や通話料を割り引くという料金体系だ。ある携帯電話ユーザーが,自宅などにフェムトセルAPを設置し利用することで,そのユーザーの携帯電話利用料を安くするというわけだ。

 しかしこの料金体系では,一部の“悪賢い”ユーザーに割引制度を悪用される恐れがある。フェムトセルAPを設置する契約だけしておいて,実際には稼働させず,割引だけ受けようというケースが出てくると考えられるからである。

 では,フェムトセルAPを確実に稼働させるために,フェムトセルAP経由の通信だけを割引の対象とするというのはどうだろう。ただこの料金体系では,ちょっとした不公平が生じるケースが考えられる。フェムトセルAPを設置したユーザーの隣の家に同じ携帯電話事業者のユーザーがいて,そのユーザーがフェムトセル経由で通信した場合にも割引が適用されることになるからだ。フェムトセルAPを設置したユーザーは,コスト負担していない隣家のユーザーがメリットを受けることに,納得がいかないかもしれない。自分のブロードバンド回線が隣家のユーザーに使われるというのも,気持ちの良いものではない。

 もちろん,この二つの方法とも,フェムトセルAPの稼働状況や,通信しているユーザーがフェムトセルAPを設置したユーザーかどうかを携帯電話事業者側で一元的に管理することで,厳密に割引制度を運用できる。フェムトセルのAPに登録したユーザーだけが利用できるように設定することも可能だろう。ただ,そうした縛りを付けてフェムトセルAPの利用ユーザーを制限することは,携帯電話事業者の望むところではない。より多くのフェムトセルAPが設置され,より多くのユーザーがフェムトセルAP経由の通信を利用するようになることこそ,携帯電話事業者の狙いだからだ。

太陽光発電の「売電モデル」が合っている

 こうした問題が発生しない“料金体系”を考えるには,携帯電話ユーザーとフェムトセルAPを設置する契約ユーザーを明確に分ける必要がある。フェムトセルAPを運用するには,設置者によるコスト負担が欠かせない。であるなら,コストを負担する人に利益を還元すべきで,フェムトセルAPを利用して通信するユーザーとは切り離して検討するべきだと考えられるからだ。

 つまり,フェムトセルAP経由の通信で発生した利益(もしくは通信料)の一定割合を,フェムトセルAPを設置した契約者にキャッシュバックするのである。これは,自宅の屋根に太陽光発電パネルを設置し,余った電力を電気会社に買い取ってもらう“売電”のしくみに似ている。売電の契約を交わしたユーザーの場合,契約上,ややメリットのある料金プランを選択できるようになっているが,基本的に使った電気代はそのまま電気会社に支払う。その一方で,余剰電力は電気会社が買い取ってくれるという格好である。この方法をとれば,制度を悪用するユーザーを出さず,不公平感を持たせず,広く多くのフェムトセルAPが稼働するようになると考える。

 さらに,携帯電話事業者は,自社のユーザーでなくても,フェムトセルAPを設置するだけの契約者を受け入れるようにすればいい。都心の繁華街の店舗や電波の入りにくい地域のマンション・オーナーなどが,フェムトセルのAPを競って設置するようになれば,携帯電話事業者にとってはもちろんメリットになるし,携帯電話ユーザーの利用環境も改善され,APを設置した契約者にも利益が出る。

 ここまで触れてこなかったフェムトセルAPの機器コストについては,一番のメリットを受ける携帯電話事業者がその大半を負担すべきだろう。そもそも携帯電話の基地局は,事業者がコストを支払い,お願いして置かせてもらっているもの。フェムトセルのAPであっても,規模が小さいだけで変わりはないはずだ。“タダ”で配布するのかとても安い価格を付けるのかといった点は,携帯電話事業者の判断によるが,低価格パソコンより高いような値付けでは受け入れられないと思われる。

 ここまでフェムトセルの“料金体系”を考えてきた。こうした料金体系であれば,フェムトセルの普及が進むのではないかと筆者は考えた。みなさんは,どうお考えになるだろうか。