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 携帯電話に関する新しい技術として,家庭内に設置可能な超小型の携帯電話基地局「フェムトセル」が話題だ。世界中のベンダーがこぞって製品やソリューションを用意し,今年末から来年にかけての商用化を目指して競い合うなど,盛り上がりを見せている。日本でもソフトバンク・グループが取り組みを公開し,来春のサービス開始を予定するほか,NTTドコモもこの秋に商用化に乗り出す。このほかKDDIやイー・モバイルも検討を進めるなど,国内でサービス提供中の携帯電話事業者すべてがフェムトセルの取り組みを始めている。

 一方でフェムトセルはこれまでにないコンセプトであるため,「どのように動作するのか」「ハンドオーバー(移動したときに途切れることなく中継する基地局を移れること)できるのか」といった素朴な疑問も数多く残る。今週は,特集「フェムトセル最前線」を掲載しているが,手っ取り早く疑問を解決したいと思われる方も多いだろう。そこで,その中でも代表的な7つの素朴な疑問について紹介してみたい。

疑問1:フェムトセルはどうやって設置するの?

 一般にフェムトセルは,家庭内に引き込んだADSLやFTTHなどの商用のブロードバンド回線経由で携帯電話網と接続する。ちょうど無線LANルーターを設置するような感覚で,基地局の設営ができることになる。

 フェムトセルのベンダーは,ユーザー自身がフェムトセルを設置・設定できるように,ブロードバンド回線に接続すると自動的に登録や設定が済むような仕組みも準備している。ただし,携帯電話網との接続方式が標準化されていないなどの理由から,当面は,個々の事業者が自らの携帯電話網に接続できるフェムトセルを無償配布したり無償貸与する形になりそうだ。

 特に日本においては制度面で制約があり,ユーザーがフェムトセルを設置することや,ユーザーが加入するブロードバンド回線経由で携帯電話網と接続することは禁止されている。フェムトセルは基地局の一種なので,既存の基地局同様,資格を持った電気通信主任技術者による設置や管理,監督が求められ, 事業者が用意する回線で接続するよう義務付けられているためだ。

 NTTドコモがこの秋にスタートするフェムトセルは,現行制度の範囲で運用を開始するため,電気通信設備工事担任者がフェムトセルを設置。NTTドコモが用意する光専用線などをマンションに引き込んで接続する形になる。

 ソフトバンク・グループはあくまでユーザーがフェムトセルを設置し,商用のブロードバンド回線を使う形を目指しており,総務省に制度改正を働きかける考えだ。総務省側も2007年6月末に公開した「モバイルビジネス研究会」の報告書案に,「07年度末を目途にフェムトセルの取扱いについて一定の結論を得ることが適当」という一文を盛り込むなど,制度改正に向けて前向きな姿勢を見せている。

疑問2:フェムトセル経由でパケット通信はできるの?

 フェムトセルは既存の基地局と同じ機能を持つため,発信や着信はもちろん,パケット通信も含めたすべての携帯電話サービスを利用できる。屋内のカバレッジを広げられるほか,さらには家庭内ではフェムトセルを独占できるため,複数ユーザーでシェアする既存の基地局より速い実効速度が期待できるといったメリットも生じる。

 フェムトセルと携帯電話網の接続方法はベンダーによってまちまちだ。既存の基地局をIP網経由で取り扱えるようにしたタイプから,フェムトセルに携帯電話のコア・ネットワークの一部を内蔵させ,フェムトセルから直接パケット通信が可能なタイプも存在する。このようなアーキテクチャの違いは,そのまま事業者が提供可能なサービスの差となって現れる可能性がある。

疑問3:お客さんに我が家のフェムトセルを使ってもらえる?

 これは,サービスを提供する携帯電話事業者のポリシーで決まる。技術的にはどのユーザーでも使えるようにできるが,登録したユーザーにしか利用させないという形も出てくるだろう。ベンダーのほとんどが,この両方の機能を備えたフェムトセルを準備している。なお小型化とコストを抑えるために,同時通話数を4端末程度としているフェムトセルがほとんど。家族で利用するには十分な数だろう。

 ちなみに今秋からの運用を始めるNTTドコモは,「基本的には既存の基地局と同じ扱いになるため,誰でもアクセスできる」(NTTドコモ)という。

疑問4:プライバシやセキュリティ上の心配はないの?

 フェムトセルは商用のブロードバンド回線を経由して音声信号やパケットを流すため,セキュリティ面で不安がある。このため,多くの製品がフェムトセルとネットワーク・コントローラ(携帯電話網に設置された基地局制御装置のこと)をIPsecなどのVPNでつなぐ構成を採用している。フェムトセル本体は,携帯電話と携帯電話網の間でやり取りされる音声やデータをそのまま中継するだけであり,制御はネットワーク・コントローラが実施する。設置ユーザーであっても,そこを流れるデータを見ることはできない。

 なお,ブロードバンド回線が途切れた場合,携帯電話での通話ができなくなる。ユーザーにとってみれば,フェムトセル自体に不具合があるのか,回線に問題があるのか判別がつかないという問題が発生する。ソフトバンク・グループはこうした問題を避けるために,「一定期間ブロードバンド回線が途切れている場合は,フェムトセルの機能をオフにする仕様を盛り込む」(ソフトバンクモバイル)という。回線が落ちている場合は,携帯電話とフェムトセルを接続できないようにして,既存の基地局経由で通信する仕組みだ。

疑問5:既存の基地局との間で干渉は起こらないの?

 フェムトセルは基地局そのものなので,既存の基地局との間で干渉は少なからず発生する。しかもユーザーの手によって設置する形を目指し,その数も場合によっては数万,数十万のオーダーになる可能性があることから,既存基地局への影響は膨大だ。干渉によって既存基地局のエリアを狭めてしまうケースも出てくるだろう。

 このような課題を解消するために各ベンダーは,フェムトセル自体が回りの電波状況を感知して,既存の基地局への影響を最小限に抑えるよう出力を調整する機能を取り入れているという。ただ,この機能だけで干渉問題のすべてを解決できないのでは,と不安を指摘するベンダーもいる。場合によっては,既存の広域の基地局とフェムトセルが利用する周波数チャネルを分けるケースもあり得るのでは,とこのベンダーは指摘する。いずれにせよ現時点では,まだ数万台規模のフェムトセルを使って実地試験をしたベンダーや事業者は存在しない。今後スタートするであろう大規模なフィールド・トライアルにおいて,その影響は明らかになるだろう。

疑問6:ハンドオーバーはできるの?

 基地局が切り替わっても通信が途切れないハンドオーバーは,携帯電話サービスにはおなじみの機能である。ただフェムトセルと既存の基地局のハンドオーバーに関しては,ベンダーによって対応がまちまちだ。例えばモトローラは,フェムトセルから既存の基地局へのハンドオーバーはサポート予定だが,既存基地局からフェムトセルへのハンドオーバーは,「技術的には可能だが,ターゲットとなるフェムトセルが多すぎるため,ビジネス的にやるべきかどうかの判断になる」(モトローラ)という。

 フェムトセルのサービス面でのコンセプトから,ハンドオーバーをサポートするべきかどうかを検討すべきという意見もある。ベンダーや事業者が考えるフェムトセルのサービス像の一つに,フェムトセル経由の通話や通信を安くするという形がある。設備投資やネットワークの負荷を抑えられる対価として,ユーザーに対して料金面で優遇する。こうした場合,通話しながらフェムトセルから既存の基地局へシームレスにハンドオーバーすると,厳密なルール運用が難しくなる。そのため「あえてハンドオーバーをサポートしないほうが,サービス運営上のメリットがあるのでは」と語るベンダーもある。

疑問7:新しいメニューやサービスを使えるようになるの?

 残念ながら,この疑問に対する答はまだ見えていない。ユーザーにとっては,屋内のカバレッジを広げられ,フェムトセルの独占によって高速通信が可能になるというメリットがある。しかしこれらの利点は,既存の基地局を事業者がより充実すれば得られる。何もユーザー自身の電力とブロードバンド回線の帯域を使って解消しなくてもよい話だ。

 筆者としては,ぜひともフェムトセル経由の通話や通信を安くしてほしいと考えている。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役CTO(最高技術責任者)にこの疑問を尋ねたところ,「音声はホワイトプランの導入によって既にに無料に近い形になっている。パケット通信に関してはユーザーのARPU(average revenue per user)次第で割り引くかどうか検討する」との回答を得た。ホワイトプランに関しては,午後9時から午前1時という音声通話のトラフィックが集中する時間帯は定額の対象外だが,トラフィックの傾向次第では,フェムトセルの導入によってこのような制限が取り払われるかもしれない。

 家の付近(ホームゾーン)では通信料金を割り引くというサービスは,携帯電話で固定電話を置き換えるという意味からFMS(fixed mobile substitution)サービスと呼ばれ,欧州の携帯電話事業者を中心にサービスを開始している。これらの事業者は,現状では単なる料金施策としてサービスを導入しているが,フェムトセルを導入することで,より採算面でバランスをとれた形でFMSサービスの提供が可能になる。フェムトセルは事業者の基地局の運用コストを抑えられ,ネットワークの負荷を下げられるからだ。だとすれば日本でも,フェムトセルの導入によって携帯電話事業者が得られるメリットをぜひユーザーに還元してほしい。フェムトセルの開始が,日本におけるFMSサービスのスタートになってほしいと考えている。

 なおソフトバンクモバイルは,フェムトセルとホームサーバー機能の一体化を検討していることも明らかにしている。無線LANルーター機能やDLNA(digital living network alliance)などの機能を使って,携帯電話のほか家庭内のさまざまなデジタル機器を自社サービスに取り込みたい考えだ。サービスの作り方次第では,ユーザーにとって魅力的なサービスに仕上がる可能性もある。いずれにしても今年後半から来年にかけて,日本でもフェムトセルが市場に登場することになる。今から楽しみだ。

■変更履歴
フェムトセルの扱いについて「資格を持った電気通信設備工事担任者が設置が求められる」としていましたが,正しくは「資格を持った電気通信主任技術者による設置や管理,監督が求められる」となります。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/08/08 16:50]