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 筆者は7月上旬,オフィスや家屋でIEEE802.11nドラフト2.0対応機器を使ってビルや一戸建て住宅などでスループット測定実験を実施した。日経コミュニケーションの特集「802.11nの実力」を執筆するためだ。802.11nは,スループット(実効速度)で100Mビット/秒を超えることを目指して開発されている無線LAN規格で,2008年10月に完成する予定である。最近になって一足早く最新のドラフトである2.0対応版製品が出てきたので,実力を調べてみようと考えたのだ。

 実験結果を簡単にまとめると,(1)最も良いコンディションでは無線LANのスループットが115Mビット/秒となり,100Mイーサネットのスループットである94Mビット/秒を上回った,(2)オフィスではアクセスポイントから50m離れた地点まではほぼ劣化なく100Mイーサネット同等の速度になった――というものだった。おおむね期待に応える結果だったといえるだろう。

速度だけでなく無線チャネルも増えている

 この結果で思いを強くしたのは,「802.11nがやってくれば,有線で構築している現行の企業ネットワークの無線化が加速されるのではないか」ということだ。

 無線LANの場合,複数の端末が同じ無線チャネルを同時に利用するとスループットは端末の台数分だけ減少してしまう。1台で100Mビット/秒だったとすると,2台同時なら50Mビット/秒,3台同時なら33Mビット/秒になる。とはいうものの,通常のオフィス業務であれば,常時100Mビット/秒を必要とするアプリケーションなど存在しない。多くの業務では10Mビット/秒もあれば十分だろう。しかも,同時に連続的なデータ転送がないと考えられるなら,1台のアクセスポイントに複数台の端末を接続して運用しても支障はないだろう。

 仮に,1台当たりの帯域を大きく取りたいケースが生じたとしたら,その場合は端末ごとに利用チャネルをアサインするという手法で対処できる。「そんな運用をすると,チャネルが足りなくなるのでは?」と思うかもしれないが,無線LANで利用できるチャネルはどんどん増えているのでそれほど深刻な問題にはならないだろう。現時点で無線LANで使えるチャネル数は22チャネルあるからだ(20MHzの場合,40MHz幅を使った場合は10組のチャネル)。

セキュリティは上位層で守れる

 企業ネットの無線化で一番の問題だったセキュリティも,今ではそれほど神経質にならなくてもいい状況になっている。盗聴回避の仕組みが強化されてきたからだ。

 例えばセキュリティ上の欠陥がある無線LANの暗号方式「WEP」(wired equivalent privacy)は,802.11n以降なら利用禁止にして運用できる。相互接続プログラムを提供するWi-Fiアライアンスの802.11n認証では,新暗号化方式であるWPA2(wireless protected access 2)が義務化されるからだ。アクセスポイントと端末がともに802.11nに対応しているなら,セキュリティ上の欠陥がないWPA2を使って相互に接続できるわけだ。

 無線のネットワークのセキュリティ自体に不安があるなら,サーバーと端末間で暗号化するといった手段も採れる。HTTPでやり取りする場合はSSLを使えるし,それ以外の場合にはIPsecを使うことが可能だ。有線であってもタッピング(ネットワークの間に機器を挟んで盗聴すること)の危険があることを考えれば,エンド-エンドでセキュリティを担保する手段を考えたほうが現実的な気がする。

相互接続性問題も解消へ

 もう一つ,802.11nで問題視されていた相互接続性であるが,ここにきて気がねなく導入できる環境が整いつつある。Wi-Fiアライアンスが802.11nドラフト2.0をベースにした相互接続プログラムを2007年6月末に開始したからだ。この相互接続プログラムで相互接続性の検証を済ませた対応製品を導入すれば,相互接続性で苦労することはまずない。こうした対応製品の出荷も始まりつつある。

 2008年1月に最終決定される予定(制定は2008年10月)の802.11nの最終版と802.11nドラフト2.0版の相互接続性だが,各無線LANチップベンダーとも「少なくともファームウエアのアップグレードで対応できる」としており,将来に渡る相互接続性もほぼ確保されているといえるだろう。

 さて,IEEE802.11nは企業ネットの無線化をどの程度加速させるのだろうか。もちろん,企業の有線LANを無線LANに置き換えるには相当のコストがかかる。それに見合うメリットを得られるかどうかは,企業によって違ってくるだろう。それでも,これから企業ネットを新設/刷新する際に,「11n対応機器の導入」がシステム担当者を悩ませる大きなテーマとなってくることは間違いないだろう。