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 米Microsoftが急成長しているソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)ベンダーのFacebookに2億4000万ドルを出資する,との発表が10月24日になされた(関連記事:Microsoft,SNSのFacebookに2億4000万ドル出資)。このニュースを聞いて脳裏をよぎったのが,今は無き米国のベンチャー企業,Goのことである。Goは1980年代終わりから1990年代前半にかけて,ペン・コンピュータとペン入力OS「PenPoint」で話題になったが,MicrosoftやIBMなどの大企業に翻弄されるような格好で,成功を収めることなく姿を消した(関連記事:ペン・コンピューティングの夢を砕かれた米Goの創業者がMSを訴える。このあたりの話は書籍「シリコンバレーアドベンチャー(日経BP出版センター発行)」に詳しい。なお,MicrosoftはGoには出資をしていない)。

 Facebookの特徴は,プロフィールやメッセージといった一般的なSNSの機能に加えて,Facebook Platformと呼ぶアプリケーション開発実行用APIを公開していることにある(関連記事:マッシュアップ・ラボ 速報!Facebookアプリケーション開発(入門編))。既存のFacebookアプリケーションを利用できるだけでなく,必要に応じてそのAPIを使ってFacebook上で動作するアプリケーションを開発できるわけだ。Facebook Platformは,インターネット・アプリケーションに対する“OS的”な役割を提供しているという意味合いで「ソーシャルOS」などと呼ばれ,その点からも非常に注目されている(関連記事:SNSの革命児Facebookをめぐる冒険)。

現時点では“No”だ

 Microsoftは同日のニュースリリースで「今回の提携関係強化により,MicrosoftはFacebookにとって,サードパーティーとして唯一の広告プラットフォーム・パートナーとなり,今後米国に加えて世界でFacebookに広告を販売できるようになる」としている。しかし,Microsoftの狙いは広告事業だけではないはずだ。Microsoftは現在,オンライン・サービス・ビジネスで,「ソフトウエア+サービス」をキーワードに据えたWindows Liveで猛烈な巻き返しを図っている。Windows Liveの狙いは,Windowsアプリケーションとインターネット上のWebサービスを,シームレスにユーザーに提供することだとしている。そのための方法としては当然,それをWindowsという商品名で呼ぶかどうかは別にして,WindowsからデスクトップOSの枠をはずして,ソーシャルOSとして拡張させていくことは選択肢に入っているはずだ。

 では,「ペン入力OS」を「ソーシャルOS」に単純に置き換えれば,Goに起こったようなことがFacebookにも起こり得るか,ということになる。答えから言うと,現時点ではその可能性は低いだろう。前述の書籍によると,Microsoftは当時,その巨大な影響力で,自社の「Pen Windows」向けにアプリケーションを開発するソフトウエア・ベンダーを囲い込み,Goを市場から排斥したとしている。しかし,オープンソースによる開発モデルが一般的になった現在では,ソフトウエア・ベンダーの囲い込みは当時ほど有効な戦略にはならない。逆に,一般ユーザーや個々の開発者の影響力は,Webが普及することで,当時とは比べ物にならないくらい大きくなった。さらに,Microsoftはこれまでの数々の独占禁止法違反裁判での経験から(関連記事:Microsoftの独禁法違反を巡ってEUが勝利宣言など),たとえばFacebookを買収するような強引な手に出ることもなさそうに思える。

 外資系企業にて数多くのソフトウェア・プロジェクトに携わる瀬谷啓介氏は,ソーシャルOSの今後について「遅かれ早かれソーシャルOSプロバイダが複数登場し,その間でソーシャルグラフを共有するためのスタンダードが生まれるはず」と見る。最終的に勝利するのが,Google,Yahoo,Amazon,Microsoftといった巨大企業なのか,あるいはFacebookのような新興企業なのか(もっともFacebookの企業評価額は現在,150億ドルとされているので,十分に巨大かもしれない),さらに,「そうした海外の動きに対して日本企業がどれだけ俊敏かつ独自の貢献ができるのか」(瀬谷氏)。様々な課題はあるものの,IT業界における昨今の動きの速さを見ていると,答えは案外早く出る可能性がある。