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 岡田斗司夫氏のダイエット本「いつまでもデブと思うなよ」が好評だ。毎日の食事の内容を手帳などに書き出すことからダイエットを始めるという,誰でも簡単に取り組めそうな手法が多くの読者にウケた。これによって,徐々に食事のメニューや回数を意識し,摂取カロリーを計算するようになるという。

 これは言い換えると,食生活習慣を“見える化”する取り組みである。筆者はこの本を読んで,ITの消費電力問題に何が欠けているのかを改めて痛感した。それは,消費電力の“見える化”である。

省電力化製品を使うだけで十分なのか

 企業が環境対策を進める上で,IT機器の電力削減は避けては通れない。これは以前にも別の記事で触れた(関連記事1)。サーバーやストレージ,クライアントPCが消費する電力は,ここ数年増加する一方だといわれている。いわば,“電力のメタボリック症候群”である。特にデータセンターでは,2~3年前から消費電力の増加に設備が追いつかなくなることが大きな問題になり始めた。ここへ来て,大手企業のサーバー設備でも,同様の問題が指摘されるようになってきた。

 「ウチはそれほどでもない」という企業にも,電力問題は忍び寄っている。経済産業省と環境省の合同審議会が,39業界に属する業界団体にCO2削減の自主行動計画の策定を求めるなど,業界団体ごとに具体的な数値目標を掲げて環境問題に取り組まねばならない状況になりつつある。原油価格の高騰によって電力料金の上昇傾向も,程度の差こそあれ,企業が消費電力を削減する動機になるかもしれない。

 このような状況を受けて,ITベンダー各社は省電力をうたう製品を出荷し始めている。各社のブレード・サーバーは揃って,通常サーバーよりも消費電力が小さいこと,電力消費効率が高いことをアピール・ポイントにしている。NECや日立製作所は,省エネを求めるユーザー企業に特化したPCサーバーの出荷を始めた(関連記事2関連記事3)。

 では,こういった製品を採用すれば情報システムの消費電力削減が進むかというと,必ずしもそうはいえない。そもそも企業の多くが,自社の情報システムを構成するIT機器がどのくらい電力を消費しているか,把握できていないのが実状である。サーバーの台数が増えたり,新システムを構築したりといった,電力増加要素も抱えている。一部の製品が入れ替わったからといって,情報システムの消費電力が減ったとは言い切れない。

 ベンダーが称する「省電力型製品」も,あくまで従来製品とカタログ・スペック上で比較すると消費電力が小さいということにすぎない。実際に企業が使った場合の電力削減効果を保証するものとは限らない。それをもって消費電力を削減したとはいえそうにない。

消費電力を把握できない

 IT機器の消費電力を減らすということであれば,まずは現状を把握した上で対策を講じ,その効果を計る取り組みが必要なのではないだろうか。しかし,そのための有効な手立てが今のところ見あたらない。

 サーバーやストレージの消費電力を計測しようとしても,そのような機能を備えているハードウエアは,ブレード・サーバーなどごく一部である。例えば,日本ヒューレット・パッカードは,ブレードPCサーバーに電力計測機能を組み込み,消費電力を削減した企業向けの割引サービスを提供している(関連記事4)。しかし,このような機能を持つ機種は,まだ限定的だ。

 電力設備側で計測する手はある。データセンターにサーバーを預けている場合は,データセンター事業者がユーザー企業ごとに電力計を設置し,消費電力を計測していることが多い。難しいのは,オフィスの1区画にサーバー室を設置しているケース。消費電力をオフィス・フロア全体の量しか計測していない場合が多く,サーバー室でどれだけ使ったかがわからない。同様の理由で,台数が多いクライアントPCの消費電力も把握するのが難しい。オフィス内には,複合機やプリンタ,蛍光灯,空調機などがあり,IT機器が使った分だけを電力設備側で計測することは,事実上不可能だろう。

 APCジャパンなどが出荷している,電力計測が可能なUPS(無停電電源装置)や電源タップを使うという手段はある。ただし,装置を購入する分コストがかかってしまう。

ベンダーは“見える化”の手段を

 現状把握と効果測定を抜きにした電力削減は,日々の食生活を記録することもなく,体重計にも乗らないダイエットのようなものだ。ただ闇雲に,ダイエット食品に手を伸ばしても,健全に痩せるのは難しい。

 ITベンダー各社には,省電力型製品に加えて,ぜひユーザー企業が電力を“見える化”するための製品,サービスの提供を期待したい。

 と,ここまで書いたところで,米IBMが電力計測ツール「Systems Director Active Energy Manager」の新版を提供するというプレスリリースを,11月6日に発表していることに気づいた。PCサーバーのほか,同社のUNIXサーバーやメインフレーム,ストレージの電力もリアルタイムで計測でき,システム運用管理ツール「Tivoli」とも連携可能だという。12月7日から無償でダウンロードできるようだ。

 米国では,米AMDや米デルなどが設立した「The Green Grid」や,米インテルと米グーグルが設立した「Climate Saversコンピュータ・イニシアチブ」といった業界団体が,電力消費の現状把握のための手法やガイドラインの作成に着手する意向を表明している。日本のベンダーにもより積極的な取り組みが求められる。