PR

 先日,大手ITサービス会社の営業部長たちと「新人・若手営業の育成」についてざっくばらんに話す機会があった。そこで彼らが口々に語っていたのが「ソリューション営業として大事なエッセンスを伝え,若手がぐんと成長する。そんな機会がめっきり減ってしまった」という悩みだ。彼らが言うソリューション営業のエッセンスとは目先の営業ノウハウではなく,「顧客の本音を聞き出し,その中からニーズを的確につかむ」というもの。システムという形のないものを顧客に提案して買ってもらうための“営業の心得”に近い。

 ITサービス業界のプロの方々は「それは,ソリューション営業の“イロハのイ”だよ」と思われるかもしれない。だが,営業の最前線で指揮を取る彼らからすれば,そうシンプルにはいかないようだ。

 最近の営業担当者は,担当案件数が増える一方で商談の期間が短くなるなど,厳しい局面に立たされている。新人や若手には「先輩から学ぶ」という余裕がなく,教える側のマネージャやグループリーダーも,後輩の育成に割く時間が激減してしまった。しかも企業のシステム環境が激変しているために,小手先のの営業テクニックを伝えてもすぐに風化してしまうという悩しい問題もある。そんな状況だから,営業のエッセンスを伝えるといっても,今までの研修制度やOJT (職場内訓練)といった従来手法だけではうまく伝えられなくなっているというのだ。

 この話が印象に残ったので,筆者は取材で営業部長やマネージャ,グループリーダーに会うたびに「若手営業の育成」について聞くようになった。その中で何度も話題に上ったのが「最近の若手にありがちな“ダメな営業パターン”」だった。なるほど,と思えるものが多かったので,ここでいくつか紹介したい。

■イマイチな営業その1:顧客の前で”大演説”し,それで満足してしまう

 かばんの中身に詰まった自社商材のパンフレット。それを初回訪問からテーブルの上に広げ,通り一遍の営業トークだけを「立て板に水」のように続ける。黙ってうなずいている顧客を見て「この案件はとれる」とほくそ笑む。ところが後日訪問してみると時すでに遅し,顧客はほかの会社に発注してしまっていた…。

 商材知識を披露することに夢中で,顧客から本音を聞き出すためのタイミングを失ってしまう。これは,商材知識で不足している部分を突っ込まれたくない,という自信のなさでもある。だが,アピールしたい気持ちをぐっと抑え,時に聞き役に回れるかどうか。それはまさにソリューション営業のエッセンスだ。筆者が取材したトップ営業の中には「名刺と手帳,メモ用のA4用紙だけを持って訪問。商談中に自社商材の具体的な説明が必要となれば,A4用紙に素早く書き出して顧客に見せる」という猛者もいた。やや極端な例だが,商材知識を頭に叩き込んでいるからこそ,それを顧客とのやり取りの中で自在に引き出したり仕舞ったりできるのだろう。

■イマイチな営業その2:顧客との会話が,想定内の問答に終始する

 なんとか顧客の本音を聞きだそうと,質問を多数用意し商談に臨むのは間違っていない。しかしここにも,若手がはまりやすい落とし穴がある。例えば,自分が描いたシナリオ通りに順番に質問し,顧客から想定内の回答をもらって安心しているケースだ。だがすべてシナリオ通りに進むのであれば,顧客ニーズをある程度つかんでいるということなので,営業に行く必要がない。

 ある営業部長は,10個の質問で「顧客から9つの“Yes”と1つの“No”を引き出せ」と語る。顧客は商談の中のどこかで,シナリオから外れた答えを返してくる。その時内心「まずい」と話題を変えるのではなく,むしろ勇気を持ってその1点を掘り下げることが,顧客の本当のニーズを引き出す最大のチャンス。その先はシナリオではなくアドリブの世界であり,営業の腕の見せ所になるわけだ。

■イマイチな営業その3:入社したてのころ目立っていた新人は,なかなかトップ営業になれない

 これは,ある大手ITサービス会社で何百人もの部下を率いている営業部長が語った経験則だ。新人の中にはたいてい「大学の部活動やサークル活動で幹部を務めていた」「入社時に新人代表の挨拶をした」という人がいる。そんな人の周囲には自然と人が集まってくるし,上司や先輩ともすぐに打ち解ける。営業活動を始めると,最初のうちは他の新人を大きく引き離す。が,いずれ壁にぶつかってしまうというのだ。

 最初からセンスを持っている新人は,顧客とのリレーションを作るのがうまく効率的に商談を進めているように見える。だが,いつの間にか「“仲良し”の客先しか訪問しない」「顧客のIT部門の担当者とばかりつるんでいる」といった状態に陥りやすい。当たり前のことだが営業はソリが合う合わないに関係なく,相手が納得するような提案をして契約してもらう必要がある。時には顧客の経営層とも対等に渡り合えなければ,より大きなシステムの商談につながらない。そうした力を身に付ける近道はなく,厳しい顧客にたくさん叩かれながら作り上げていくしかない。

※          ※          ※

 こうした“イマイチな営業パターン”は,裏を返せばトップ営業にステップアップしていくためのヒントにもなるはず。筆者はこう考え,その詳細を日経ソリューションビジネスの12月15日号特集『見える化して学ばせるトップ営業の思考法』にまとめた。ご関心のある読者にはそちらをご覧いただければ幸いである。ITサービス会社の中には今,定型化した営業テクニックを伝えるのではなく,アドリブの商談でも力を発揮できるよう,自社のトップ営業が持つ“思考法”を学ばせるという取り組みが進んでいる。

 最後に蛇足だが,今回の特集で人材育成を取り上げたことで,記者として思わぬ“効果”もあった。「相手の本音を聞き出す」という点では,記者の仕事も営業職と似ている。取材はまさにアドリブ力が試される場であり,いつも終わった後で「自分には,つくづくアドリブのセンスがないなあ」と反省することばかり。営業部長たちの人材育成に関する悩みは決して人ごとではない,と自問自答し,取材スタイルを改めて見直すきっかけにもなっている。