PR

 「ポリバレント」という言葉をご存じだろうか。サッカー好きな人であれば1度は耳にしたことがあるだろう。「多機能」や「多様性」と言った意味で、前日本代表監督のイビチャ・オシム氏が、代表チームの選考基準として、この言葉を使ったことから注目されるようになった。複数のポジションを高いレベルでこなせる浦和レッドダイヤモンズの阿部勇樹選手などが、ポリバレントな選手と評さることがある。

 ポリバレントな人材が重宝されるのは、サッカー界に限ったことではない。ITの世界でも、ポリバレントなシステム・エンジニア(SE)が必要とされている。今回、日経コンピュータ(1月15日号)の特集「出でよ、次世代ITリーダー」をまとめるに当たり、約30社のユーザー企業を取材した。情報システム部門で開発プロジェクトを率いるITリーダーは、「経営課題の解決」「業務部門のニーズの掘り起こし」「ベンダーとの折衝」「部下の育成」といった複数の役割を高いレベルでこなしていた。

 特集では、ユーザー企業の情報システム部門に焦点を当てて記事をまとめた。以下では、ポリバレントなSEの育成に奮闘しているSIベンダー2社の取り組みを紹介したい。

入社から5年間、テストのみ担当

 数多くのSEを抱え、多様なサービスを提供している大手・中堅SIベンダーでは、ある程度の分業制が確立している。限られた製品・技術に深く詳しいスペシャリストは、特定のタスクを的確かつ迅速にこなせるため、プロジェクトを遂行する上で重宝する。スペシャリストは次から次へとプロジェクトを渡り歩いたり、複数のプロジェクトを掛け持ちしたりするケースもざらだ。

 重宝するスペシャリストだが、一歩間違えると「馬鹿の一つ覚え」となり得意分野が広がらないというジレンマを抱えている。その点を問題視して、人材育成の仕組みを見直したのがNTTデータである。

 同社は07年4月から、若年層(入社5年目まで)の社員を対象とした人材育成プログラム「Career Development Programベーシック(CDPベーシック)」制度を開始した。特徴的なのは、「企画」「要件定義」「設計」「製造」「試験(テスト)」といったシステム開発の各工程の実務経験を一通り経験させる仕組みを導入した点だ。経験した実務と未経験の実務が一目で分かるように、SEが経験した実務をマトリックスで一覧するアプリケーションを自社開発した。

 同社が、CDPベーシック制度の導入に踏み切った背景には、一部のSEにおいて実務経験が大幅に偏っていたという反省がある。若年層の社員を対象に実務経験の棚卸し調査を実施したところ、「入社から5年間、製造テストしか担当していないSEがいることが判明した」(人事部人財開発担当の上原智課長)。

 当該SEは、テストのスペシャリストとして現場で重宝されていたという。しかし、「そのままでは(当該SEの)活躍の場が広がらない。入社5年目までに開発工程全般を一通り経験した上で、得意分野を2つ、3つと増やしていってほしい」と上原課長はCDPベーシック制度の狙いを語る。

すべての研修に社長自らが参加

 ポリバレントなSEを育てるには、実務経験を通したトレーニング(OJT)が有効だ。しかし、OJTだけで必要な技術・スキルをまんべんなく習得することは難しい。そこで、ほとんどのSIベンダーが研修制度を併用している。社内外から講師を招いて、業務だけでは習得しきれない技術・スキルを研修メニューで補う。社外の研修に社員を参加させているケースも多い。

 先のNTTデータも、各フェーズの実務の遂行に必要な知識・スキルを体系的に学ばせるため、研修メニューについても各実務にマッピングする形で個別に用意。それら研修は単位制として、5年間で一定単位数の取得を義務づけている。

 研修の実施にはそれ相応のコストが掛かる。せっかく研修を実施しても、参加者がまばらだったり、単に参加しているだけでは身にならない。コストが効果に見合っていないと感じているなら、研修制度自体が形骸化していないか今一度見直してみるのも一計だ。

 社員研修の形骸化を防ぐ手立てに工夫を凝らしているのが東洋ビジネスエンジニアリングである。研修サービスを提供しているグローバル ナレッジ ネットワークほかに協力を仰ぎ、年次ごとの階層別研修や役割別のキャリア育成研修を実施している。

 特にユニークなのが、社内で実施するすべての研修に社長が毎回参加している点だ。社長が研修の開始前に、会社の方向性や社員に期待している技術分野や業種領域など、その時々のテーマを20~30分程度語るのだという。社長自らが毎回足を運ぶことで、研修の重要性を社員に暗に訴えるのが狙いである。「社長が同席していると緊張感が違う。(社長が同席するようになってから)研修に遅刻する社員が激減した」(経営企画本部の飯塚巧人事部長)。

 同社は、ERPシステムのグローバル展開プロジェクトなどで、海外で従事している社員を数多く抱えている。そうした長期赴任中の社員についても、階層別研修を受ける時期が来たら強制的に一時帰国させている。一時的とはいえど、プロジェクトの途中に主要メンバーが抜けるのは現場からすれば痛手だが、「人材育成は、社長肝いりの重要なミッション。(育成対象者の)上長にも重要性を理解してもらっているので、人繰りに協力的」(飯塚人事部長)という。

 「中期経営計画に人材育成のテーマを組み入れた」。取材では、ユーザー企業やベンダー企業の担当者の多くがそう口をそろる。ポリバレントなSEの育成は難題である。従来のOJTや研修制度を抜本的に見直すには経営部門を巻き込み全社一丸となって取り組む姿勢が求められる。