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 2008年早々,国内のパソコン市場において2つのノートパソコンに大きな注目が集まった。米アップルが開発した「MacBook Air」,そして台湾アスーステック・コンピューターが開発した「Eee PC 4G-X」(以下,Eee PC)である。

 ユーザー評価は,どちらもおおむね高い。一部ユーザーの盛り上がりにだけ目を向ければ,“黒船来襲”といった感さえある。発表から出荷開始までに数週間のインターバルがあり,多くのユーザーが,いち早く触れて確かめたいという好奇心をかき立てられたようだ。

 しかし,本当にこの2製品はパソコン市場に一石を投じる存在になるのだろうか。もしそうだとすれば,何を投げかけるのだろう。

 MacBook Airは,A4判サイズながら最薄部分が4mmと劇的に薄いことが話題の要因。ただし,23万円以上するプレミアムな商品だ。一方のEee PCは,5万円を切る激安な価格が注目の理由。A5判と小さく,重さも1kgを切る。全く異なるコンセプトの製品ながら,「パソコンをもっと気楽に日々持ち歩きたい」という欲求を満たしてくれることを期待させる点では似ている。MacBook Airなら鞄のすきまにスッと入りそうだし,Eee PCなら壊れることを気にしないで,ガンガン活用できそうな気にさせてくれる。

 MacBook AirとEee PCが日本で注目されるのは,「ユーザーが出せる最大の金額で,その時点で最高の技術を限りなくつぎ込む」という,これまでの常識的な国内メーカー製パソコンのコンセプトを大きく逸脱しているからだ。どちらの製品も,機能を削ることで,薄さや小ささを実現している。

 ただし,価格に対する考え方は正反対。MacBook Airは「機能の引き算」のためにつぎ込んだ企業努力を価格に転嫁し,一方のEee PCはコストダウンの分,価格を割り引いた。製品開発に対する美学の違いと言えばそれまでだが,両極端で興味深い。

 価格重視のユーザーなら,Eee PCはそそられる製品だろう。「液晶サイズが小さい」「記憶領域が少ない」「バッテリー駆動時間も短い」――さまざまな点で今どきのパソコンよりも劣るが,だからこそ安いと聞けば納得できる。そこそこの性能は備えているので,モバイル環境で仕事することに切実なニーズがある企業ユーザーにとっては,安いことだけで導入を検討するに十分値する。個人ユーザーにとっても,買ってみて試しにモバイルでもしてみようかという気になる。

 元々,Eee PCは発展途上国や先進国の低所得者層をターゲットに考案された製品だった。しかし,実は2台目のパソコンという需要にぴったり当てはまる。特に,電車通勤が多い日本の社会風土にマッチするのではないか。モバイルマニアではなく,一般ユーザーに対して訴求を試みる販売元の姿勢は的を得ているように思える。その意味では,筆者はEee PCが国内のパソコン市場に一石を投じたと感じている。

何かが欠けているMacBook Air

 一方,高額なMacBook Airはどうだろうか。アップルは「MacBook Airはサブノートではない。よって,松下電器産業のLet's noteシリーズはライバルではない」とする。しかし,ユーザーが比較対象として第一に挙げるのは明らかにそのLet's noteだろう。

 そこで,Let's noteと仕様を比べてみた。一部でMacBook Airは,「光学ドライブがないのがNG」「LAN端子を省いたのは致命的」「CPUが低速過ぎる」などの声も聞かれるが,実は価格面でも仕様面でもLet's noteと大差がなく,互角に張り合える製品であることが分かる。疑問に感じた方は,一度液晶サイズの近い「Wシリーズ」や「Tシリーズ」とスペックを比べてみてほしい。

 実は,この「互角」だというところに,MacBook Airは大きな矛盾をはらんでいると筆者は考える。確かに「最薄部4mm」は驚異的だし,Let's noteに比べてデザインも優れている。

 しかし,決定打に欠けるのだ。もちろん,MacBook Airのコンセプトを具現化するために幾多のハードルがあっただろうし,膨大な資金を投じただろうことは容易に想像が付く。とかくモバイル向けの電子機器は,限られたスペースに最新機能を大量に盛り込む。技術者はそのために最小化という難題に立ち向かう。MacBook Airの実物を手にし,その薄さとそれを生かしたデザインを目の当たりにすると,よくぞ製品化にこぎ着けたものだと感心もする。しかし,口は悪いが,しょせんそれだけ,なのである。

 これまでアップルは,斬新なコンセプトを具現化することで,熱狂的なファンを獲得してきた。ここ数年は,iPodやiPhoneの投入で,旧来のMacintosh好きのマニアだけでなく,ごく一般的なユーザーをも虜にするようになった。 iPodは全世界で1億台を売ったし,iPhoneも400万台を突破した。コンセプトが斬新だったり,使い勝手が飛び抜けているだけでなく,ライバルに比べて抜群に優れているコストパフォーマンスがその原動力になったことは間違いない。もちろん,ハード単体としてだけでなく,サービスやソフトなど付加価値も含めて,コストパフォーマンスを上げたところにポイントがある。ところが,MacBook Airは,iPodやiPhoneが持っていた何か,が欠けている。価格に見合う,もしくは超える何か,がないのだ。

 MacBook Airを発表した「Macworld Conference & Expo」の基調講演の会場で,象徴的なシーンを目の当たりにした。MacBook Airを発表した瞬間,そしてその価格を発表した瞬間,スティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)に対する声援はいつになく小さかったのだ。パソコンを再発明したわけでもなければ,新しいコンセプトを提唱したわけでもない。「薄い」というその1点だけがアドバンテージであるただのパソコンに過ぎないことを,観客は一瞬にして見抜いたのだろう。米国は,パソコンの平均価格が日本より低く,なおさらコストパフォーマンスの悪さが際立ってしまった。もちろん,Mac好きのユーザーは飛びつくようにMacBook Airを購入するだろう。ただ,それが新しいユーザーも取り込む大ヒットに結び付くとは思えない。