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 「ローテク電子政府」とは何か。おそらく,こんな言葉は初耳だという人も少なからずいるだろう。政府の電子政府政策に出てくる言葉ではない。早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授の野口悠紀雄氏によって提唱されたものである(注)。筆者は,このコンセプトは当面の電子政府の方向性として正しいと思う。そこで,野口氏とは一面識もないが,勝手に紹介させていただくことにする。

(注)「せめて『ローテク電子政府』を作ってほしい」(『ダイヤモンド・オンライン』2008年01月21日)

 「提出必要用紙をウェブを通じて入手し,必要ならその他の書類を追加して郵送することにより届出が完了する」――野口氏は,ローテク電子政府についてこう定義する。一方で,国税庁の「所得税の確定申告書作成コーナー」についてもローテク電子政府の例として挙げていることから,野口氏の提唱する「ローテク電子政府」には次の2段階のレベルが存在すると考えられる(以下の分類は筆者によるもの)。

第1段階:提出必要用紙をウェブを通じて入手できる段階
第2段階:ウェブを通じて入手した用紙を郵送するなどして,役所の窓口に出向かなくても済むようにする段階

 一言でいえば「ローテク電子政府」とは,「申請・届出の電子的なワンストップは実現できなくても構わないので,その前段階までのサービスを簡便に提供しよう」というコンセプトである。まずは「提出必要用紙をウェブを通じて入手」できるようにする。さらに「必要ならその他の書類を追加して郵送することにより届出が完了する」のであればなお良い,というわけだ。

 これまで日本の電子政府/電子自治体は,「ローテク電子政府」のような取り組みについて,瞬時に内容が理解できるようなキャッチフレーズを打ち出しては来なかったし,体系的に推進もして来なかった。

 政府の政策として,「官民ワンストップ」のような将来像を描くのは悪いことではない。「オンライン申請率50%」というかなり難しそうな高い目標を掲げるのも,批判もあるが個人的にはアリだと思う。だが,これらは一足飛びに実現する話ではない。行政サービス提供の現場に向けては,こうした大きな政策目標と並行して,まずできるところから一歩一歩サービスの向上を図るための施策と目標も打ち出すべきではないだろうか。

 そのための分かりやすいキャッチフレーズとして「ローテク電子政府」「ローテク電子自治体」という言葉を,政府や自治体は採用してはどうだろうか。

「ローテク電子政府/電子自治体」には数値目標が必須

 「ローテク電子政府/電子自治体」を推進するには二つの方向性が考えられる。一つは,適用できる新たなサービスを検討することである(例えば,野口氏は先のコラムで運転免許証の更新についてローテク電子政府化を提案していた)。

 もう一つは,「ローテク電子政府/電子自治体」における目標の数値化である。筆者が取材することが多い自治体について見てみよう。申請書のダウンロードサービスや住民票の写しの交付のインターネット予約など,第1段階の取り組みではあるが「ローテク電子自治体」サービスを既に実施している自治体は実はかなり多い。

 だが,これまでの自治体への取材経験から推測すると,申請書のダウンロード件数,ダウンロードされた申請書が実際に役所の窓口で使用された件数といった実績値をきちんと管理・検証し,将来に向けて数値目標を立てている自治体は少ないのではないかと思う。

 「ローテク電子自治体」の数値目標を実現するための方策は,自治体サイトへのアクセスを増やすための取り組みを強化することにもつながる。なぜなら,数値目標を達成するためには,

  • 広報誌などサイト以外の場でPRできているか
  • 申請書がダウンロードできることが一目で分かるようサイト上で案内されているか
  • SEO(検索エンジン最適化)対策は十分か
  • サービス自体の説明が分かりやすいか(他の自治体と比べてどうか)

などの検討・改善が必要となるからである。

 さらに言えば,自治体サイトへのアクセスを増やすには,地域住民へのインターネットの普及をどう推進するかについても考えなくてはならないだろう。サービスの仕組み自体はそう複雑ではない「ローテク電子自治体」だが,普及策の検討となると意外と奥は深く,波及効果は大きそうだ。「ローテク電子自治体」の数値目標は,ぜひ設定すべきだと思う。

 最後に,蛇足ながら付け加えておきたいのは,「ローテク電子政府/電子自治体」はあくまでもワンストップの電子行政サービスが実現するまでの過渡的なものだということである。野口氏の提言も「日本ではワンストップサービスの実現は難しそうなので,せめてローテク電子政府を」という趣旨だ。

 ワンストップが進まない根本原因の一つに公的個人認証の使い勝手の悪さがあることは明らかである。野口氏は別のコラムで公的個人認証について「問題は,その手続きがやたらと難しそうなことだ。私は,説明を少し読みかけただけであきらめてしまった」と,エンドユーザーとしての率直な感想を述べている。筆者も前回の「記者の眼」で,個人認証にICカード(公的個人認証)を使わない方法があってもよいのではないかと指摘した。公的個人認証の使い勝手を抜本的に改善するか,全国民に強制的に使用させるか,あるいは,使用しないでもよいという選択肢を用意しない限り,「ローテク電子政府」の次の段階に進むのは難しいだろう。