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 以前,ITproのコラム『記者のつぶやき』で「出でよ“サビマネ”」という一文を書いた。“サビマネ”というのは,もちろん筆者の勝手な造語である。プロジェクトマネジメントに責任を持つ職種を“プロマネ”と略称するように,「ITサービス・マネジメント」に責任を持つ職種,あるいは,その職種のプロフェッショナルと言える人材をサビマネと呼んでみたのだ。

 サビマネはプロマネに比べて発音しづらいし,筆者自身,この言葉が定着すると本気で期待していたわけではない。それでも敢えてサビマネ待望論を書いたのには理由がある。企業情報システムにおいて,ITサービス・マネジメントという職務が極めて重要であるにもかかわらず,一般にはもちろん,IT業界においてさえ,まだ十分に認知されているとは言えないからだ。

 再びこの話題を取り上げようと思ったのは,実はある調査の結果を見たからである。それについて触れる前に,そもそもITサービス・マネジメントとは何かを確認しておきたい。ちょっとカタイ説明になるが,ITサービス・マネジメントとは

(1)ビジネスの目標達成に貢献するという観点から,
(2)システム運用管理のあるべき機能やプロセスを計画・設計し,
(3)それに基づいて,要求されるサービス・レベルを確実に実現できるようにマネジメントすること

を意味する。ここで特に重要なのは,(1)の「ビジネスの目標達成に貢献するという観点から」だ。

 ここ数年,金融・通信・鉄道・航空など実に様々な業界で,システム・ダウンによるサービス停止が頻発している。これは情報システムやネットワークの運用管理にかかわるトラブルが,ビジネスに大打撃を与えているということにほかならない。単なるオペレーションのミスとか,キャパシティ・プランニングの甘さ,といった一言では済ませられない事態である。

 仮に,それらがトラブルの直接的な原因だったとしても,被害を受けた一般消費者や取引先や株主から怒りの矛先を向けられ,責任が追及されるのは当然,経営者である。だからこそ,経営者は責任をとって辞める。

 こうしたトラブルへの対策として,システム部門の責任者(あるいは委託先のITベンダーの責任者)が情報システムだけを取り出して「高度な運用管理ツールを導入した」「運用管理の体制を徹底した」などと説明しても,経営者や事業責任者は本来,ちっとも安心できないはずである。なぜなら,それはオペレーションのレベルを高めたと言っているのにすぎないからだ。

 不幸にも日本で「運用=オペレーション」という一面的な翻訳が定着してしまったことが原因ではないだろうが,従来のシステム運用管理にはマネジメントという概念が希薄だったことは間違いない。「企業経営や日々のビジネスと関連付けて,システム運用管理の計画から実行までを,きちんとマネジメントできるようにする」。そんな人材を意識して育成しているシステム部門がどれだけあるだろうか。そんな役割をシステム部門に明確に求めている経営者や事業責任者がどれだけいるだろうか。

 ただ,ここにきて少しずつ状況も変わりつつある。最大の要因は,ITサービス・マネジメントのフレームワークである「ITIL」が,ここ数年で日本でも認知されてきたからだ。ITエンジニアの職種やスキルを体系化した「ITスキル標準」でも,以前はシステム運用管理に携わる職種を「オペレーション」と呼んでいたが,2006年10月に公表された「ITスキル標準V2 2006」から「ITサービス・マネジメント」という職種として新たに定義し直している。

 ITスキル標準では「ITサービス・マネジメント」という職種をさらに細分化し,「運用管理」「システム管理」「オペレーション」「サービスデスク」という4つ専門分野を定義している。つまり,従来のオペレーションを包含しつつ,新たな専門分野を設けたわけだ。このうち「運用管理」は,「プロジェクト・マネジメント」や「ITアーキテクト」などの職種の専門分野と同様,スキルレベルの最高位であるレベル7まで定義されている。

 このようにフレームワークが定着したり職種の定義が改善されたりしても,ITサービス・マネジメント本来の確かなスキルを持ったIT人材が日本にどれだけいるかというと,残念ながら現時点では全く不十分であると言わざるを得ない。これが,冒頭で触れた調査結果から受けた印象である。

 この調査の目的は,ITスキル標準に基づいてITエンジニアのスキルレベルやキャリア意識の実態を明らかにすることにある(「3万人調査で分かったITエンジニアの実態 第4回 スキルレベル編」を参照)。職種が「オペレーション」だった当時のデータと,「ITサービス・マネジメント」になってからのデータを合わせて示している。

 ITスキル標準ではスキルレベルを7段階で定義し,これをハイレベル(レベル5~7),ミドルレベル(レベル3~4),エントリレベル(レベル2以下),という3つのクラスに大別する。このうち「ITエンジニアとしてまだ“プロフェッショナル”の領域には達していない」と見なされるエントリレベルの比率をみると,「オペレーション」では79.6%と8割近く,「ITサービス・マネジメント」もこれよりわずかに少ないものの73.4%に達した。この結果を見る限り,ITサービス・マネジメントの人材像がオペレーションの人材像から大きく変わったとは言えないだろう。

 ただ筆者は,実際のプロジェクトで中心的な役割を担うケースが多いミドルレベル以上の結果に,あえて明るい兆しを見い出したい。ミドルレベルの比率は,オペレーションでは20.0%だったが,ITサービス・マネジメントでは25.5%,すなわち,4人に1人以上に達した。またハイレベルの比率も,オペレーションの0.4%に対して,ITサービス・マネジメントは1.1%だった。

 企業の経営者やシステム部門にとっても,ITベンダーにとっても,ITサービス・マネジメントという職務を的確に遂行できる人材が重要であることに異論はないだろう。筆者はこの明るい兆しに目を向け,再び「出でよ!サビマネ」と言いたい。