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 2008年3月末,NTT東西地域会社は,いよいよNGN(Next Generation Network)サービスを開始する。その東西NTTのNGNサービスと,IPv6インターネットが併用できないことをご存知だろうか。

 もちろん東西NTTは,NGNでも従来のフレッツと同等のプロバイダとの接続サービスを提供する。プロバイダのIPv6インターネットとも接続できるようになるはずだ。しかし実際にNGNとIPv6インターネットを併用しようとすると,1台のパソコンにNGN用とインターネット用のIPv6アドレスが割り当てられる「IPv6マルチプレフィックス」という現象が発生する。この結果,2つのアドレスの使い分けがうまくいかなくなり,正常に通信できなくなるのだ。

経路と送信元アドレスの選択ができない

 1台のパソコンに2つのアドレスが割り当てられることで,どのような問題が発生するのだろうか。大きな問題は2つある。(1)経路選択問題と,(2)送信元アドレス選択問題だ。

 (1)の経路選択問題は,NGNに送るべきパケットをインターネットに送ったり,インターネットに送るべきパケットをNGNに送ってしまう問題だ。NGNには,インターネットと同じ体系のグローバルIPアドレスが割り当てられている。また,NGNを介して通信する相手は,独自にIPv6アドレスを取得するASPだったり,別のアドレス・ブロックを使う他の通信事業者の配下のユーザーだったりする可能性がある。

 このためパソコンやルーターは,あて先のIPアドレスだけを見ても,パケットをどちらに転送すればよいかは,正確には判断できない。NGN用とインターネット用のルーターが別になっている場合,パソコンが転送先のルーターを間違ってしまう可能性がある。また1台のルーターがNGNとインターネットの両方につながっている場合,ルーターが転送先を誤ってしまう可能性がある。このようにして転送先を間違えてしまうと,パケットは決して相手には届かない。NGNとインターネットはつながっていないからだ。

 (2)の送信元アドレス選択問題は,パケットの送信元アドレスの選択を誤ってしまい,通信相手が返信しようとして送ったパケットが自分の元に届かなくなるという問題だ。IPv6では,送信元アドレスの候補が2つ以上あるとき,プレフィックス(接頭部分)が通信相手のアドレスのプレフィックスになるべく近いアドレスを,送信元アドレスとして選択する。このルールを「ロンゲスト・マッチ」という。このルールを適用すると,NGNに送るパケットの送信元アドレスにインターネットから割り当てられたアドレスを使ってしまう,あるいはインターネットに送るパケットの送信元アドレスにNGNから割り当てられたアドレスを使ってしまうことがあり得る。

根本的な解決策はまだ見えない

 IPv4環境でも,複数のネットワークに接続するようなことはあった。例えばインターネットとフレッツ・ユーザー専用サービス「フレッツ・スクウェア」を併用する場合だ。しかし,IPv4環境では(1)片方がプライベート・アドレスを使うため,経路選択が難しくない,(2)ルーターがNATを使いアドレス変換するため,送信元アドレス選択を誤ることがない――ため問題は起こらない。

 一方,IPv6環境では,マルチプレフィックス問題はNGNのサービス開始前から一部で発生していた。例えば,東西NTTがBフレッツ上で提供しているテレビ電話サービスとプロバイダのIPv6インターネットとを併用する場合だ。ただし,実際にテレビ電話とIPv6インターネットを併用しようとするユーザーは多くなかったため,注目を集めてこなかった。

 しかし,NGNが多くのユーザーに受け入れられるようになると,事情は変わってくる。NGNを導入したがために,インターネットではIPv6を使えないというユーザーが相当数出てくる可能性がある。

 このようなマルチプレフィックス問題の解決策として,例えば,NGNでは閉域網での利用を前提とした「ユニーク・ローカル・ユニキャスト・アドレス」(ULA)という種類のIPv6アドレスを使うといったことが議論されている。しかし,ULAは大規模ネットワークでの使用や,ネットワーク間の相互接続を前提としていないため,そのままではNGNでは使えないといった難点がある。

 検討が進まないのは,「NGNがIPv6ネットワークでできており,しかも閉域網なのは日本特有の構成。このためIETFでは最近になって問題と認知され始めた」(インテック・ネットコア IPv6研究開発グループの金山健一研究員)という事情もあるようだ。結果として東西NTTのNGNサービスは,IPv6マルチプレフィックス問題を先送りしたまま始まってしまうことになる。NGNとIPv6インターネットを併用したいユーザーは,当面,NGN用のLANとIPv6インターネット用のLANを分けたり,IPv6インターネット利用時にはNGNのIPv6接続を止めるといった自衛策をとる必要がある。

 NGNとIPv6インターネットのマルチプレフィックス問題が,今後どのように収束するかは記者には見当がつかない。

 いずれIETFや総務省の調査研究会で解決策が決まり,それに基づいて東西NTTがNGNを修正するのがありそうなシナリオだ。だが,いったん構築したネットワークを修正する作業は難易度が高い。一方,IPv6インターネットかNGNのどちらかが普及せず,現実的な問題にならないという可能性もある。また,既存プロバイダのIPv6インターネット接続サービスは壊滅状態になるだろうが,東西NTTがNGNでIPv6インターネット接続サービスを提供して,マルチプレフィックス環境を不要にするという,技術的にはすっきりした解決策も考えられる。

 いずれにしてもIPv6マルチプレフィックス問題は,政策や事業者間の利害も絡む複雑な問題として尾を引くことは間違いない。解決にはまだ時間がかかりそうだ。記者としては,解決策が施されない間にNGNとIPv6インターネットが普及し,ユーザーがNGNとIPv6インターネットのどちらかを選択しなければならないような状況に陥らないことを祈るばかりだ。

■変更履歴
インテック・ネットコア IPv6研究開発グループの金山健一研究員のコメントを一部修正しました。 [2008/02/28 13:00]