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写真●JASRACシンポジウムにおけるパネルディスカッション
写真●JASRACシンポジウムにおけるパネルディスカッション
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 2008年3月25日,社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)がシンポジウムを開催した。テーマは「動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」。シンポジウムでは,文化庁長官官房の吉田大輔審議官による基調講演「著作権行政の現状と課題」の後,中央大学法科大学院教授で弁護士の安念潤司氏をコーディネータとするパネルディスカッションが開催された。参加したパネリストは,ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏,立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏,ホリプロ代表取締役社長COO(最高執行責任者)の堀義貴氏,それにJASRAC常務理事の菅原瑞夫氏である(写真)。

 このシンポジウム直前の3月17日には「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」という組織が,「ネット法」の新設を提案している(関連記事)。ネット法では,ネットにおけるコンテンツ二次利用の許諾権を「ネット権」として放送局,映画会社,レコード会社に集中。著作者や実演家などの著作隣接権の所有者に対して,許諾権の代わりに手厚い報酬請求権を与えるという。著作権を一部制限することで,ネットにおける映像・音楽の流通促進を狙ったものだ。

 言うまでもないが,JASRACは日本で最も有名な著作権の管理団体であり,コンテンツ・クリエーターの利益を代弁する立場にある。この「ネット法」について,シンポジウムでどのような発言があるか,興味を持って参加した。

ドワンゴ川上氏は「話せる会社」であることを強調

 ここで,パネルディスカッション参加者のバックグラウンドを簡単におさらいする。堀氏は大手芸能事務所の経営トップ。岸氏は官僚出身で,小泉政権下で竹中平蔵氏の秘書官として不良債権処理,郵政民営化,通信・放送改革を手がけた。大学教授であると同時に,音楽・映像製作会社や芸能事務所を束ねるエイベックス・グループ・ホールディングスの取締役でもある。砂川氏は,民放テレビを会員とする社団法人「日本民間放送連盟(以下,民放連)」出身である。

 一方,川上氏が会長を務めるドワンゴは,動画共有/コメント・サイト「ニコニコ動画」を運営するニワンゴの親会社。これだけを見ると,川上氏は著作権侵害の温床である動画共有サイト側の代表として,JASRACの菅原氏をはじめとする著作権利者サイドと対峙する立場のように見える。ただし,話がそれほど単純ではないのは,ドワンゴの筆頭株主はエイベックス・グループ・ホールディングスであり,川上氏はエイベックス・グループ・ホールディングスの社外取締役でもあることだ。シンポジウムから1週間後の2008年4月1日には,JASRACとニワンゴの間で,ニコニコ動画における楽曲の二次利用についての包括契約が発表されており,単純な敵対関係にあるわけではない(関連記事)。

 パネルディスカッションでも,川上氏は「(ドワンゴは)ならず者の軍団だと思われることが多いのですが,今日は話の通じる会社であるということアピールしたい」というスタンスを表明。映像作品をそのままアップしたものはもちろん,ニコニコ動画の主流コンテンツであるパロディ/マッシュアップ作品についても「著作権者が望まなければすぐに削除する」こと,「そのために多くの人が納得できる技術的な解決策を模索中である」ことを強調した。

 こうした川上氏の姿勢もあって,パネルディスカッションは「動画共有サイトにおける著作権侵害をどうするか」ではなく,ネット法に代表される「ネットでのコンテンツ流通が進まないのは,著作権の処理制度に問題があるため」という考え方に対する批判で盛り上がった。

 批判の口火を切ったのは岸氏だ。デジタルコンテンツのネット流通が進まないことについて「著作権法だけが悪者ではない。今の制度のままでも契約をきちんと結べば流通できる」とした上で,「最近,ネット法という訳の分からない提案があった。作る側のことをどれだけ考えているか疑問だ」とバッサリ切り捨てた。

 民放連で著作権処理に携わった砂川氏も,「著作権が流通のネックになっているケースは意外と少ない」として,ネット法に対する疑問を表明。「(感情的な)悪者探しからは何も見つからない。本当の問題点はどこにあるのか,冷静に議論していかなければ前には進めない」(同)。堀氏からは「WIPO(世界知的所有権機関)の会議に先日出席したが,著作権者や実演家など著作隣接権者の権利を制限しようとしているのは,先進国では日本だけだ」との発言があった。

もうかるビジネスモデルは短期的には構築できない

 それでは,デジタルコンテンツのネット流通が進まない“本当の”問題はどこにあるのか。パネルディスカッション出席者の主張を聞く限り,最大の問題は,ネットのコンテンツ流通におけるビジネスモデルが確立されていないことにあるようだ。

 堀氏は「死蔵されているたくさんの番組があり,それらをネットで流通させるとみんながもうかるという幻想がある」と指摘。「経済産業省の会議に出席しても,ネットに番組を流しましょうという話ばかり。だが,取り分の変わらないゼロサム経済の中で,番組がネットに流れたら,テレビ局は絶対に割を食うことになる」(堀氏)。ホリプロにも,大手の通信事業者が「すばらしいブロードバンドができたから,おたくのコンテンツをタダで流させてください」とやってくるという。「(彼らは内心)タダで流していたものをタダで流して何が悪いのと思っている」(同)からだ。だが「それではうまくいかない。経済(=ビジネス)の話をちゃんとしてから,文化や技術の話をしてほしい」(同)。

 堀氏の話を筆者なりに理解すると,以下のようになる。過去のテレビ番組がネットで配信されるようになれば,視聴者はそれらの番組に分散する。「番組の値段(広告収入)は視聴率で決まる」(砂川氏)ことを考えると,テレビ局が過去のコンテンツをネットに出さないのは,著作権処理の手間よりも,それによって本放送の視聴率が低下し,収益にマイナスの影響が出ることをおそれているからだ。もちろん,それなりの収入を得られれば,テレビ局もよろこんでネットにコンテンツを提供するはず。だが,現時点では「ネット業界は,コンテンツでもうかる仕組みを誰も提案できていない。言い方は悪いが,みんながコンテンツをダマし取ろうとしている」(ドワンゴの川上氏)。

 パネルディスカッションの後半,コーディネーターの安念氏から「(ネットが)もうかるビジネスモデルを提供できない理由は何なのか。どうすれば提供できるか」という問題提起がなされた。これについては,「コピーからお金を取るという考え方は無理がある。ヒントはサーバーで課金する中国のオンライン型ゲームにある」(川上氏)。「英国のあるアーチストはネットの音楽配信をプロモーションと考えて,コンサートから収入を得ている」(岸氏)などのアイデアが出された。だが,「テレビ局という,あまりに成功したビジネスモデル」(安念氏)がある以上,下手にパイを縮小させることはできない。現状のビジネスモデルを前提に考える限り,答えはすぐには出せないというのが正直なところなのだろう。