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 少し前のことだが,2006年4月,東レの情報システム部門を中心とした,EIP(Enterprise Information Portal)システムのプロジェクト・チームは,経営層から成果を認められ,社長賞を贈られた。

 画期的なEIPシステムを開発したから,というわけではない。社長賞を得た最大の要因は,EIPシステムを開発した後の取り組みにあった。その取り組みとは,導入したEIPシステムの利用状況をチェックし,素早く改善につなげ,社内の各現場での利用をいち早く定着させたことだった。

利用状況をチェックし矢継ぎ早に改善

 具体的にはこんな具合だ。まず,利用の浸透度合いを表す評価指標としてログイン・ユーザー数(ユニーク・ユーザー数)を設定。週次で部署ごとに集計し,利用が進んでいる部署を見つけ出した。その上で,利用が進んでいる部署におけるEIPシステムの活用の仕方を調べ,ベストプラクティスとして他部署への展開を図った。ベストプラクティスとは,工場内の複数の部署に関係する重要行事の情報を載せる,日々の業務の引き継ぎに活用する,といったことである。

 加えて,利用が進んでいない部署に出向いて,現場のニーズを探った。「製品ごとの売上高と出荷量を見られるようにしてほしい」「EIPシステムにログインすれば,ほかの業務システムにIDとパスワードを再入力することなくログインできるようにならないか」。そんなニーズを拾い集め,一つずつ実現していった。

 こうした改善策によって,EIPシステムは着実に全社に浸透していき,目標を上回る結果を残した。このことが,社長賞につながった。

システムの稼働後に評価と改善を行う

 東レのこの取り組みは「システムを作りっぱなしにせず,稼働後に評価した上で改善し育てる」と言い換えることができる。日経SYSTEMS2008年5月号で「システムの出来を評価しよう」という特集を担当し取材したところ,同様の取り組みを行う企業は少なくなかった。例えば,朝日信用金庫や製造業向け間接資材商社MonotaROは,業務システムを導入した後,社員の作業時間がどれだけ減ったかを計測し,業務やシステムの改善につなげている。INAXでは,情報系システムを導入した後,検索の応答性能などを定期的に計測し,データベースのインデックスを修正したり,検索画面を工夫して適切な検索条件を指定するように促したりしている。

 あなたのチームでは,システムを作りっぱなしにしていないだろうか。稼働後に評価した上で改善し育てているだろうか。

 多くのITエンジニアの方にとって,システムの評価と改善は,“余計な仕事”に映るかもしれない。それは無理もない。次のシステム開発に専念したい,下手に評価するとやぶ蛇になる,手間がかかるので面倒だ──といった心理が働くからである。

 しかし「システムの評価と改善を行うことは,ITエンジニアにとって大きなメリットがある」。実際に取り組んでいるITエンジニアの多くが,こう口をそろえた。そのメリットとは,評価によって反省点が見つかり,改善力・企画力が高まること。システムの効果を明らかにすることで,利用部門からの信頼が深まること。そして,自分たちのチームが携わるシステムが役立っているという手応えをつかめることだ。これが,ITエンジニアとしてのやりがいにつながる。

カギは評価項目の設定

 では,どのようにして,システムの評価と改善に取り組めばよいのだろうか。まず行うべきは,評価項目の設定だ。システムを客観的かつ的確に評価することで初めて,適切な改善策を練り上げることができる。

 評価項目は大きく二つに分けられる。一つはバグ残存率,稼働率,応答時間,保守コスト,ユーザビリティなどの「システム品質」。もう一つは,コスト削減,作業時間の低減,顧客満足度の向上といった「業務効果」だ。そうした評価項目は,システム導入の目的に応じて選択し設定する。例えば冒頭の東レでは,経営トップのメッセージを全社員に周知することが,EIPシステムの導入目的の一つだったため,「社員がポータル画面を見ることで経営トップのメッセージが伝わる」と仮定し,ログイン・ユーザー数を業務効果の評価項目とした。

 評価項目を設定したら目標値を決め,定期的に計測し,必要に応じて利用部門を巻き込み,改善策を練り上げる。その際,利用部門の協力を得る上で,評価項目の目標値が役に立つ。いったん目標を立てたなら,それをクリアしたいと考えるからだ。

 こうした取り組みは確かに手間がかかるが,前述の通り,そのメリットはそれを補って余りある。システムを作りっぱなしにせず育てていくことは,チームやそのメンバーを育てることにつながる。みなさんの現場でも,ぜひ取り組んではいかがだろうか。