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 地上波放送の完全デジタル化の期限(2011年7月24日)までの猶予期間が3年あまりとなった。放送業界を所管する総務省は,現在地上アナログ放送を受信できる地域については,地上波放送のデジタル移行後も引き続き番組を視聴できるようにする方針である。

 総務省の意向を受けて,地上波放送事業者は順次,自社の放送エリア内の送信設備をデジタル化し,地上デジタル放送の電波を放送エリアに届けることができる環境を整えている。さらに地上波放送事業者は,視聴者に地上デジタル放送の受信環境を整えてもらうため,テレビCMなどを通じて地上デジタル放送を受信するための準備を促している。

 視聴者が地上デジタル放送を受信するためには,デジタルテレビなどの地上デジタル放送受信機を購入する必要がある。さらに建物が高層ビルの近くにあるなどの理由で地上波放送の電波を良好な状態で受信できず,共聴設備を通じて地上波放送を視聴している世帯については,その共聴設備が地上デジタル放送に対応していない場合,改修工事を行う必要がある。

 総務省は,「(地上波放送の)受信障害対策施設のデジタル移行に関する改修方法や費用負担については,施設の維持管理責任を有している所有者と受信者の協議によって決定されることが基本になる」という見解を,2006年11月27日付けの通達において示している。

 ところが高速道路会社を所管する国土交通省は,総務省のこの見解に異を唱える。国交省は各地の高速道路会社が管理する高速道路が原因で発生する地上波放送の受信障害を解消するために設置した共聴設備について,地上波放送のデジタル移行に伴い,新たな補償を行う必要はないと判断している。

 国交省の担当者は,「道路事業や河川事業で一度補償を行った対象については追加補償をしない」と言う。この理由は,地上波放送の共聴設備だけを特別扱いすると,ほかの補償対象に影響が及びかねないためだ。例えば,「新たな道路を作る際に立ち退いてもらった人に,『地価が上がったから補償費を追加してくれ』と言われかねない」(国交省の関係者)という。

 高速道路会社も国交省と歩調を合わせており,ある高速道路会社の関係者は「(地上波放送のデジタル移行は)総務省の電波政策の変更だ。当社としては地上アナログ放送の受信障害対策の措置を講じた地域については,新たな対応をするつもりはない」と主張する。

 このままでは,高速道路の共聴設備を利用する世帯が,改修工事の費用をすべて負担しなければならない状況に陥る恐れがある。地上波放送の円滑なデジタル移行を目指す省庁横断組織である「デジタル放送への移行完了のための関係省庁連絡会議」の関係者によると,「総務省と国交省は高速道路が設置した共聴設備の改修工事に関する協議を進めている」という。

 共聴設備が地上デジタル放送の受信に対応していなければ,視聴者はデジタルテレビを購入しても,地上デジタル放送の番組を視聴できない。ところがデジタルテレビは一般にアナログチューナーを内蔵しており,視聴者はこれまでと同様に地上アナログ放送は視聴できる。

 このためデジタルテレビを購入すれば地上デジタル放送を受信できると思い込んでいる視聴者が,自分が見ている地上アナログ放送を地上デジタル放送と勘違いする恐れがある。ところがこうした視聴者は,自分が使っている共聴設備の改修工事を行わない限り,2011年7月24日以降,地上波放送を視聴できなくなる。

 地上波放送は,災害情報など不可欠な情報を国民に伝えるための基幹放送である。いかなる事情であれ,これまでに視聴できていた世帯がデジタル移行が原因で地上波放送を受信できないという事態が発生することは許されない。

 私見であるが,地上波放送の完全デジタル移行に関する問題を迅速に解決するため,何らかのてこ入れ策を講じるべきではないだろうか。例えば,デジタル放送への移行完了のための関係省庁連絡会議には各省庁の課長クラスが参加しているが,この上に各省庁の大臣によって構成される組織を新設し,各省庁が連携して行う施策の実行力を高めるといった対策が考えられる。

 このようなてこ入れ策を講じると同時に,関係省庁が共同で速やかに積み残しの問題を整理し,その問題の解決策を議論して,速やかに対策を実行する――。これが2011年7月24日までに地上デジタル放送の受信環境を整備するための必要条件となる。