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 2008年3月にNTT東西のNGNサービス「フレッツ光ネクスト」のサービスが始まった。サービス前の実証実験や正式サービスの発表などを取材したり記事を読んだりしているうちに思い出したのが,1988年にNTTがISDNサービス「INSネット」を導入したときの反響である。当時のISDNとNGNでは何が同じで何が違うのか,検証してみたい。

 同じだと思うことは,まず,アプリケーションの不在を指摘する声が多いことだ。1988年当時も,INSとは「いったい(I)・なにを(N)・するのかな(S)」とまで言われていた。ISDNのアプリケーションとして,NTTや機器メーカーではデジタル高画質・高速FAXやテレビ電話などを挙げていたが,当時の家庭や企業のユーザーにとってピンとくるようなものではなかったし,案の定,普及することもなかった。

 ただ,企業には,ISDNのサービスが始まって間もなく,活用例が現れた。中でも有名だったのがセブン-イレブンだろう。ISDNとPOS(販売時点情報管理)を活用したコンビニ情報化戦略だ。ISDNの開通が国内全体で1万回線に届かなかった1990年,セブン-イレブンは4400回線のISDNを導入した。だが,ISDNは個人にはほとんど見向きされなかった。インターネットの登場で個人宅にISDN普及の兆しが見え始めた時期もあったが,当時のインターネットは,まだ限られた人しか利用していなかった。そうこうしているうちに,ADSLが登場。ISDNはあっという間に時代遅れとなってしまった(ADSLの登場が家庭へインターネットを普及させたとも言える)。

 一方,NGNの有力アプリケーションとしてはIPTVが挙げられている。ISDNのときのテレビ電話などに比べれば,はるかに現実的だ。記者自身も,個人的に大いに期待している。だが,ダビング10をめぐるゴタゴタでも分かるように,コンテンツ権利者のかたくなな姿勢を説得することは容易ではない。現時点では,IPTVがキラー・アプリケーションとの指摘は,すんなりと受け入れるわけにはいかない。

ISDNでは負担が増えたがNGNは既存FTTHと同じ料金設定

 NGNのコンテンツについては,後ほど改めて考えることとして,ISDNとNGNでは違うと思ったことを述べてみたい。それは料金設定である。

 ISDNサービスのうち,INSネット64の住宅向け月額基本料金は4600円(サービス開始直後の料金で,宅内の回線終端装置などのレンタル料金を含む。その後,買い取りとなり基本料金は2830円となった)。INSネット64は加入電話に置き換わるサービスだが,その加入電話の月額基本料金は1550円(1988年当時。95年に1750円に値上げ)。加入電話からISDNに乗り換えると,月額で1080円~3050円(時期によって異なる)の負担増となる計算だ。

 対してNGNである「フレッツ光ネクスト」の料金は,既存のFTTHサービスである「Bフレッツ」と同一水準である。もっとも,現時点ではBフレッツと同じことしかできないのだから当たり前とも言えるのだが。

 ここで再び,NGNのアプリケーションの話題に戻る。

 たとえば,ISDNのサービスが始まって間もないころ,ISDNを利用した月額100円の個人向けサービスを考案した企業があったとしよう。サービスは100円で提供できるが,ユーザーはISDNを導入しなければならない。結局のところ,ユーザーはISDNと加入電話の基本料の差額である1000円以上を負担しなくてはならないわけだ。一般家庭に月1000円以上の負担増を納得させるとなると,よほど高付加価値なサービスでなくてはならない(しかも自社の売り上げはたったの100円)。これでは,ISDNを利用した新サービスを事業化しようとする企業がいなかったのも当たり前だ。

 対して,NGNでは既存のFTTHユーザーならコスト差なくNGNに乗り換えられる。月額100円のサービスが登場したら,利用者はその100円分だけを負担すればよい。最低でも1000円の負担増を一般家庭に納得させなければならないISDNに比べ,事業参入の敷居がぐんと低くなる。だとすれば,さまざまな企業がNGNを利用したサービスを必死に考えだしてくるはずだ。そう考えるのは,楽観的すぎるだろうか。

 インターネットの新しいビジネス・モデルのほとんどが米国生まれなのは,周知の通り。だが,世界に先んじてNGNがサービス・インした日本で,多くの日本発のNGNアプリケーションが生まれることを期待したい。