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 仮想化で資源を集中化することでITの稼働効率を高める“グリーンIT”,巨大な計算資源を実サービスとして製品化した“クラウド”---。物理的に分散していたCPU処理負荷を一極集中化させる流れは,もはや止まらないように見える。

 しかし本当に,物理資源を分散させる分散処理には未来がないのだろうか。CPU負荷の高いファットなアプリケーションが地球上のいたるところで動作していることは非効率なことなのか。

 確かに,グリッドのようなシェアード・ナッシングな分散処理でも,地球上にCPUが分散している必要などどこにもない。また,仮想マシンを運用する大前提として,リソース・プールとなる物理資源には性能面での制約が少ない(つまり一極集中している)方が望ましい,という事情もある。

 だが,記者は2008年7月2日にインテリシンクの記者発表会に出席し,分散処理の生きる道を再発見した。同社の製品は,データ同期ソフトと呼ばれるミドルウエアだ(関連記事)。これを使えば,オフィスにいなくても,そして会社とネットワークがつながっていなくても,会社のデータにアクセスできる。つまり,業務とネットワークを切り離せる。

 今や,オフィスにある端末はすべてネットワークに接続されている。だからこそ,見えなくなっていた事実がある。ネットワークに接続されていなくても業務を遂行できたら便利なのではないか,という視点だ。そして記者は,普段はネットワークに接続していないことを前提とするモバイル・コンピューティングこそが,分散処理が向く分野であると思うに至った。

集中化の阻害要因を排除した画面情報端末

 そもそも,1990年代中盤にインターネットが普及したことで,分散に向かっていたCPU資源は,再度一極集中へと転じた。アクセス回線とISP(インターネット・サービス・プロバイダ)の料金さえ払えば,近い場所にあるTCP/IPホストでも遠い場所にあるTCP/IPホストでも,同一料金でアクセスできたからだ。これにより,全国に拠点を持つ企業であっても,IT資源をデータセンターのメッカである東京大手町に統合することが可能になった。

 決定的な出来事は,画面端末としてのWebブラウザの圧倒的な普及だ。Internet Explorer(IE)に至ってはWindows OSを形成するソフト部品の一部になった。Webは,HTMLとフォームで業務画面を実現してHTTPでデータ転送するという“端末”を,地球規模で普及させたのである。

 かつて誰もがVT100端末エミュレータ・ソフトを持っていたように,誰もがWebブラウザを持つようになった。誰もが同じ端末を持っているのだから,業務ごとに用意した専用のクライアント・ソフトを全国各地に配布する必要などなかった。

 1990年代後半には,米Citrix SystemsがWindows標準の画面情報プロトコルであるRDPのベース技術や,より効率の良いICAプロトコルを開発し,シンクライアント(画面情報端末)を一般化させた。

 画面情報端末の主なメリットは2つあった。1つは,Webブラウザやオフィス・ソフトのようなファットなアプリケーションをローカルで動作させる必要がなくなる点。もう1つは,HTMLのデータ転送や他のクライアント・サーバー通信のようには広大なネットワーク帯域を必要としない点である。

 後者は特に重要だ。記者が取材したユーザー企業の多くも「サーバーを一極集中化したいがネットワーク帯域に問題がある。これを解決するのが画面情報端末。画面情報を送るだけなら32kビット/秒程度のナローバンドで十分」と語っていたことを思い出す。

モバイル端末が業務アプリのプラットフォームに

 時は変わって2008年現在,画面情報端末は,仮想マシン・ソフトの普及によって本格的に市民権を得ようとしている。VMwareの仮想マシンを画面情報プロトコルで遠隔操作するVDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ぶコンピューティング・アーキテクチャが提唱されて久しいし,2008年6月23日には「Citrix XenDesktop」も国内出荷された。Webブラウザや表計算ソフトなどの個々のアプリケーションだけでなく,OSのデスクトップそのものを丸ごと画面情報プロトコルで遠隔操作するのが自然な流れになっている。

 記者自身,こうしたスタイルに何の疑問も感じていなかった。しかし,モバイル・コンピューティングに関して言えば,一つ大きな問題がある。画面情報端末の前提として,ネットワーク接続が必要になっているという点だ。

 モバイル端末を無線でネットワーク接続する負荷と,モバイル端末でアプリケーションを立ち上げて駆動させる負荷,この2つを天秤にかけると,モバイル端末でアプリケーションを動作させた方がよいという結論になってもおかしくはない。有線接続であれば多くの場面でネットワーク接続を選びたいところだが,無線の場合は,バッテリの電力消費などを考えると接続時間は少なくしたほうがよい。そもそも無線がつながりにくい場所では,オフラインで使えることは絶対的な優位点である。

 そして,モバイル端末でアプリケーションを稼働させる場合,ネットワークに接続するのは,利用者が個人の作業データを会社の業務システムとデータ同期させるときか,業務データの分散処理を目的に会社がデータをモバイル端末にプッシュ配信するときだけとなる。

 ネットワークに常時接続できるならWebブラウザや画面情報端末だけあればよい。余計なCPUやストレージは無駄である。従って,Webや画面情報を受けるだけでよければ,IT資源を一極集中化した方が効率がよい。データセンター事業者からIT資源を月額で買ってもいいだろう。

 ところが,そもそもネットワーク接続が難しいモバイル・コンピューティングでは,このシナリオは成立しない。ローカルにアプリケーションを動作させる分散処理のほうが効率がいい可能性が高いのだ。モバイル端末は,データセンター事業者と並ぶ業務アプリ動作プラットフォームの1つになり得るのである。