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「あの英数字略語」を使用禁止に

 「英語、特に英略語を一切使わない」ことは無理としても、ぜひとも利用を止めたい英略語もどきがある。その言葉は英語でも日本語でもないので、もどきと書いておいた。それは労働環境の悪さを表現する時に使われる、数字一つと英文字一字を組み合わせた二文字表現である。本件については、筆者が長年原稿を書いている、ある情報技術総合誌五月一日号に、『「あの英数字略語」を使用禁止に』と題した短文を掲載した。このことは何度でも言いたいので、その短文を以下に再掲する。

「なんというか、この号を読んでいると、○○とか××とか、偽造請負など、暗い印象がつきまとう情報技術業界ですけれど、なんか『新しい社会は我々が創る』ていう明るい気分になってきます」

 これは本誌第七〇〇号について読者の方が電子空間上の掲示板に書き込んだ文章の一部である。七〇〇号は記念号ということで、通常とは異なり百三十頁超の特集記事だけを掲載した。複数の掲示板や電子日記に読者の感想や意見が掲載されたが、七〇〇号編集者の筆者にとって冒頭に掲げた感想が最も嬉しかった。というのは、引用した文章はまもなく情報技術産業に従事する人の相談に対する助言として書かれていたからだ。七〇〇号にはいくつかの狙いを込めており、情報技術の仕事に今取り組んでいる方々、これから仕事をする人々、両方に元気になっていただくことがその一つであった。

 ところで引用した文章の中に○○や××とあるのは伏字である。どちらも原文では数字が一つと英文字が一つ入っていた。○○という英数字略語は労働環境が悪いことを示す造語で、このところ情報技術産業に対して頻繁に使われている。××は○○より数字を増やした表現である。勝手に伏せたのは、こうした表現を使いたくないし、使うべきではないと思うからである。

 字面が美しくないので使いたくはないし、不正確かつ曖昧な造語だから使うべきではない。「使うべきではない」と力むのは野暮だが、記号同然の略語は一人歩きし、情報技術産業の課題を具体的に示さないまま、「情報技術産業はとにかく仕事がきつく、敬遠したほうがいい職場である」といった誤解を学生や教師に与えてしまう。しかも情報技術産業に従事している人達が自ら、略語の数字を大きくして「実態はもっと悪い」と強調したりする。自分が置かれている状況を笑い飛ばすつもりならよいが、それでは略語がさらに広がってしまう。

 その結果として、「情報技術関連企業への就職を希望する学生が減っている、由々しき事態だ」と危機感を表明する情報技術企業の経営者が出てきている。経営者が情報技術関連の仕事のやりがいを喧伝することは結構だが、その時に「情報技術産業はけっして○○ではない」「もはや○○とは言わせない」と、例の表現を使う場合があり、これはいただけない。当事者が「○○ではない」と連呼すればするほど、学生や教師は「やはり○○職場なのだ」と思うに違いない。

 そもそも学生を採りたい情報技術産業と、その発展を期待する本誌のような情報技術総合誌が情報技術の存在価値や仕事のやりがいを強調するだけでは不十分と言える。情報技術の価値を享受した顧客、情報技術を使う側の企業に発言してもらうほうがはるかに説得力がある。「情報技術は金がかかる必要悪。価値など大して感じていない」という顧客ばかりであるなら、それこそ大問題であって○○対策どころの話ではない。

 なお、情報技術関連企業の経営者は学生に語りかける前に、入社二、三年目の社員の本音を把握しておかれるとよいだろう。数年前、東証一部上場の大手情報技術統合会社が二次面接を前の年に入社した社員に担当させたところ、例年より辞退者が増え、人事部長が担当する三次面接に来る学生が減ってしまったという。

 雑誌掲載時には、上記の一文の中に出てくる「情報技術」という言葉の代わりに英略語を使っていたが、漢字に切り替えてみた。それ以外にも片仮名表記を無理に漢字に書き直した。やってみて分かったが、日本語訳が存在しない言葉が結構ある。上記拙文の中で言うと、「電子空間」「電子日記」「情報技術統合会社」に変換する前の片仮名言葉である。強引に訳すと一体なんだ、ということになってしまう。もはやそのまま片仮名表記を使うしかなさそうだ。