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ソフトウエアの全問題は人知の及ぶ範囲にある

 ここまでの原稿を筆者は,事務所や自宅ではなく,ある研修施設の一室で執筆した。次世代コンピューティングについて議論する勉強会に参加したからだ。研修施設に向かうバスに乗り込んだところ,『ソフトウェア入門』を書いた黒川氏が乗っておられたので,少し驚いた。この原稿を書こうと思い,同書を持参していたので,それを黒川氏に見せ,「ソフトウエアを柔らかくする方法について今どう思われますか」とバスの中で聞いてみた。すると黒川氏は筆者が考えたこともない回答をして下さった。

 「結局,作り直すしかないわけですが,それに踏み切るかどうかは,ソフトウエア担当者ではなくて,経営判断になりますね。最近気になっているのは,グーグルのアーキテクチャです。あの並列処理やファイルシステムの作りは単純ですが大きな効果を上げている。ひょっとしたら企業のビジネスシステムにおいても適用できるのではないかと考えています。あれは検索用のアーキテクチャで複雑なビジネスシステムには適用できない,と普通は思うわけですが,本当にそうかと。仮に適用できるとなると,これはもう,ソフトウエア開発のやり方はもちろん,システムのあり方が根本的に変わってしまいます。ただし,そのためには,ビジネスのやり方も同時に変える必要があるでしょう。ソフトウエアを柔らかくするには,ソフトウエアだけではなくて,その要件を規定するビジネスも柔らかくしないといけません。ここでも経営判断になるでしょう」。

 筆者はグーグルのアーキテクチャに関する知見を持たないので,黒川氏の指摘を紹介するに留める。ただ,ソフトウエアや情報システムに関する経営側の責任がますます重くなっていることを実感した。日本においては,技術というより,経営者の理解が最大の問題であろう。

 最後に元NTTの石井氏が面白い指摘をしていたので,それを紹介して終わりとする。経営者から「なぜバグを無くせないのか」と問われたソフトウエア担当者はしばしば,「ソフトウエアは人間が作るもの,人間がすることに完全はないので,どうしてもバグは残ります」と真実を語って,かえって経営者を怒らせてしまうことがある。だが見方を変えれば,人間次第でかなりの対策が打てるということでもある。

 石井氏はこう言った。「ハードウエアには材料や機械部分など手作りできない要素があり,人知が及ばない領域がある。これに対し,ソフトウエアはそのすべてが人間の手で作られる。ですから,ソフトウエアに関連して起きる全問題は人知の及ぶ範囲にあるわけです。したがってソフトウエア担当者のやる気をいかに引き出すか,これが重要です」。