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 NGN(次世代ネットワーク)は企業の情報システムを変えられるか――。なぜこんなことを言っているかというと,先日,ある超大手企業に取材した際,「これまで何度かシステムを刷新したが,いずれもネットワークの進化があったからこそ,システムを変えられた」というコメントがあったからだ。逆の言い方をすると,ネットワークが進化していなかったら,経営戦略を実践するために描いたシステムを実現できなかったということだ。

 筆者はネットワークやセキュリティの話題を中心に記者活動を続けてきたが,ユーザー企業から「ネットワークの進化があったからこそ」というコメントを聞いた経験はあまりない。特に情報システムやネットワークが企業に浸透した最近では,こんなうれしいコメントを聞くことは少なくなっている。

 ここでふと思い出したのがNGNである。2008年3月末,NTTが公約にギリギリ間に合わせる形で「フレッツ 光ネクスト」をスタートさせた。この秋になってようやくサービス地域の拡大が始まったところで,まだ企業ネットワークにはほとんど影響を与えていないが,少なくともNTTにとっては今後の主力になるはずのサービスである。

 現在,企業が運用している基幹系ネットワークのアクセス回線のうち,約7割はBフレッツをはじめとする光ブロードバンド回線になっている。これは「日経コミュニケーション」が総務省と実施した「企業ネットワーク実態調査」の結果から明らかになった数字だ(この調査は毎年実施している。今年も9月15日号に調査結果をまとめた特集を掲載した)。ここまでブロードバンド化が進んだ今,仮にこれから企業の情報システムに変化をもたらす可能性を秘めたサービスがあるとすれば,NGN以外にはないだろう。

 もちろんNTTのNGNがすべてではない。まだ姿形は見えないし,NGNと呼ぶかどうかも分からないが,KDDIにしても,ソフトバンク・グループにしても,次世代のネットワークを考えていることは確かである。NTTドコモが2010年ころの商用化を目指して開発しているSuper3G(3.9GまたはLTE:long term evolution)も,次世代サービスという意味ではNGNの一つと言えるかもしれない。

ネットワークの「信頼性」は「クラウド」に合うけれど

 では,これらの次世代ネットワークは,企業の情報システムにどのような変化をもたらし得るのか。NGNのどんなところが新しいシステムを可能にするのだろうか。

 高速性ならBフレッツなど従来のサービスでも十分である。セキュリティはどちらかというと守りの機能であり,システムのアーキテクチャに変化をもたらすとは思えない。こう考えていって,一つ思いついた。「信頼性ってやつかもしれない」。

 理由は二つある。一つはいくつかの企業で「ネットワークの信頼性」を重視する声を聞いたことだ。このところ続けざまに何件かユーザー企業に取材をした。そのうちのいくつかの企業は,今後の構想として,サーバー機能のデータ・センターへの統合とシン・クライアント化を考えていた。そのために,止まらないネットワークが必要だというのである。データ・センターへのサーバー集中,シン・クライアントといった,ネットワーク利用を前提としたスタイル。広くとらえれば,最近はやりの「クラウド・コンピューティング」である。確かに,落ちないデータ・センターと落ちないネットワークがあれば,何も企業の中にシステムを置いておく必要はない。ブロードバンドなのだから,シン・クライアントにしてもほとんど不自由はないだろう。

 もう一つの理由は,先にも紹介した企業ネット実態調査の結果から見て,多くの企業にクラウド型システムへの意識があることだ。企業ネット調査では,「将来使ってみたい技術は何か」という質問を設けた。すると結果は,1位が「サーバー仮想化」で48%,2位が「シン・クライアント」で46%(正直,この結果にはかなり驚いた)だった。回答の選択肢は必ずしも網羅性が高かったとは言えないが,それでもこの数字からは,多くの企業がクラウド型の情報システムを意識していることがうかがえる。もちろん,今のブロードバンド環境で,こうした仕組みを実現できないわけではないが,情報システムの心臓部をデータ・センターに移すとすれば,信頼性の高いネットワークを前提と考える企業は少なくないのではないだろうか。

 とは言え,本当にNGNがこうした変化をもたらすのかというと,疑問に思う点もある。例えばユーザー企業は何をもって「信頼」するのか。障害発生時にはペナルティとして料金の一部を返してくれるSLA(サービス・レベル保証制度)があればいいのだろうか。あるいは「もう何年も大きな事故はない」という実績だろうか。

 取材時に,いくつかのユーザー企業に聞いてみたが,どちらかというと実績を見ている様子。ある企業のシステム担当者は「ソフトウエア的な不具合による大きな事故がなければいい」という。ただ,何も事故が起こらなかったとして,どのくらいの期間を経れば「もう大丈夫だろう」と判断できるのだろう。1年か,3年か,5年か…。スモールスタートしたフレッツ光 ネクストのこの半年は,その判断材料になるのだろうか。どうにも,企業の情報システムに変化をもたらすには時間がかかりそうに思える。

今が「完成形」ではつまらない

 ここまであえてあまり触れないまま書いてきたが,携帯電話の3.5Gや3.9Gのようなモバイル・ブロードバンドの方が,これからの企業システムに与える影響は大きいかもしれない。すべての企業にとって,あるいはすべてのシーンで必要というわけではないが,少なくとも,携帯電話などから利用するモバイルSaaS(software as a service),モバイル・セントレックスをはじめとするFMC(fixed mobile convergence)を使えば,一部のワークスタイルは変わる。ただ,これも今のところまだ,ムーブメントにまでは至っていない。

 今,多くの企業はネットワークの見直しに積極的とは言えない。調査の結果では,4~5年ほど前に構築したネットワークを使い続けている企業が多くあるにもかかわらず,今後見直す計画があるという例はとても少なかった。つまり,どの企業もいま使っているネットワークに一定の満足感を得ているのだ。プライス・パフォーマンスが高いブロードバンドが広がった今,「まぁまぁだな」,「とりあえずこのくらいで十分」と考えているのだろう。

 だが,それではあまりにつまらない。もっともっと,「これなら情報システムを変えられる,仕事の仕方を変えられる」とユーザー企業が飛びつくようなサービスや技術が出てくればいいのに…。