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 年初,2008年を予測するコラムで「いよいよ来るぞIPv6」というタイトルの文章をITproにアップした。その記事で筆者は,IPv4アドレスの枯渇ではなく,NGN(next generation network)とWindows Vistaの普及で2008年はIPv6がブレイクすると予測した。しかし,この予想は大きく外れる結果となりそう。なぜなら,今まさに「IPv4アドレスが枯渇する」という話題で,IPv6がクローズアップされつつあるからだ。

 明らかな動きは,総務省および通信事業者/プロバイダ関連13団体が9月5日に発足した「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」として現れた(関連記事)。官民一体となり,早ければ2011年にも来るといわれるIPv4アドレスの枯渇に対処すべく,さまざまな施策を打ち出していくという。

 これまでもIPv4アドレス枯渇への根本的な対策として,IPv6への移行(およびIPv4とIPv6の併用)が取り沙汰されてきた。筆者が担当する雑誌「日経NETWORK」でも,2000年の創刊当時からIPv6の連載講座を掲載するなど,力を入れてきた。

 しかし,IPv6の普及はなかなか進まない。その理由の一つと考えられるのが,IPv4アドレスが枯渇する時期に関する予測がその都度先送りされた点だ。「もう危ない」,「まだ大丈夫」,「今度こそ危ない」,「まだなんとか大丈夫」・・・と繰り返しているうちに,ユーザーがIPv4アドレス枯渇の話題に慣れてしまったのだろう。もしかしたら「IPv4アドレスが枯渇するなんて想像できない」と思っているユーザーは意外と多いのかもしれない。

 こうした状況にあるIPv6の一方で,着実に完全移行への準備が進んでいるように見えるものがある。テレビの地上デジタル放送だ。現時点でIPv4アドレスが底を尽くといわれる2011年は奇しくも,地上波のテレビ放送がアナログ方式からデジタル方式に全面的に切り替わるタイミングでもある。

IPv4からIPv6への移行状況と地デジの進捗を比べてみた

 IPv4からIPv6への移行(併用)と地上波テレビ放送のアナログからデジタルへの移行は,同列で語れるものではないのかもしれない。しかし,両者の違いを見ていくと,IPv6への移行(併用)が一筋縄ではいかないものだということを改めて確認できる。

 比較のポイントは,(1)強制力の有無,(2)明確な期限の有無,(3)ユーザー・メリット――の三つだ。

 まず(1)の「強制力の有無」は大きな違いの一つだ。

 電波は限りある資源。担当官公庁である総務省が管理している。電波資源を有効活用するために,テレビ放送はアナログ方式からデジタル方式へと移行することが法律で決められた。さらに,デジタル放送技術の開発および移行は国策的に進められてきた。地上波テレビのアナログからデジタルへの移行は「強制力」を持つわけだ。

 一方,インターネットのアドレス割り当てに強制力はない。IPv4アドレスを「限りある資源」と捉えることもできるが,その資源を管理しているのは総務省ではなく,ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)を頂点とする民間組織である。ユーザーからIPv4アドレスを取り上げてIPv6へ強制的に移行させるようなことはできないし,日本国内だけで済む話でもない。

 (2)の「明確な期限の有無」も両者で大きく異なる点といえる。

 地上アナログ放送の電波は2011年7月24日に止まる。この日以降,アナログ方式のテレビ受像機には何も映らなくなる。こうした事態を控えているということをユーザーに注意喚起するために,現状,テレビCMなどで広く告知するとともに,アナログ方式のテレビ画面の右上には「アナログ」という文字を表示させるといった措置がとられている。

 一方,IPv6への移行ではどうか。仮に,割り当て可能なIPv4アドレスが2011年に枯渇したとしても,すぐさまIPv4インターネットが停止するわけではない。単に新しいアドレスを割り当てられなくなるだけだ。

 IPv6への移行を済ませていないユーザーはその後,新しいサービスを提供するためのサーバー向けにアドレスが割り当てられなくなったり,キャリアグレードNAT(network address translation)の配下に入れられてP2P通信を利用できなくなったり,自宅のロケフリにアクセスできなくなったりするといった形で,ジワジワと影響を受けるようになる。しかし,現状維持でよいなら,目立った影響なくインターネットを使い続けられるかもしれない。

強制力もメリットもないIPv6への移行は本当に進むのか?

 ユーザーの立場から見た場合,両者の最大の違いは(3)の「ユーザー・メリット」にあるだろう。

 テレビがデジタルに移行するとき,ユーザーは従来のテレビを捨て新しくデジタル・テレビを購入しなければならない。そのコスト負担は大きい。しかし,新しいテレビを購入することにはメリットもある。デジタル化すれば大画面テレビで高精細なテレビ番組を楽しめる。最新のBlu-rayディスクの能力をフルに発揮した動画再生も可能だ。

 それに対してIPv6化のメリットはユーザーに見えにくい。現状のインターネットと異なるアプリケーションがIPv6インターネットで提供されるわけではない。良くて,すでにあるサービスをそのまま利用できるようになるだけ。悪ければ,すでにあるサービスの数分の1しか使えないケースも考えられる。コストをかけてIPv6環境を構築しても,目に見えるメリットはほとんどないだろう。この差が,移行に対するユーザーのモチベーションの差になっているように見える。

 そのうえ,IPv6インターネットへの移行環境もまだ整備が進んでいるとはいえない状況にある。ソフトやハードのIPv6対応は進んできているが,まだプロバイダの大半はIPv6のインターネット接続サービスを提供していないのだ。パソコンのOSを入れ替え,機器を置き換え,そのうえIPv6接続サービスを提供しているプロバイダと契約してはじめて,IPv6インターネットを利用できるようになるのである。

 強制力がないうえに移行の魅力がない。明確な切り替え期限が見ているわけでもなく,移行の環境もまだまだ万全とはいえない。2011年にIPv4アドレスが枯渇するからと言われても「はい,そうですか」と二つ返事でIPv6へ移行するユーザーはそうそう出てきそうにない。

 そうはいっても,IPv4アドレス枯渇問題への最終的な対策は,今のところIPv6への移行(併用)しかない。そう遠くない将来,ネットワークを利用しているすべての企業ユーザーは,IPv6を導入せざるを得なくなる。

 移行のメリットが見えない状況で,いかに円滑にすべてのユーザーをIPv6へ導いていくか――。これは,IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースだけでなく,ネットワーク業界全体で取り組むべき課題といえるだろう。