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ユーザー企業選別の時代が始まった

 一方で、日本のITベンダーが欧米化することの悪い意味もある。冒頭に挙げたように、ユーザー企業から見ると「融通が利かなくなる」のだ。

 日本のITベンダーが契約を重視するようになると、「契約外のことはできません」「社内の承認が通るまで、正式な契約はできません。それまで開発には着手できません」「見積もりが固まるまで、人月単価で契約金額が決まる準委任契約でお願いします」といった通り一遍の対応になる。これまでベンダーと“あうん”の呼吸でプロジェクトを進めていたユーザー企業にしてみれば、「これまで良かったことが何でダメなんだ!」となる。

 昨今の日本のITベンダーの言い分は「これまでもユーザー企業には要望していた。それを厳密に要求するようになっただけ」というものだ。その上で「当たり前のことをできないユーザー企業とは危なすぎて仕事ができない」と主張する。「基幹系を刷新したい」「競合と同じシステムを作りたい」「何か提案してくれ」といったあいまいな態度のユーザー企業や、利用部門を押さえきれずにプロジェクトの最中に仕様が膨らみ続けるようなユーザー企業とは「お付き合いできない」というわけだ。

日本流を取り込むインドのITベンダー

 日本のITベンダーが欧米流に変化しつつあるなか、“第3の勢力”とでも呼ぶべきITベンダーが登場している。インドのITベンダーだ。

 インドのベンダーは日本でビジネスを展開するにあたり、ユーザー企業と徹底的に理解し合おうとする姿勢を貫く。インドの大手ベンダー幹部は「ユーザー企業との徹底した対話が必要と考えている」と話す。プロジェクトの進め方、ITベンダーとユーザー企業との役割分担、プロジェクトの目標の設定方法まで「何でも話し合う」(同)そうだ。

 こうしたインドのベンダーの態度は、日本流と欧米流の中間といえる。「インドのベンダーは日本市場では新参者。日本のITベンダーの良い部分を学んで日本市場に合わせないと顧客は獲得できない」。同幹部はこう語る。

 ユーザー企業の要求をすべて飲むわけではない。だからといって、事前に契約で厳密に要件や役割を決めるやり方とも異なる。ユーザー企業が出した要件があいまいな場合も「できません」と断るのでなく、「話し合う中でユーザー企業の業務を理解し、ユーザー企業にとってどのようなプロジェクトの進め方が最適かを探っていく」(同)という。

 欧米化する日本のITベンダーに見捨てられそうなユーザー企業にとって、インドのベンダーの存在は有力な選択肢となるかもしれない。ただし前述のベンダー幹部は「顧客と対話しながら双方の理解を深める期間も、プロジェクトの一部として費用が発生する。プロジェクトを円滑に進めるためには当たり前」と話す。「お客様の言うことは何でも聞く」時代はもう過去のものなのだ。

日本もインドも「情熱」が命

 取材の結果をまとめた特集では、欧米化する日本のITベンダーと付き合うためのユーザー企業の対応策に加えて「ユーザー・ベンダーがうまく付き合うための七カ条」を掲載した。その中の最後の一カ条を紹介したい。それは「ユーザー企業、ベンダーがシステム構築に情熱を持つ」だ。

 「何だ、精神論じゃないか」と思われるかもしれない。だが日本のITベンダーも、欧米のITベンダーも、そしてインドのITベンダーも、共通してユーザー企業に望んでいたのが「情熱」だった。

 システム構築はものづくり。「良いシステムを作りたい」という思いに勝るものはない。日本の大手ITベンダーで案件審査をする担当者は「システム構築には人と人との関係が大きく影響する。確かに案件審査の基準は厳しくなっているが、ユーザー企業の担当者に『このシステムを作りたい』という情熱があり、それに担当者が共感できるようであれば、多少無理があっても通してしまう」と打ち明ける。

 「情熱」という言葉は、コンプライアンス(法令順守)や採算性重視が叫ばれる今の時代にはそぐわないのかもしれない。しかし、新しいシステムに対するユーザー企業とITベンダーの熱意が不可欠なのは、国境や時代を超えて変わらないのではないかと思う。加えて、ユーザー企業、ITベンダーの双方が情熱をもってシステム構築に打ち込めるようになる記事を書くためには、記者の側にも情熱が欠かせない。特集の取材と執筆を通じて、改めてこのことを自覚した次第だ。