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 最近,通信・ネットワーク分野のメディアが「IPアドレス枯渇」という問題を取り上げているのをご覧になった方がいるかもしれない。ITproの中にもこの問題を取り上げる特番サイトを最近作った。

 いまのインターネットは,サーバーやパソコン,ルーターといった機器に「IPv4」というバージョンの一意のIPアドレスを割り振り,これで相手を特定してデータをやり取りする。そのIPv4アドレスの“在庫”は,残り少なくなってきている。在庫が底をつけば,IPv4を使ったインターネットが広がるのもそこまでということになる。とはいえ,新規のインターネット・ユーザーやネット・ビジネスは,IPv4アドレスの在庫がなくなった後も続々と現れる。だからアドレス枯渇は問題なのである。

もっと前かも,もっと後かも

 この問題が論じられるうえで,必ずと言っていいほど出てくるデータがある。IPv4アドレスが枯渇する時期の予測データだ。出典は,APNICというアジア太平洋地域におけるIPアドレスの管理団体のチーフ・サイエンティストであるジェフ・ヒューストン氏が出しているリポートである。

 ヒューストン氏は,プログラムによってアドレスが枯渇する日をピンポイントで予測してリポートに盛り込んでおり,その予測は随時アップデートされる。2008年12月2日現在の予測は,だいたい2011年の1~2月あたりである。

 この予測は,IPアドレスを割り当てる総本山のIANA(ICANNという組織の一機能)の在庫が切れる時期を示す。日本の場合はIANA(ICANN)からAPNIC,JPNICそしてISPと細かい単位にしてIPアドレスを割り当てていくわけだが,ISPでの在庫までなくなるのは2012年あたりと見られている。いまは,最初の出来事(IANAでのアドレス枯渇)が起こる「2011年のインターネット」がクローズアップされているわけだ。

 先週開催された「Internet Week 2008」というイベントでヒューストン氏にインタビューする機会があり,そのときリポートの予測について聞いてみた。氏は過去1000日分のデータをもとに,将来を予測しているという。今年は金融危機があったため,枯渇予想時期がちょっと先になるといった要素も盛り込んだとのこと。

 こうした時期を前後させる要因は,今後も発生することが考えられる。例えば“枯渇の予兆”が駆け込み需要というか,ある種のパニックを起こせば,時期は前倒しになる可能性があるという。これは計算モデルに組み込まれていない。

それは,終わりでも始まりでもない

 ところで今回のヒューストン氏の来日目的は,IPアドレス枯渇予想の解説だけではなかった。「IPアドレスの移転を話し合う」という重要なミッションがあった。IPアドレスの移転とは,既に割り振られたIPv4アドレスを効率的に使うための施策である。いまのルールでは,使われていないIPアドレスはインターネット・レジストリ(日本の場合はJPNIC)に返却することになっている。しかしそれでは,枯渇の度合いが深刻になるほど返す人は少なくなる。そこで,金銭の収受によって他者にIPアドレスを譲渡できるようにしようという提案がAPNICに出された。その提案者がヒューストン氏である。

 このアドレス移転のほかにも,インターネット業界は既にアドレス枯渇問題の解決に向けたアクションを起こしている。IPアドレス移転のような割り振り済みのIPv4アドレスをうまく使いまわすための方策は,解決策の一分野だ。インターネットのIPプロトコルには,既に次世代にあたる「IPv6」が登場している。つまりアドレス枯渇問題の解決は,IPv4とIPv6の並存期間を設けて両者をうまく活用しつつ,ユーザーをIPv6インターネットに「ソフト・ランディング」させることにある。

 2011年はアドレス枯渇問題は「ここで解決する」という終点ではなく,「そこから考えればいいや」という始点でもなく,解決に向けた通過点である。先ほどご紹介した特番サイトではまず,既にインターネット業界の関係者がアドレス枯渇に関して取り組んでいることから,分かりやすく紹介していければと考えている。