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 「電子行政推進法」といっても、知らない人も多いだろう。なにしろ、今のところ存在しない法律なのだから。

 「電子行政推進法」とは、2009年の通常国会に政府が提出を目指している法案の仮称だ。政府横断的に電子行政を推進するための通則法で、政府が2008年6月に発表した「IT政策ロードマップ」には以下のように書かれている。

 行政事務の電子的処理を原則化するとともに、行政手続のオンライン利用を飛躍的に拡大し、次世代のワンストップ電子政府の実現に資する基盤を整備するため、行政手続オンライン化法を全面改正することにより、電子政府を強力に推進するための新たな通則法を整備する。また、我が国全体として電子政府を総合的に推進する「司令塔」機能も併せて強化する。
 このため、内閣官房と総務省が協力して必要な法案(電子行政推進法(仮称))を準備し、2009年の通常国会に提出することを目指す。

 また、同名称の法律の制定については、2008年4月に日本経団連も提言している。

 韓国では、「電子政府法」を制定し、これに基づきトップダウンで政府横断的に電子行政を推進し、成果を挙げている。わが国においても、通則法として「電子行政推進法」を制定し、業務改革や電子申請の原則化等を、法律により確実に進めるべきである。

 さらに経団連は11月18日にモデル法案(電子行政・業務改革推進法 モデル法案)も公表している。これから出てくるかもしれない政府の法案と、このモデル法案とがどの程度類似したものになるのかは分からない。とはいえ、電子政府分野に造詣が深い方々が同じ方向性で検討をするわけであり、ある程度似た内容になるのではないだろうか。そこで、今回は経団連のモデル法案について見ていきたい。

経団連の「モデル法案」を読む

 筆者から見て、モデル法案のポイントは以下の3つである。

  1. 共通コードの導入
  2. 総理大臣の直轄機関として、予算権限をもって府省庁・地方自治体横断的に電子行政を推進する機関を設置
  3. 地方自治体における電子行政・業務改革の推進についても規定

 本稿では、このうち「1.」と「2.」について見ていきたい(「3.」は論点がかなり多岐にわたるので機会を改めたい)。

 まず、「1.共通コードの導入」について。モデル法案では、「全ての行政機関において個人及び企業を一意に特定できる共通コードを全国民・企業に付与し、行政機関間の情報連携の円滑化を図る」とある。

 こうしたID番号が付番されれば、行政は大幅に効率化するだろう。ここでは具体例は示さないが、例えば日本経団連による「共通コード導入の効用の具体例」、木下敏之氏(東京財団研究員)による「IT・住基ネット(住民番号)を活用した地方行政の研究」等をご参照いただきたい。

 省庁横断で共通の番号を使わせるのは危険ということであれば、オーストリアのような「セクトラル方式」の導入も考えられるだろう(関連記事)。少なくとも、住基コード、社会保障番号、納税者番号が個別省庁でバラバラに導入されるよりもムダもリスクも少ないと思われる。

 年金納付問題の再発も、共通コードを使うことで抑止力は高まりそうだ。富士通総研プリンシパルコンサルタントの榎並利博氏は、基礎年金番号と氏名・住所・生年月日を使っても本人を特定しきれなかったことについて、(1)基礎年金番号では転職や転居の情報を完全に捉えきれないこと(変更情報が正しく把握できないこと)、そして、(2)氏名に使用する漢字の異字体やふりがなの読み方などに「ゆらぎ」があること(氏名情報を正しく記録することができないこと)に問題があったと指摘。共通コードを使わずにこうしたデータに頼る限り、年金に関連する個人情報を整備してもまた崩れていくだろうと警告する(注)

(注)「年金納付問題を再発させないために」(『行政&情報システム』2008年10月号、行政情報システム研究所)より。榎並氏はこの論文で住基コードの活用を提案している。

 共通コード導入に伴うプライバシー保護対策についてはどうか。モデル法案では、当事者がインターネット等により随時共通コードの利用履歴を確認できるようにすること、そして、適切な利用を監督する第三者機関の設置を提案している。政府がもし「共通コード」を導入するつもりなら、そろそろこうした対策も含めて具体的にオープンな議論を始めるべきではないだろうか。

ずさんな個別省庁のシステム運用管理

 モデル法案の2つめのポイントである「2.予算権限をもって府省庁・地方自治体横断的に電子行政を推進する機関を設置」については、筆者は賛成である(実際に設置すれば抵抗も大きそうだが)。

 先月、政府は文科省と防衛省のオンライン申請システム停止に向けたパブリックコメントの募集を開始した(既に終了)。発表資料には、文科省と防衛省のシステムが対象となった背景説明があるが、問題は両省のシステムだけではないようで、かなり強烈なことが書いてある。以下、引用する。

 オンライン申請システムについては、政府全体で61システム存在しますが、システム停止の是非の検討結果を可能な限り平成21年度予算に反映させる観点から、今回は、オンライン申請に係る経費を比較的容易に把握できる24のシステムを対象に停止対象システムの検討を行い、上記2システムを選定しました。

 つまり、61ある政府のオンライン申請システムのうち、6割以上の37システムで経費の把握すら簡単にできない状況だったのである。個別システムを見れば、きちんと管理がなされ、利用率の高いシステムもあるのかもしれない。だが、総論としては「もう個別省庁には任せておけない」と言わざるを得ないだろう。

 ところで、政府は本当に次の通常国会に「電子行政推進法案」を提出するのだろうか。日本の電子政府を立て直すチャンスとなり得る法律だとは思うが、国民(利用者)にまったく具体的な姿が見えてこない中で、「目標」にこだわって拙速に法案提出を進めるのは避けるべきだと思うのだが、どうだろう。

 最後に、政府が何も発表していないこうした中途半端な時期に、こうしたコラムを書いた理由について述べさせていただきたい。それは、政府が「電子行政推進法案」を検討しているということをより多くの方に知ってほしいと思ったからである。そして、ブログなどで、あるいは、パブリックコメントのようなものがあればそうした場で、「ITのpro」であると思われる読者の皆様に意見を表明していただきたいと思ったからである。そうすることで、日本の電子政府はよりよい方向に進化できるであろうと思ったからである。

■変更履歴
タイトル,本文で電子政府推進法としていましたが,電子行政推進法の間違いでした。お詫びして訂正します。タイトル,本文は修正済みです。 [2008/12/15 17:55]