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写真◎特集会議では様々なアイデアが出た
写真◎特集会議では様々なアイデアが出た
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 100年に一度の不況と言われ、経済の先行き不透明感が増すなか、日経コンピュータ12月15日号の特集「ITムダ取り四十八手」で、ITコストの削減策について取りあげた。9人の記者で特別取材班を急きょ結成し、1カ月にも満たない期間で緊急特集をまとめあげた。あれこれ考えるよりもまずは行動、との判断からだ。

 各記者は「システム運用」「ネットワークサービス」「制度・法律」「グリーンIT」「マイクロソフト関連技術・サービス」といった得意分野をそれぞれ持つ。企画会議では様々な案が飛び出してきた(写真)。何度もミーティングを開催し、侃々諤々の議論の末「調達」「契約」「運用」「印刷」「通信」の5分野で、48のトピックを厳選した。

 ITコストの削減というと、「萎縮する」「やりたいことができなくなる」といった負の側面が強調されがちになる。しかし、それだけではないようだ。コスト削減に向けたIT部門の取り組みは業務改革にもつながる。このご時世だからこそIT部門の存在感を示し、“復権”するための大きなチャンスになり得るのだ。編集部での議論や特集記事の取材・執筆を通じて、筆者は強く感じるようになった。

精神論によるコスト削減には限界

 この局面におけるIT部門の役割は二つある。まず、コスト削減を達成する仕組みを導入し、効果を経営陣に説明すること。もう一つは、そこに社員にとってのメリットをうまく滑り込ませ、全社への定着を図ることではないだろうか。特集内で取りあげた二つの例を基に説明してみたい。

 一つが印刷コストの削減である。印刷コストの削減効果は明快だ。仮に従業員一人がカラー印刷を1日5枚削減できるとする。営業日を240日とすると年間1200枚で、1000人の企業だったら年間120万枚。ここでトナーと用紙代を合わせてカラー印刷1枚のコストを10円とすると、年間1200万円の削減効果となる。

 単に「紙を減らそう」「カラー印刷は割高です」といったコピーをプリンタや複合機に貼るだけで、社員に徹底するのは難しい。全社員の印刷環境を強制的にモノクロ両面などの“ケチケチ”に設定するシステムによる仕組みを導入する、といったIT部門の工夫が欠かせないだろう。

 もう一つの例が、パソコンの電源管理による電気料金の削減である。本誌の試算では、夜間や休日のパソコンの電源断を徹底することで、1台当たりのコストを年間4000円削減できる。パソコンが1000台あれば、数百万円単位で節約できる計算だ。

 こちらも印刷の場合と同様、精神論でできるものではない。ユーティリティを導入するなどの手段で自動化しないと効果は得られない。

 こうした取り組みはいずれも地道なものではあるが、大げさな言い方をすればITガバナンスの強化につながる可能性を持つ。印刷コストや電源管理の削減をシステムとして実現するためには、各社員のユーザーIDを管理するディレクトリのマネジメント手法を見直すといった作業が必要になる。経営視点からみると、こうした取り組みはITによるガバナンス(すなわち企業統治)のための有用な“道具”となり得る。

 社員にこうしたコスト削減策を受け入れてもらうには、仕掛けも必要だろう。例えば、印刷コストを削減したいのであれば、電子データを社員やプロジェクトメンバーの間で共有するための仕組みを作る、全会議室にプロジェクタを設置するといった手段が有効である。紙なしのワークスタイルを支援するのだ。

 これらの投資はそれほど大きなものではない。例えばプロジェクタは1台5万円から入手できる。このご時世でもIT部門がきちんと説明すれば導入できるはずだ。

 パソコンの電気料金削減も同じである。例えば、時短の仕組みを取り入れてみるのはどうだろうか。ノー残業デーの水曜日は必ず午後7時に電源オフにする、といった使い方だ。パソコンがオフになるとあれば、観念するしかない。

 こうした社員に定着できそうなコスト削減策をIT部門が提案する。経営層にも、うまく説明する。こうした役回りをIT部門が演じるようになれば、IT部門の復権にもつながるのではないか。筆者はこう考えている。