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 「プロジェクトの最中に“なんか変だな”と察する感覚や、システムの設計やテストの最中にどう判断するかといったことは、教科書だけでは教えられない。自分の経験を言葉で伝えることでしか、教えられないことがたくさんある」。JTB情報システムの佐藤正史社長とお会いした際に、こんな話を聞いた。

 JTBは2009年1月3日、企画段階から数えると足かけ8年、投資額は総額200億円を超える基幹系システム刷新プロジェクトを終えた。「システムを刷新することだけが目的ではない。次の世代にすべてを託すためのプロジェクトだった」と佐藤社長は振り返る。

 では、いったい何をやったのか。「経験を積む場を作ること。そして、自分たちの経験を言葉で伝えることだ」と佐藤社長は強調する。

 例えば、部下がパフォーマンステストの結果を報告したときに「どういう仮説を基にやったんだ」と聞く。答えられなければ、自分の経験談を交えながらテスト時の仮説の立て方を伝え、それとなく正解に導いていく。チームリーダーやプロジェクトマネジャに元気がないように感じたら、悩みを聞いてあげるとともに自分がシステムを開発していたときの経験を話し、問題解決への道筋を示したりしたそうだ。

 佐藤社長がSEとしてシステムを開発していた20~30年前に比べると、今ではプロジェクト管理やシステム構築を円滑に進める方法論やツールが数多くある。それらをどう使いこなすかに関するハウツー情報も、ネットを検索すればすぐに調べられる。

 しかし、どんなに方法論やツールの使い方を知っていても、それらを適用するシーン(ケース)を知らなければ生かすことができない。佐藤社長はプロジェクトを通して「生きたケースメソッド」を伝えようとしてるのだと、記者は感じた。

経験談がマネジャ/リーダーの救いになる

 もちろん、自身の経験談を通じて後輩を育てることは、そう簡単なことではない。自身の武勇伝や自慢話になってしまい、自己満足に陥りがちだ。言い方を間違えると、部下への説教になってしまう。

 ついつい経験談に花を咲かせてしまうと、かえって現場の仕事の邪魔になってしまう。場合によっては話をするよりも自分が直接手を出したほうが早いと、思うこともあるだろう。

 それでも、ハウツー情報があふれている今だからこそ、記者は「生きたケースメソッド」の重要度が増していると感じている。生きたケースメソッドが必要なのは、20代の若手に限らない。むしろ30代後半から40代のプロジェクトマネジャやチームリーダーこそ求めているのではないだろうか。

 マネジャは孤独だ。メンバーの前で泣き言は言えないし、気軽に相談できる上司もいない。だからといって、基本を教わる年でもない。そんなときこそ「自分も同じことに悩んだよ。でも、こうやって乗り越えたんだ」などと、“生きたケースメソッド”を示すことが救いになるのではないだろうか。

 生きたケースメソッドは、読者の皆さんの数だけ存在する。そこで日経コンピュータではITにかかわるマネジャ/リーダーのための「生きたケースメソッド」を集める企画「みんなが独りぼっちにならないプロジェクト」を始めた。「部下が“会社を辞める”と言い出した」「部下が納得する人事評価をするには」「年上の部下を指導しにくい」など、マネジャ/リーダーが抱えている悩みに対して、皆さんの生きたケースメソッドを集め、誌面やITproでシェアしようというものだ。

 あなたが部下に経験談を話さなくても、仕事はたぶん回るだろう。場合によっては、話をすることで部下との間に波風を立ててしまうかもしれない。しかし、「話さなければ自分自身の暗黙知は次の世代に伝わらない。失敗や成功体験を話すことも親分や兄貴(上司)の務めだ」と佐藤社長は語る。

 マネジャ/リーダーの皆さん。悩んでいる後輩たちを見かけたら、会議後や休憩時間にぜひ語りかけてみてはどうだろうか。