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 新聞の折り込みなどで毎日届くスーパーのチラシ。少しでも顧客の目を引きつけようと選りすぐりの特売商品が並び,価格の安さを競っている。一見,ち密な仕組みに見えるが,それを支える卸業者のシステムを皆さんはご存知だろうか。

 特売のときには,いつもより卸値を下げないと小売り業者の利益が出ない。このため卸業者は,小売り業者とメーカーの間に立って単品ごとに価格を交渉する。そのとき自社(卸業者)の利益は確保できるのか――。実は,それを正確に判断できるだけの情報を,食品卸業者最大手の国分の営業担当者は持っていなかった。同社が2006年9月に基幹システムを刷新し,2007年に本格稼働させる前の話である。

「リベート」が本当の利益を見えなくしていた

 その背景には複雑な商慣行があった。一定の売り上げや販売数量を達成した流通業者に対して,メーカーが回収代金から割り戻す報酬,いわゆるリベートがその一つである。リベートは,卸業者の仕入れ担当者が1年や半年といった長いスパンで取引メーカーと交渉し,勝ち取るもの。それが仕入れ値全体にどれだけ影響するかを,小売り業者への営業活動をする担当者には知る術がなかった。

 つまり,卸業者の営業担当者は,特売などで日々変わる卸値を決める際に,利益を確保できるのかが正確には分からなかったのだ。「ある商品による利益が11月までは前年比20%増だったのに,決算期の12月には(リベートが十分にもらえなくて)5%減になった」(国分 情報システム部 業務・会計システムチーム 副部長 佐藤登志也氏)というようなことが普通に起こっていた。

 新システムでは,このリベートまで含めた仕入れ値と利益を,営業担当者が日次で調べられるようにした。営業担当者が自らの評価に直結する利益率を,小売り業者ごと,商品ごとに日次で監視できるようにしたのだ。利益が悪化すればアラートが出て,すぐに次のアクションを起こせるようにした。

小売り業者からの発注に間違いがあっても通してしまう

 このような「見える化と気付きの仕組みが新システムの中核になっている」と板東直人氏(情報システム部長)は解説する。

 見える化と気付きの仕組みは,さまざまな業務に及ぶ。例えば,小売り業者からの発注を受け取るEDI(Electronic Data Interchange)。実は小売り業者の発注内容には間違いが少なくない。特売による交渉で,ある商品の卸値を4月28日まで98円にしたとする。ところが特売期間を過ぎても,同じ98円で発注が届いたりする。多くは小売り業者側のデータ更新ミスである。

 常識的に考えれば,そうした発注ミスにはエラーを返すと思うだろう。ところが国分はそれも受け入れてしまう。国分が取引する小売り業者は3万5000社。取り扱い商品は65万点で,世界最大の小売り業者である米ウォルマート・ストアーズの6倍以上に当たる。取引件数は年間約5億件。小さな発注ミスの訂正を求めて商品の配送を止めることよりも,多様な商品を確実に店頭へ届けることを優先しているのだ。

 もちろん発注ミスは後で正さなければならない。ところが従来は,これも月次などでしか現場の営業担当者が確認できなかった。新システムでは日次で分かるため,その日にも小売り業者との交渉に乗り出せるのだ。

 ミスは色々なところに潜んでいる。メーカーからの仕入れ担当者がリベートの入力を間違えたとする。営業担当者はそれにすぐ気付く。自分が売る商品の利幅が目に見えて変わるからだ。メーカーからの入金が遅れていることも直ちに分かる。営業担当者は約1500人。1500人の目が毎日,異変を監視し,利益の確保を図る仕組みなのだ。

 こうして国分は2008年12月期,10.3%という2ケタの売上総利益率を達成した。

 これだけの精度を実現したシステムを国分は低コストで実現している。償却費を含めた年間のシステム・コストは,10年前に比べて同レベルを保っているのだ。この間,地場の卸業者の買収などで,売り上げは1998年比で62%増の1兆4715億円に伸びた。処理データ件数は3.2倍に増加。それでもシステム・コストは変わらないため,1件当たりのシステム・コストは19.8円から7.8円に下がった。「業界全体で商品単価が劇的に下がっている中,システム・コストを下げることは極めて重要」と板東氏は強調する。

 「日本の流通は複雑で,欧米と比べてコスト高」とよく言われる。確かに商品単価は高いのかもしれないが,そのおかげで,日本の消費者は新鮮で多様な食品を毎日買うことができる。支えるITが進化することで,日本独自の流通システムがそのまま効率化される方が幸福なのかもしれない。