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 欧州の携帯電話事業者を中心に,ネットワークを共用化する動きが加速しています。英ボーダフォンとスペイン・テレフォニカという大手携帯電話事業者は2009年3月に,欧州の広い地域でネットワーク・オペレーションを共用化することに合意(関連記事)。T-Mobileと英3 UKも2月に,3Gネットワーク統合のための合弁会社を立ち上げました(発表資料へ)。

 業界団体であるGSMアソシエーションのロブ・コンウェイCEO(最高経営責任者)は,こうした動きについて,「経済合理性を求めて,事業者はネットワークのシェアリングを進めている。事業者にとってコア・コンピタンスは設備ではなく,サービス分野に移ってきている」と語ります。フランスでは3G以降のインフラ共用について,規制当局が率先してフレームワーク作りを始めたといいます。

 日本でもソフトバンクモバイルがイー・モバイルのMVNO(仮想移動通信事業者)となり,データ通信サービスを提供することが波紋を呼びました(関連記事)。一連の動きを見ていると,通信業界における設備競争のあり方が,改めて問われる時期に来ているように感じます。

通信インフラはライフライン

 日本の通信業界はこれまで,各事業者がインフラを自ら敷設して競う設備競争に軸足を置いてきました。ただし固定分野では,東西NTTの光ファイバ設備が支配的で,他の事業者はお手上げの状態。携帯分野でも,ユーザーが右肩上がりで増えていた時代は終わりを迎え,設備競争一辺倒とは異なる動きが見え始めています。

 特にLTE(3.9G)のような新たなネットワークについては,各事業者は設備投資を,3Gに比べてかなり抑える計画を明らかにしています。定額制が浸透する中で,投資回収の絵が描きにくいからでしょう(関連記事1関連記事2)。

 全国津々浦々まで3~4社の通信インフラが存在することは,経済合理性を考えると確かに無駄が多いと言えます。一方で市場に委ねるだけでは,過疎地域などでは,いつまでたってもブロードバンドや携帯のエリアが整備されません。

 今や通信インフラは,水道や電気と並ぶライフラインであり,新たな産業を生み出す基盤にもなります。このため,経済対策としてブロードバンド・インフラに公費を投入する施策も世界各国で目立ってきています(関連記事)。

 これに対し日本の規制当局である総務省のある幹部は,「我々にはいわゆる“光公団”のオプションは存在しない」と,国によるインフラ整備の方向性をきっぱりと否定します。既に競争環境によってある程度のインフラが整備された日本と,一気にブロードバンドの地域を広げたい諸外国を,単純には比較できないという主張です。

 日本でも経済危機対策として,ブロードバンド・ゼロ地域の解消と携帯電話エリア整備の加速などに953億円の補正予算案を計上しています。これはあくまで市場原理が働かない地方の基盤整備という位置付けとのことです。

設備競争とサービス競争のバランスをどう取るか

 総務省幹部は「設備競争とサービス競争のバランスは規制当局にとって永遠の課題」と,新たな競争ルールの枠組みの必要性についても触れます。実際,これまでのように固定分野の独占性を見るだけでなく,携帯分野と組み合わせて市場のレビューをしていく方向性を示し始めています。

 ユーザーの立場で考えると,設備投資を十分にしてエリアや品質を確保している事業者には信頼感があります。できればどの事業者も公平に設備競争をして,様々なサービスを選べる環境が訪れてほしいと思います。

 その一方で,全国規模でエリアを展開できる体力を持ったプレーヤーが日本に何社あるのか,を考えてしまうのも事実です。例えばNTTドコモは,全国に約7万6000局の基地局を建て約3兆円の投資をしたと言います。固定でも携帯でも,1社による独占性が高まれば,料金が高止まりする懸念も生じます。

 ネットワークの共用化や通信事業者によるMVNOは,これまでの通信業界の感覚からすれば違和感を覚えます。しかし,それが利用料金の低下を促し,サービス競争を加速する手段となり,かつ国民の“共有資産”である電波を有効利用しているという条件さえクリアしていれば,事業者同士の工夫の一つとして認められるべきだと感じます。設備競争とサービス競争のバランスには,このような観点も含まれるのではないでしょうか。

 現在総務省で開催している接続政策委員会では,まさにこれらの観点が話題になっています(関連記事)。総務省には,市場を盛り立てるようなバランス感覚を持った舵取りが求められています。