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 「日本人は、改革という言葉が好きなんですよ。だけれど、絶対に改革できない」

 こう明解に指摘するのは、作曲家の三枝成彰さんだ。多くの企業経営者や芸術家、作家などそうそうたる人たちと付き合いのある三枝さんだけに、本質を突いた鋭い指摘である。

 確かに、改革モノの記事はよく読まれる。改革しなければならないと誰しもが思っているのだ。ところが、いざ改革に踏み切っても、なかなか成就することはできない。

 改革は難しい。だから、本当の意味で成果を上げた改革のケーススタディに興味を引かれる。読者の多くは改革を成功に導くヒントを見いだそうとするのかもしれない。失敗した改革のケーススタディはさらによく読まれる。失敗の中にこそ、成功するためのヒントがたくさん詰まっているからだろう。

なぜ改革はうまくいかないのか?

 それにしても、なぜ改革はうまくいかないのか? 改革は重要だ思っても、いざ取り組んでみると、痛みが伴うために見えない抵抗に遭う。必ずといっていいほど“抵抗勢力”が出てきて、改革を引っ張るリーダーが思い描いたようには事は運ばない。そして、知らず知らずのうちに改革はとん挫してしまう。

 目の前にある仕事が変わることに抵抗し、現状を維持しようとする。自分はそう思っていなくても、いざ改革が始まると、“抵抗勢力”になっていたりするものだ。あからさまに抵抗しない、黙って改革に抵抗するサイレントな反対者がもっともやっかいな“抵抗勢力”といわれる。見えないから対処しようがない。

 IT(情報技術)活用による経営改革に取り組んでいるリーダー、CIO(最高情報責任者)も、経営改革の難しさを日々痛感しているようだ。有力企業369社のCIOを対象にした日経情報ストラテジーの調査もそれを裏付けている(同誌2009年3月号特集1を参照)。

 「社内では現状を維持しようという雰囲気が強く、新しい取り組みや改革は敬遠されるか?」という質問に対して、8.7%のCIOが「その傾向がとても強い」と回答している。そして、「どちらかというとその傾向は強い」との回答は実に31.4%。約4割のCIOが現状を維持しようとする社内の抵抗に遭っているというわけだ。

 多くの企業が改革に対して「後ろ向きである」ことが分かる。さらに、せっかく上がってくる現場の社員からの改善提案についても、無視される傾向があるようだ。

 「第一線の社員が既存業務の課題・問題点を発見し、上司に改善策を提案しても、『目の前の仕事をしっかりやれ』と言われて相手にされないことが多いか?」との質問に対しては、3.0%のCIOが「その傾向がとても強い」と回答し、「どちらかというとその傾向は強い」とするCIOは全体の20.6%に達する。

 現場からの改善策を無視するというのは、もってのほかだが、有力企業といわれているところでさえ日常的に起こっていることを考えると、日本企業の成長の「限界」を感じざるを得ない。

情報システム部門に、「人材不足」という深刻な問題

 さらに、改革の担い手であるはずのユーザー企業の情報システム部門に深刻な問題がある。5月18日付日経産業新聞のコラム「デジタル時評」でも指摘したが、多くの企業で優秀なIT人材が不足している。

 先ほど紹介した日経情報ストラテジーが実施した有力企業のCIO調査によると、IT部門が抱える課題の上位3つが人材不足に関するものだった。

 ちなみに1位は「事業に詳しく戦略的な思考ができる人材の不足」。CIOの実に56.6%が回答している。2位は43.6%のCIOが回答している「IT部門の人材の不足」だ。さらに3位は「プロジェクトマネジメント力のあるIT人材の不足」で、26%のCIOが回答している。

 「100年に一度」という世界的な金融・経済危機は、底力のある企業をあぶり出す。逆に力の無い企業は淘汰・再編される。

 自動車や電機などの外需に依存してきた製造業を中心に、世界的に需要が極端に落ち込むなか、売り上げが半減しても、利益を生み出せるような体制に改革できなければ退場を余儀なくされるだろう。

 今年春にインタビューしたキヤノン電子の酒巻久社長は、強い危機感を抱いている(関連記事)。

 「2009年の売り上げは、最悪の場合、半減すると見ています。ベストシナリオでも3割は落ち込むでしょう。例年だと、1月の売り上げはほかの月に比べて高めに出るものなのですが、今年は全然ダメですね。

 昨年、当社は米国市場の低迷を見込んで、ターゲット市場を米国から産油国へシフトしました。ところが、10月くらいから産油国でも売れなくなり、2009年は年初からさっぱりです。米国、欧州、中国でも売れない。国内の状況はもっと悪い。これでは売り上げが出るわけがないですよね。

 これからは、モノが売れないという前提でビジネスを考えなければなりません。具体的には、売り上げが50%落ちた状態でも黒字を出せるように、“積極的な経費削減”に取り組んでいきます。

 まず必要なのは、投資の内容を見極めること。単に投資を減らすのではありません。案件ごとに、その投資が本当に将来必要なものかどうかを改めて検討し、無駄な投資は削り、必要な投資は守ります。

 次に、抜本的な生産性の向上です。実は、ITバブル崩壊時のような不況がやって来ることを見越して、当社は一昨年から、計画的に生産性向上のための体質改善を進めてきました。派遣社員や契約社員の仕事を、段階的に正社員に移してきたのです」

 製造業を中心に、血のにじむような努力によるコスト削減やIT活用による新サービスの提供、ITを駆使した経営の効率化が急務だ。

 「やらなければならない」と分かっていても改革に踏み切れない企業や、改革に乗り出しても優秀なIT人材が不足している企業は、厳しい経営環境のなかで淘汰されてしまう。今こそ、改革の“抵抗勢力”と真っ向から対決する覚悟を固めるべきだ。