プロジェクト管理ツールは必須といえない
分野 | 利用率(%) |
---|---|
プログラミング | 68.1 |
変更/構成管理 | 40.1 |
プロジェクト管理 | 36.6 |
分析/設計 | 29.6 |
テスト | 25.9 |
こうした調査では,特定分野の作業に不可欠なツールでは満足度が高く,逆に不可欠とまではいえないツールでは満足度が低くなる傾向がある。表4は,各分野の作業を実施した際に,開発支援ツールを利用したかどうか聞いた結果である。プログラミング・ツールの利用率は約70%と突出して高く,他の4分野の開発支援ツールはいずれも30~40%ほどと低い。
プログラミング・ツールとして利用されているのは,実際はエディタやコンパイラ,リンカー,デバッガといったツールが統合されたIDE(統合開発環境)がほとんどである。IDEは成熟が進んだ製品分野で,利用される製品が「Eclipse」と「Microsoft Visual Studioシリーズ」の二つに集中しているのは周知の通りだ。プログラミング・ツールの総合満足度が高い理由の一つに,IDEがプログラミング作業にほぼ必須とされていることが挙げられよう。
一方,分析/設計ツールやテスト・ツール,変更/構成管理ツール,プロジェクト管理ツールは各作業の必須ツールとまではいえない。プロジェクト管理分野の総合満足度が極端に低い理由は,表4からは見つからない。
機能の多様化で操作性が悪化
表5は,一般に開発支援ツールを選定するときに,重視する項目について聞いた結果である。これを見ると「個人やチームのメンバーが使い方を覚えやすい」「操作しやすい」「作業の効率向上に役立つ」などの項目が優先されていることが分かる。機能や性能より,やりたいことを迷わず実施できることが重視されている。
選定理由 | 重要度 |
---|---|
個人やチームのメンバーが使い方を覚えやすい | 60.4 |
操作しやすい | 59.5 |
作業の効率向上に役立つ | 59.3 |
処理やレスポンスが速い | 43.4 |
成果物の品質向上に役立つ | 42.7 |
ツールの機能が充実している | 41.3 |
インストールや初期設定がしやすい | 39.7 |
コストパフォーマンスが高い | 38.0 |
利用する上で必要な情報を入手しやすい | 36.6 |
他のツールと連携しやすい | 26.4 |
サポートが充実している | 26.3 |
開発支援ツール全般と,プロジェクト管理ツールについて,選定するときに重視される11項目ごとの満足度を表6にまとめた。この結果から,プロジェクト管理ツールは特に,「操作しやすい」「成果物の品質向上に役立つ」「コストパフォーマンスが高い」の満足度が相対的に低いことが読み取れる。
選定理由 | プロジェクト管理 ツールの満足度 | 開発ツール 全般の満足度 | プロジェクト管理ツールの 満足度充足率(注) |
---|---|---|---|
インストールや 初期設定がしやすい | 69.2 | 69.6 | 99.4 |
サポートが充実している | 50.2 | 50.9 | 98.8 |
処理やレスポンスが速い | 56.5 | 59.0 | 95.7 |
利用する上で 必要な情報を入手しやすい | 57.3 | 61.8 | 92.6 |
ツールの機能が充実している | 59.8 | 65.0 | 92.0 |
作業の効率向上に役立つ | 61.7 | 69.0 | 89.4 |
個人やチームのメンバーが 使い方を覚えやすい | 58.3 | 65.8 | 88.7 |
他のツールと連携しやすい | 49.0 | 55.5 | 88.3 |
成果物の品質向上に役立つ | 58.2 | 66.2 | 87.9 |
操作しやすい | 55.5 | 64.2 | 86.4 |
コストパフォーマンスが高い | 50.9 | 62.8 | 81.0 |
「操作しやすい」という点でプロジェクト管理ツールの満足度が低いのは,プロジェクト管理ツールに求められる機能はプロマネの考え方によって差が大きいため,と見られる。単体のツールで個々の要望を満たそうとすると,機能が多様化し,操作性が悪化してしまう。ただ,この問題は解消可能だろう。例えばプロジェクト管理ツール本体は基本機能を提供するにとどめ,応用機能については必要なものだけをプラグイン(機能拡張ソフト)機構などによって付け加えられるようにするのである。プラグインの開発が活性化し,一通りの機能拡張が可能になれば,ユーザーはやりたいことを迷わず実施できるようになるはずだ。
単にツールを導入しただけでは効果が上がりにくい
「成果物の品質向上に役立つ」と「コストパフォーマンスが高い」の項目で,プロジェクト管理ツールの満足度が低いのは,導入効果が見えにくいからだろう。「成果物の品質向上に役立つ」ことが不鮮明なら,コストパフォーマンスは低下する。
調査とは別に,ユーザー企業数社に,どんな開発支援ツールをどのように使っているのか取材した。そこでしばしば,プロジェクト・マネジメント・オフィスや品質保証部の立場の方から,5分野の開発支援ツールのうち特にプロジェクト管理は,単にツールを導入しただけでは効果が上がりにくいという話を聞いた。
分析/設計やプログラミング,テスト,変更/構成管理分野では,利用環境を整備しさえすれば,作業担当者が自分,あるいはチームの作業効率を高めるために開発支援ツールを積極的に使いこなそうとする。特に,プログラミング・ツールはその傾向が強いそうだ。しかし,プロジェクト管理ツールは例外で,進捗実績などの入力作業を行うプログラミング担当者などにとって利用効果が見えにくいために,ツールを使い続けたいという意欲がわかない。結局,プロジェクト管理ツールに関しては利用環境を整えるだけでは不十分で,利用ルールを細かく定めて厳格に運用したり,プロジェクトの特性に合わせて運用法を調整したりするなどの工夫が必要だという。こうした扱いにくさが,「成果物の品質向上に役立つ」や「コストパフォーマンスが高い」の項目で,プロジェクト管理ツールの満足度を押し下げたものと思われる。
表4に示したように,分析/設計ツールやテスト・ツール,変更/構成管理ツール,プロジェクト管理ツールの利用率は低い。しかし,開発効率や品質を高める目的で開発手法を改善し,こうしたツールを活用して,新たな開発手法を定着させた現場は多数ある。その一端を前述の特集記事で取り上げた。興味をお持ちの方は,ご一読いただきたい。