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 先日,知り合いのエンジニアと話していたら「スキルアップという言葉に正直,うんざりしている」という話題になった。「技術力を磨け」「業務知識を身に付けろ」「コミュニケーション能力も重要だ」---。こんなことを毎日あちこちで言われると「そんなの分かっている。もうオーバーフローだよ」と,うんざりするという。

 最近は求められるスキルが幅広く,そのうえ高度化・専門化している。ゼネラリストとスペシャリストの能力を同時に要求される矛盾すらある。同じように感じているエンジニアの方も多いのではないだろうか。

 そんなところに,日経SYSTEMSの7月号で「自分向上」の特集がアサインされた。

 さて困った。どうやったら押し付けがましくならないか。自分向上を「つらい」ものではなく,「楽しい」ものにするにはどうしたらよいのか……。

 そこで記者は,シンクロナイズド・スイミングの五輪メダリスト,武田美保さんに取材を申し込んだ。偉業を成し遂げた他方面の実力者に,自分の高め方のヒントを得ようと考えたのだ。武田さんは日本女子選手として史上最多タイとなる5個のメダルを五輪で獲得。引退後は,シンクロ解説をはじめ,ビジネス・パーソン向けに「自分の高め方」の講演などを精力的にこなしている。

自分を高める「過程」を楽しむ

 インタビューではまず,強さの秘訣を聞いた。すると「将来のビジョンを持ち,しぶとくあきらめないこと」と武田さん。シンクロで世界を目指すきっかけは,12歳のときに訪れた。ソウル五輪で小谷実可子さんら日本選手が活躍しているのを見て,自分の将来を重ねた。そして8年後の五輪(アトランタ大会)に,自分も出ることを決意したという。

 それからがすごい。最初に五輪選手のプロフィールを収集し,幼少期からの出場大会や成績を細かく調べ上げ,それを自身の“マイルストーン”とした。それから毎日,自分の能力と求められる能力のギャップを分析し,それを埋めるために練習に励む。その結果,17歳でナショナルA代表入り,20歳で念願のアトランタ五輪に出場。その後,日本選手権7連覇,世界水泳金メダルと,次々に記録を打ち立てた。

 自分を高めるうえでのモチベーションは何だったのか。武田さんは「自らを育むことで得られる充実感」と説明する。小さな目標でもいい。毎日何かの目標を立て,それを達成する。その達成が大きな充実感になり,毎日が楽しくなる。おのずと実力や結果もついてくる――。

 結果よりも自分を高める過程を楽しんでいるようだった。武田さんによると,ある1日は筋肉の特定の部位を動かすことだけを目標とし,挑戦する。それができたとき,その日は素晴らしい1日になるという。「1日1日に意味を持つ。それが自分を楽しく高める秘訣です」。そう言って武田さんは笑顔を見せた。

楽しくなければ続かない

 記者はこうした言葉にヒントを得た。今の時代,多様化するスキルを効果的・効率的に身に付けるには,1日1日に意味を持てる「楽しさ」が不可欠だと。でなければ,成長を持続できない。スキルは結果としてついてくる。大事なのは,自分の成長に目を向けて,楽しくスキルアップすること。それこそが,これからの自分の高め方なのである。

 取材を進めるうちに「自分向上」特集が楽しくなってきた。ITの現場にも自分を楽しく高めている人がいるはず。そもそも楽しんで自分を高めている人は,意識が高く,何より熱い。そうした方とお会いできることは,とても刺激的である。

 人選には苦労したが,日経SYSTEMS 7月号では,楽しく自分を高めているエンジニアを全部で13人紹介した。特徴的なのは,その高め方である。どれもユニークなものばかり。例を挙げると,“朝活”で企画提案力を高める,売り場巡りで業務知識を養う,「教えてくれる人」の公募で高度資格を取得,バスケットボールでマネジメントを学ぶ,伝統演芸で話す力を向上――など,バラエティに富んでいる。どれもつらさはない。楽しく自分を高めている事例ばかりである。

 もう一つ特徴的なのは,誌面にご登場いただいた方々はみな,不況の風が吹き荒れる今を「チャンス」ととらえていることだ。IT業界では,一時期のような“仕事に忙殺される日々”から解放されている。そこで余裕ができた今を,実力を高めるチャンスと見ているのだ。おそらく景気が回復したころに,実力の差が歴然と表れてくるのだろう。