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 「どのような仕事をしているのですか」。こう質問されたら本欄を御覧になっている読者の皆様はどうお答えになるだろうか。尋ねてきた相手がご両親、あるいはご子息であったなら、聞き慣れない片仮名や英語を使って説明するわけにはいかない。普段の会話に出てくる日本語だけで仕事の内容を語るにはどうすればよいか。時には、このようなことを考えてみると頭の体操になるはずだ。

 筆者はある主張を世の中に広めるための会を主催し、会長を務めている。ただし会員はまだ一人しかいない。六月まで東京海上日動火災保険で常務を務められた横塚裕志氏である。その横塚氏は東京海上で三十六年間、ほぼ同一の仕事に従事し、五月の半ばに、その仕事の素晴らしさを訴える講演をされた。大変楽しい講演であったので、筆者が編集長を務めている雑誌に講演内容を掲載した(講演内容はこちら)。

 「大好きです」と横塚氏が述べた、その仕事は片仮名で表記されたり、英文字二文字で略記されることが多い。あえて日本語で書くと、「新しい仕事のやり方や問題解決の手だてを考え、その取り組みに必要となる情報を提供する仕掛けを用意すること、あるいは用意する技術者」となろうか。本欄を読まれている読者の皆様のうち、半数はこの仕事に就かれていると思うので、ぜひ皆さんなりの日本語説明文を考えていただきたい。

 英語や片仮名を使わず、まだるっこしい書き方をしている理由は、筆者が主催する会が「数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語を一切使わない会」だからである。この話は以前、本欄で二回ほど書いた(英単語は一切使うな英略語は一切使うな)。なぜ、数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語を一切使わないかと言えば、それは日本語ではないし、事実を反映してもいないからである。

 この点に関して、横塚氏と筆者の間で次の様なやり取りがあった。横塚氏が講演をすることを知って、筆者は「素晴らしい題名の講演ですね」といった内容の手紙を送った。手紙と言っても、郵送ではなく、情報技術を使った電子的な手紙である。すると横塚氏から、英語二文字で表現される仕事に対する賛歌を披露します、といった内容の電子的返信が届いた。英語二文字で表現される仕事とは先に書いた、新しい仕事のやり方や問題解決の手だてを考えその取り組みに必要となる情報を提供する仕掛けを用意する仕事である。

 ただ、横塚氏の返信には気になることが付記されていた。数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語が、横塚氏が愛してやまない、新しい仕事のやり方や問題解決の手だてを考えその取り組みに必要となる情報を提供する仕掛けを用意する仕事に使われることに我慢がならない、造語の流布に対抗するため新しい造語を披露する、という。通常、劣悪な労働環境を示す際に使われる数字は三だが、講演に際し横塚氏は三を七に入れ替えた別の略語を考えた。

 数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語は嫌いなので詳しくは知らないが、確か「汚い」「危険」「きつい」といった意味が込められていたと思う。横塚氏は、新しい仕事のやり方や問題解決の手だてを考え、その取り組みに必要となる情報を提供する仕掛けを用意する仕事は、汚くないし、危険でもない、それどころか、七つの魅力がある、と反論しようとした訳である。

 七つとは何だろう。「究極の仕事」「休日が多い」「給料が高い」といった内容だったのだろうか。残念なことに、七つの内容は不明である。筆者が余計な電子的手紙を送りつけたため、横塚氏は七つの魅力を講演で披露するのを止めてしまったからだ。

 やり取りはこうである。七を冠した新しい略語を披露すると書かれた電子的手紙に対し、筆者は「数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語を一切使わない運動をしています。編集部の記者にもこの表現を使うな、と命じています。三で始まる略語に反論すること自体、その略語の存在を認めていることになるからです」といった、相当生意気な内容の返信を送りつけた。

 すると横塚氏から「おっしゃる通りです。数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語を一切使わない会に入会します」という返信が送られてきた。こうして同氏は会員第一号になるとともに、七を冠した新しい略語をお蔵入りさせてしまった。