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安価な通信サービスが続々と登場している。中でも,がぜん注目度が上がっているのが,WANサービスの「エントリーVPN」とアクセス回線の「FTTH」だ。これらのサービスは安価な代わりに信頼性に劣るとされ,これまでは比較的重要度の低い小規模拠点などへの導入が一般的だった。しかし最近は,本社などの主要拠点を含めてメインのインフラとして活用する企業が登場している。(山崎 洋一=日経コミュニケーション

 いつの時代も,企業ネットワークに求められるのはより便利で,より速く,より安価な製品やサービスだ。なかでも安さは,進化と拡張を続ける企業ネットにおいて,時間の経過とともに重要さを増している。

 こうした経緯から,“格安”を売り文句にする通信サービスが台頭し始めた。WANサービスのエントリーVPNやアクセス回線のFTTHといった商品だ。

 先進ユーザーのなかには,早くもこうした製品やサービスを主役に抜擢し始めた企業がある。企業規模も業種も様々だが,いずれもコストを重視すると同時に,犠牲となる機能などを独自の工夫で乗り切ろうとしている。

エントリーVPN
あらゆる規模のユーザー向けに勢力拡大

 ブロードバンド回線を使い,格安の閉域ネットワークを構築できるエントリーVPN。そのセールス・ポイントは料金だ。1拠点当たり,FTTH回線を含めても月額1万円代前半から。IP-VPNと比べて格段に安い。

 エントリーVPNは,従来は地方拠点や情報系データ通信,あるいは基幹系のバックアップ用として使う形態が主流だった。本社などの主要拠点,または基幹系のような重要データを流すネットワークには,IP-VPNや広域イーサネットなどを利用していた。

エントリーVPNがメインの有名企業も出現

 ところが最近は,名の知れた大手企業までがエントリーVPNを基幹系システム,あるいは本社やデータ・センターのメインのネットワークとして採用するケースが増えてきた。

 光学機器メーカー大手のオリンパスは,2005年8月にネットワークを刷新。NTT東日本の「フレッツ・グループアクセス」とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「Group-VPN」という二つのエントリーVPNをメイン・ネットワークに採用(図1)。本社を除くほとんどの拠点とシステムを集約したデータ・センターを結び,情報系に加え基幹系にも利用している。

図1●オリンパスはコスト削減のためにエントリーVPNをメインの閉域網に採用
図1●オリンパスはコスト削減のためにエントリーVPNをメインの閉域網に採用
以前はメインが広域イーサネット,バックアップがインターネットVPNという構成だった。それを,エントリーVPNがメイン,広域イーサネットがバックアップに再構成。コストを削減した。
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 東北地方から近畿地方にかけて事業を展開するラーメン・チェーン大手の幸楽苑(本社・郡山市)も,エントリーVPNの利用を拡大していく意向だ。

 同社はISDNを使う店舗を数多く抱えており,本部から各店舗にダイヤルアップで接続して売り上げデータを集めている。そのうえ,データ・サイズの大きな写真入りマニュアルを送付したいとの要望を持つ。そこで売り上げ入力の仕組みをWebアプリケーションに変更し,閉域ネットワークを採用する計画が持ち上がっている。「こうした処理は基幹系になるが,広域イーサネットでは費用面で割に合わない。Group-VPNを使うことになるだろう」(同社)と話す。

 エントリーVPNをメインにすることで気になるのは,耐障害性だ。オリンパスではGroup-VPNで過去に2度,接続できたりできなかったりを繰り返す障害が起こったことがある。こうしたケースに備えて同社は,刷新前にメインのネットワークだったKDDIの「KDDI Powered Ethernet」をバックアップ用に転用した。

 ただし刷新前の契約内容のまま使い続けているわけではなく,利用帯域を絞ることでコストダウンを図った。刷新前に月額20万~30万円かかっていた通信コストを10万円弱にまで削減できた拠点があるという。

大規模ユーザー向けに最大接続拠点数が拡大

 格安なエントリーVPNだが,当然のごとくIP-VPNや広域イーサネットとの料金差は,サービス品質の差となって表れる。その典型例は,エントリーVPNにSLAが付かないこと。これは,ベストエフォート型のブロードバンド回線をベースとしたサービスであることが主な要因。エントリーVPNを販売するNTTコムは「SLAを付けるのは難しい」と話す。NTT東日本も同じ考えだ。

 確かにサービス内容にいくつかの制限があるものの,ユーザー・ニーズは急拡大中。最近は大企業の基幹系でもフレッツ・グループアクセスなどが当たり前のように使われるようになってきた。NTTコムも2006年6月,大規模ユーザーの利用に配慮して,Group-VPNの最大接続拠点数を50から1000に増やした。

 セキュリティやビジネスのスピードアップを考えると,すべての拠点を高速かつセキュアな閉域網で結ぶニーズは高まる一方。だが多額の投資が必要となり,すべてをIP-VPNや広域イーサネットでまかなうのは難しい。エントリーVPNの出番が増えていくことは間違いない。