プロセサの性能向上に伴い,コンピュータの消費電力や発熱の問題が急浮上している。「Enterprise Platform」では,IT関係者がこの問題についてどう捉えているか調査。523人から回答が得られた。消費電力や発熱に対する関心はまだ低い。だが,少しずつではあるものの意識の変化は起きているようだ。


 「先日,東京都内で発生した停電で,ビルの空調がストップ。マシン・ルームのサーバーが熱暴走して大変なことになった。これまで発熱については特に意識してこなかったが,熱対策の重要さを身にしみて感じた」。あるユーザー企業に勤務する30代のエンジニアはこう明かす。

 システム・インテグレータに勤務する営業エンジニア(40代)は次のように語る。「サーバーの裾野が広がって,ファイル共有やグループウエアなどの用途で中小企業でも使われるようになった。私たちシステムの提供側としては有り難いことだ。しかし中小企業ではデータセンターにサーバーを預けたり,しっかりした空調や電源設備を整備したサーバー・ルームを設けたり,といったことは難しい。最近はサーバーを提案するときに,その消費電力を意識するようになった」。

 このエンジニアは「定量的に調べたわけではなく,あくまで印象だが」と断ったうえで,こう話す。「最近,地球温暖化対策で,空調を抑えるオフィスが増えている。マシンの高性能化,オフィスの気温上昇といった要素が組み合わさってのことか,パソコンやサーバーが熱暴走した,という話がけっこう聞かれるようになった」。

 コンピュータの発熱をどうするか。熱対策は昔からテーマの一つではあったことは変わりない。だが,コンピュータの“コモディティ化”と性能の向上,そしてオフィスの地球温暖化対策など複数の要素が相まって,消費電力と発熱はさらに大きな焦点となりつつある。

 そこでITproの姉妹サイト「Enterprise Platform」は8月,IT関係者がこの問題についてどう捉えているかを調査。523人から回答が得られた。全体として消費電力や発熱に対する意識はまだ低いものの,着実に関心は高まっているようだ。調査結果のポイントを紹介しよう。


身近なパソコンでは発熱・騒音に関心大

 まず調査では,ユーザーに最も身近なコンピュータであるパソコンについて,その消費電力や発熱をどう考えているか聞いた。「パソコンを購入する際に,消費電力やファンの騒音,発熱について気にするか」との問いに対して,パソコンの購入経験者である501人は次のように挙げた(複数回答)。「発熱を気にする」が361人(72.1%),「ファンの騒音を気にする」が346人(69.1%),「消費電力を気にする」が250人(49.9%)だった。発熱とファンの騒音を気にする回答者は7割にも上る(図1)(*1)

*1) デスクトップ・パソコン購入者と,ノート・パソコン購入者でこの傾向に差はなかった。

図1 現在パソコンを購入する際,気にする項目
図1 現在パソコンを購入する際,気にする項目

 騒音や発熱を挙げる割合が消費電力よりも多かった理由としては,“肌感覚”としてわかりやすい指標だったからだろう。ただ,少なくともこれらの弊害に対して,ユーザーの意識が高まっていることが分かる。パソコン・メーカー各社がファンの騒音低減策や熱対策に取り組んでいるのはさもありなん,といったところだろう。


サーバーについては意識の高まりの片鱗見える

 一方サーバーについては,当然といえば当然だが,身近なパソコンよりも,発熱やファンの騒音,消費電力に対する意識は低い。「サーバーに求める要素は何か」と聞いたところ,最も重要な要素として上がったのは信頼性と処理性能。消費電力,発熱量,騒音は重視されていない順に“ワースト1,2,3”の要素だった。

 「重視する」から「重視しない」までの5段階を得点化して回答の分布を表現してみると,信頼性のスコアが一番高く3.65,二番目が処理性能で3.34である。消費電力は一番低く2.16,発熱量の低さが2.27,騒音の低さが2.20だった(表1)。騒音はともかく,コストやシステムの安定運用に関わる消費電力や発熱量についてもここまで意識が低いのは,回答者にIT関連技術職が多いことを考えると,やや予想外とも言える(*2)。アンケートの自由回答欄に眼を向けると「性能アップに追われるいま,処理性能や安さ,安定性は重視しても,消費電力や発熱量を考慮する暇はない」(45歳~49歳,システムインテグレーターに勤務するコンサルタント)という声も多く,確かに納得できる面はある。利用者側で消費電力や発熱の問題が顕在化する方が先か,メーカーの対策が進む方が先か,どちらかで先行きは変わることだろう。

*2) 回答者の属性を見ると,ソフトや情報システム,ネットワークの企画・開発にかかわる技術職が約半分の54.8%(282人)を占める。

表1 サーバーに求める要素に対する評価
表1 サーバーに求める要素に対する評価

 ただ騒音について見てみると,多少状況は異なる。サーバーに“静かさ”を求める声は,身近な場所にサーバーが置いてある人ほど強いようだ。本調査では回答者に,自分がよく使うアプリケーションと,そのアプリケーションが稼働しているサーバー,いわば「自分に最も関わりの深いサーバー」の設置場所を聞いている。最も関わりの深いサーバーが通常のオフィス空間に置いてある人は,騒音の低さを求めているという結果が出た。

 表2を見ていただきたい。サーバーが「通常のオフィス空間」にある人(149人)のうち,騒音の低さを「重視する」と回答したのは約2割。「社内のサーバー・ルーム」やデータセンターにある回答者の割合の2倍だ。有効回答数が少ないので偏りはあるかもしれないが,一定の傾向は現れている。

表2 サーバーの設置場所別に見た,騒音の低さの重要度
表2 サーバーの設置場所別に見た,騒音の低さの重要度
回答者にとって「最も関わりの深いサーバー」の設置場所が身近であるほど,騒音に対して敏感であるようだ

期待の技術は冷却技術とマルチコア

 消費電力や発熱という問題に直面しているハード・メーカーは,様々な対策を進めている。プロセサ・メーカーが進めるデュアルコアはその端的な例だ。サーバー・メーカーは空冷の仕組みを改良したり,あるいはメインフレームなどで培った水冷機構をUNIXサーバーやIAサーバーに適用し始めている。(Enterprise Platformの関連記事その1, その2その3

 そこで調査では「コンピュータの消費電力や発熱量の低減を実現する技術で,期待するもの」は何かを聞いた。トップ3を順に挙げると,「空冷,水冷,ヒートパイプなどの冷却技術」が292人で55.8%。「デュアルコアなどのマルチコア技術」が232人で44.4%。「使用していない回路の電源をオフにして消費電力を抑える技術」が196人で37.5%だった(図2)

図2 コンピュータの消費電力や発熱量の低減を実現する技術で,期待するもの
図2 コンピュータの消費電力や発熱量の低減を実現する技術で,期待するもの

認識まだ低くも関心は高まる電力問題

 「データセンターは電力と冷却を今以上に必要とするだろう」---米調査会社Gartner Researchは今年8月,こんな見方を調査レポートで示した。またGartnerはそれよりも前の3月,「なぜIT企画者にとって冷却(Cool)が“ホット”なのか(Why Cool Is Now 'Hot' for IT Planners)」と題したレポートを発行している。

 「コンピュータのハードや運用管理費は下がる一方で,唯一上昇しているコスト要因がある。それは消費電力だ。消費電力が無視できない課題として大きくなりつつある」。Why Cool Is Now 'Hot' for IT Plannersではこう警告している。

 そこで本調査では,回答者で「サーバーの購入に何らかの形で関わっている」人を抽出し,どの程度電力のコストを意識しているかを見ることにした。

 表3をご覧頂きたい。データの運用管理費のうち,最も費用がかかっていると思う項目,二番目に費用がかかっていると思う項目,三番目に費用がかかっていると思う項目をそれぞれ挙げてもらった結果だ。

表3 データセンターの運用管理費のうち,費用がかかっていると思うもの
表3 データセンターの運用管理費のうち,費用がかかっていると思うもの

 回答数がトップだったものをそれぞれ見ていくと,「最も費用がかかっていると思う」項目では「人件費」で,290人中155人(53.4%)。「二番目に費用がかかっていると思う」項目では「サーバーやネットワーク機器の修理費用」で,82人(28.3%)だった。「三番目に費用がかかっていると思う」項目では,「電力料金」で57人(19.7%)。サーバーやネットワーク機器の購入費用(19.3%)とわずかな差だったが,多少なりとも電力料金に意識が向いていると見て良いだろう。

 「いまだ霧中だが萌芽あり」。調査結果はこんなフレーズにまとめられるだろう。IT業界の認識はまだ高いとは言えないが,プロセサやマシンのメーカーは熱対策・省電力対策に躍起になって取り組んでいる。数年後にはIT業界はすっかり「エコ中心」へと考え方を変えているかもしれない。

 次ページに回答者が記した自由意見を掲載した。消費電力や発熱に悩む現場の声をぜひご覧頂きたい。


調査概要
 2006年8月22日から28日にかけて,日経BP社の「Enterprise Platform」および「ITpro」で実施。サイト閲覧者と日経BPコンサルティング保有の調査モニター,計523人から有効回答を得た。調査の企画はITpro編集部と日経BPコンサルティング。  回答者は技術者が多く,「コンピュータ・システムの企画・開発(技術職)」が27.8%。次にコンピュータ関係以外の技術職で25.2%。3番目が「コンピュータ・ソフトの企画・開発(技術職)」で20.0%である。  年齢層で見ると,30代後半から40代前半が多い。20代が9.1%,「30~34歳」が16.0%,「35~39歳」がトップで26.3%,「40~44歳」が24.4%,「45~49歳」が13.5%,50代が9.4%,60歳以上が0.9%,無回答が0.4%だった。