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 エンタープライズを取り巻くIT環境の変化は,さらに先鋭化して見える。細分化したソフトウエアの機能をサービスとしてピックアップしてシステムを構築する「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」がもてはやされている。それとともに,ソフトウエア機能をネット経由でサービスとして利用する「SaaS(Software as a Service)」が当たり前になったかのような錯覚を覚える。

パッケージ・ソフト全盛期を迎える中堅・中小企業

 そうした動きの一方で,中堅・中小企業向けIT環境では,ようやくパッケージ・ソフトが全盛期を迎えている。標準的な機能を備えたパッケージ・ソフトを購入し,必要に応じてカスタマイズする。中堅・中小企業の多くは,そのためにライセンス,SI(システム・インテグレーション),バージョンアップなどの費用をベンダーに支払い,さらには,自社SE(システム・エンジニア)が運用・保守業務を担当するという,非常に負荷の重い状況を受け入れている。

 中堅・中小企業が求めるものは,あくまで「目的を達成するためのソフトウエアの使い方」であり,ソフトウエアの提供形態は問題ではない。パッケージ・ソフトを使った業務プロセスはすでに確立されており,情報システム部門の人員も確保されている。その意味で,負荷などの問題はあるにしても,ソフトウエアの提供形態の変化に対し,中堅・中小企業がすぐに反応を示すとは思えない。

 もちろん,価格や運用・保守業務負担などの理由から,パッケージの導入がためらわれる分野はある。こうした分野において,SaaSがトライアル感覚で利用される可能性はあるだろう。また,新興企業が自社業務システムをゼロから構築する際には,SaaS型ソフトを利用することはあるだろう。

 さらに,デジタルデバイドにおける“情報弱者”と呼ばれるような中小・零細企業が,国内には数多く存在する。これら非IT経営の企業群に対して,経済産業省,総務省などでは,SaaSをきっかけにIT経営を実践させようという支援策の動きがある。ただし,「安くて簡単だから」という理由だけで,SaaSの利用を促しても意味はない。ITの利用目的は「経営に響く,企業の経済活動に役立つ」ことにあるからだ。

 一方,既存のパッケージ・ベンダーにとって,現在のビジネスをSaaS中心へと移行させるインセンティブは低いだろう。パッケージ・ソフトの販売モデルが,エンタープライズから中堅・中小企業まで規模ごとに固まりつつある段階にあるからだ。

グループウエアから始まっているSaaS/ASPの利用

 本連載の第2回ですでに確認したように,2007年のSaaS/ASP(Application Service Provider)の「導入利用している+強化/改善を図りたい+構築中(新規)」は,2006年調査におけるASPの16.2%からほぼ横ばいの16.1%だった。現状では,SaaS的な利用形態は中堅・中小企業にあまり普及していない。

 これは別段驚くべき結果ではない。というのも,SaaSは厳密に言えば「市場ではない」からだ。SaaSはソフトウエア提供形態のひとつに過ぎず,「SaaSを使いたいか?」と聞かれてイエス/ノーで回答すべき対象ではない。

 SaaSのインパクトとは,「所有から利用へ」という革命的なパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めていることだ。パッケージ・ソフトのSaaS化も現象の一つだが,むしろ「XaaS」と言われるように,ソフトウエアだけでなく,プラットフォーム,ストレージ,CPU処理能力など,今後はヴァラエティに富んだ機能がネット経由のサービスとして展開されていくだろう。

 ユーザー企業にとっては,まず製品やサービスに魅力があることが前提になる。その上ではじめて,提供形態としてのSaaSの存在意義が問われる。現状では,導入率が飽和状態に近づきつつあるグループウエアにおいて,SaaSの利用が進みつつある。それに続いて,導入率は低いが関心度合いの高いSFA(営業支援システム),CRM(顧客関係管理)などの戦略系ITがSaaSとして注目を集めている。

 「安く,早く,簡単に」というSaaSの特性が,戦略系ITの需要を喚起することになるかもしれない。長年の課題であった戦略系ITの利用,つまり「経営に役立つIT」こそが,今後の中堅・中小企業のIT活用における最重要な課題だ。少なくとも,SaaSが「会計ソフトなどの単なるWebレンタルサービス」で片付けられてしまうことのないよう願いたい。

 いずれにしても,戦略系ITの導入率と同期してSaaS利用率に変化があるかどうか。今後も継続して調査していくので,期待していただきたい。

※SaaSレポート発刊について
 今回取り上げたSaaSについては,2008年3月に弊社からレポートを発刊することが決まっています。内容は「中堅・中小企業におけるSaaSの位置付け」にフォーカスしています。ご興味をお持ちの方は是非ご期待ください

 なお,調査プロフィールと今後の連載予定はこちらを参照していただきたい。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て,98年にノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。07年には中堅・中小企業のIT部門向けQ&Aサイト「シス蔵」をテクネット社と立ち上げた。