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 今回で中堅・中小企業のITアプリケーション導入実態調査(2008年版)は最終回となるが,前回までに取り上げた各種アプリケーションのパッケージ導入率は,いずれも8割から9割に達していた。中でも基幹系業務は完璧に「作りこみからパッケージ」へとシフトしており,財務管理やERP(統合基幹業務システム)のパッケージ化率は極めて高い。これらは,いずれ「パッケージ導入率ほぼ100%」に到達することが予想される。

 例外は販売管理システムである。販売管理は,業務の“企業固有性”が高いため,かつてはほとんどがオーダーメイドだった。しかし,その販売管理システムでも今回の調査ではパッケージ導入率が63.0%に達していた。連載で取り上げなかった生産管理も同じく企業固有性が高い業務だが,調査結果を見るとこちらもパッケージ導入率は62.2%にまで高まっている。

 調査では,製品間の優劣がはっきりした分野がいくつかあった。例えば,財務会計パッケージの勘定奉行,セキュリティ対策ソフトのウイルスバスターのように,それぞれの分野で独走状態の製品もある。上位2製品で占有率が40%を超える市場では,かなり勝負あった感が強い()。

図1●ITアプリケーションのパッケージ化率と市場寡占化状況。パッケージ化率は高まる傾向にある
図1●ITアプリケーションのパッケージ化率と市場寡占化状況。パッケージ化率は高まる傾向にある

 その一方で,トップ製品のシェアが20%台以下におさまる市場は,今後の展開が読みづらい。どの製品のベンダーにも上位をうかがうチャンスがあると言えるだろう。特に注目されるのがERPだ。ERPは上位2製品のシェアが20.1%で,下位製品のシェアも僅差で接近している。ここで注意すべきは,ユーザーの多くはERPを新規導入するのではなく,既存業務システムを同じベンダーから「ERPにシフト」していることだ。ということは,ERPで特定製品のシェアが抜きん出ることはかなり難しいということになる。

 導入の進む運用管理アプリケーションは,統合型のスイート製品と機能別の製品に分化しつつある。統合型で日立製作所や富士通の製品が安定したシェアを確保する一方,機能別パッケージではクオリティなどのベンダーによる激しいシェア争いが予想される。一方,グループウエアは上位2製品(サイボウズとNotes/Domino)による寡占率が50%を超えている。ただし,新規導入が多いことと,既存のパッケージとの相互運用性などを考慮する必要性が低いため,ベンダーシェアの変動要素は他の分野よりは大きいと考えられる。

寡占化の進んだ分野でベンダーはSaaSに乗り気薄

 CRM(顧客関係管理),SFA(営業支援システム)などの戦略系パッケージの導入率は相変わらず低かった。特定製品のシェア寡占率も低いため,すべてのベンダーの製品に上位となるチャンスがある。しかし,そもそもCRM,SFA,CTI(Computer Telephony Integration)などが今後どの程度導入されるのかという課題がある。

 ここで注目したいのがSaaS(Software as a Service)である。SaaSへのシフトが進むとすれば,Salesforce.comに代表されるCRMのようなフロントエンド系アプリケーションである。財務会計をはじめとするバックエンドの基幹業務系アプリケーションは,パッケージへのカスタマイズを前提とする「自己完結型システム」への要望が高い。なおかつ,ネット越しの外部企業にデータを委託することには馴染みにくいという面も強く,SaaSへの移行はたやすくないからだ。ビジネスモデルの見直しを迫られる売り手側も乗り気ではないという事情もある。となると,簡単に導入することができて,必要に応じていつでも止められるSaaS型のアプリケーションが注目されるのは,SFA,グループウエアなどのフロントエンド/コラボレーション系のアプリケーションということになる。

 SaaSの普及に向けた課題は,本当に使いたいアプリケーションが不足していることだ。有望と見られているグループウエアでも,すでにパッケージを導入している企業が多く,SaaSに切り替える必要性が高くない。さらに,パッケージが普及していて,なおかつ上位ベンダーによる寡占化が進んだアプリケーションになると,パッケージの方がベンターにとってうまみが大きい(=収益性が高い)ため,SaaSへのシフトは進みにくいと考えられる。

 ともあれ,パッケージがSaaSに大きく取って代わられることは当面ないだろう。本年度の調査にもこれから着手するが,正直言って,業務アプリケーションの勢力図が大きく変わる要素には乏しい。SaaSは,しばらくは「パッケージ+SaaS」のハイブリッドな形態でゆっくりと導入されていくことになりそうだ。次回の調査結果に,ご期待いただきたい。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て,98年にノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。07年には中堅・中小企業のIT部門向けQ&Aサイト「シス蔵」をテクネット社と立ち上げた。