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 米Wall Street Journal紙の記事によると,欧州連合(EU)が先ごろ行った「Windows Vista」に対する調査の背後には,米Microsoftのライバルである米Adobe Systemsと米Symantecがいるという。AdobeとSymantecは,Windows Vistaの無償機能が両社の販売している製品と競合することから,Microsoftの出荷を阻止するようEUの独占禁止法(独禁法)担当者に働きかけたのだ。

 AdobeとSymantecの両社が,時代遅れな企業だったとは残念でしかたがない。Adobeは,同社の強力なPDF機能の一部をMicrosoftが無償で提供することに,苦情を訴えている。AdobeとMicrosoftの相違は明らかだ。AdobeのPDF文書作成機能が有料であるのに対し,PDFと競合するMicrosoftの「XML Paper Specification(XPS)」フォーマットは無料で利用できる。PDFは,Adobeが主に「Adobe Reader 7.0」というソフトウエアを無償配布してきたおかけで,デ・ファクト・スタンダードとして広く認知されている。Adobe Readerを使うとPDF文書の表示はできるが,編集や作成は行えない。

 Symantecの苦情はさらにあやふやだ。Windows Vistaの「Windowsセキュリティ・センター(WSC:Windows Security Center)」にはサード・パーティ製品へのリンクを登録できるし,サード・パーティのロゴやアイコンの表示が許可されているにもかかわらず,Symantecは「WSCとサード・パーティ製ソフトウエアとを置き換え可能とする必要がある」と主張している。さらにSymantecは,悪意のあるものやそうでないものも含め,サード・パーティ製ソフトウエアによるWindowsカーネル改変を禁止する新しいセキュリティ機能「Kernel PatchGuard」についても,文句をつけた。これまでセキュリティ企業は,マルウエアに改変されたWindowsカーネルを復元する際,カーネルにパッチを適用せざるを得なかった。Windows Vistaでは,カーネルに対するサード・パーティによるパッチ適用が不可能となり,システムの安全性が向上する。ところがSymantecは,この機能の削除を求めている。

 この苦情に対するMicrosoftの反応は興味深かった。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は2006年の初めごろ,独禁法担当委員のNeelie Kroes氏に書簡を送り,Windows VistaからのXPS削除を望むのかどうか尋ねた。Kroes氏は返信しなかったが,EUは「Windows Vistaに搭載する機能や売り方を決めるのはMicrosoftである」との公式見解を発表した。

 Symantecについては,MicrosoftとSymantecやその他セキュリティ企業は何年ものあいだ協力関係を保っており,Windows Vistaの変更内容を共有してきた。「MicrosoftはWindows Vistaで基本的なセキュリティ機能しか提供しないので,これまでと変わらずサード・パーティ製品が入り込める領域は大きい」とMicrosoftは主張している。Windows Vistaでは,Symantecを含むサード・パーティ製品の情報は,WSCでも提供する。

 この問題の要点をまとめよう。10年前の暗黒時代,Microsoftは競争相手を傷つけるだけの目的でWindowsに「Internet Explorer(IE)」を組み込もうとしており,こうした行為は簡単に競争阻害と断定できた。Webブラウザやインスタント・メッセージング(IM)アプリケーションなどの機能をOSに同こんしたり,OSの深い部分に組み込んだ入りすることの必要性については,議論する余地がある。しかし現在,Windowsのセキュリティ向上を悪と主張することは,ほとんど不可能だ。こうした変化は必要とみなされるだろう。

 実のところSymantecとAdobeは,楽に収益を上げられるビジネス・モデルが終わりかけていることを懸念している。セキュリティ上の脅威の存在は,Symantecやほかのセキュリティ企業の売り上げと収益を維持するのに役立つだろう。しかしWindowsのセキュリティ強化は,(セキュリティ企業だけでなく)あらゆる人の利益になる。一方Adobeは,「まだPDFファイル編集用の低価格製品をそれほど出荷できていない」としている。XPSによってPDF編集/作成の価格的な敷居が下がれば,消費者にも利益がある。

 要するにMicrosoftのライバル企業は,独禁法担当者に自社に好都合な話を持ち込む方が,簡単でコストもかからないと判断したのだろう。これらライバル企業が顧客対策にもっと多くの時間を割き,合法的に自社製品の改良に取り組んでいるMicrosoftへの攻撃を減らしていたら,今回の問題は起きていなかっただろう。

 筆者は,MicrosoftのIE同こん戦略に強く反対してきた。今でもIE同こんの判断は間違いだったと思う。セキュリティの低い状態が10年以上も続いて,現在もユーザーが苦しめられているのは,IE同こんが元凶だと感じる。しかしAdobeとSymantecの苦情は,10年前にNetscapeが訴えたものと全く関係ない。現在Microsoftは自社のユーザーに,正しく対応してる。